第27話雪絵と重森その5
雪絵は主治医の出井先生に、ちゃんと便は出ている。少し痩せているらしいと友人らから指摘されたことを伝え、すると主治医の出井先生は、
「それならば次回の診察のときに、採血をしましょう」
そのように雪絵に言って、採血の予約を取り付けて、雪絵はいつも通りに二ヶ月分の薬の処方箋を貰って、雪絵は主治医の出井先生にサヨナラをした。
会計を済ませた後、タワーの建物の一階に入っている薬局で薬を貰うと、待ち合わせ時間のちょうど約三十分前になっていたことに、雪絵は気が付いた。待ち合わせ場所は歌舞伎町の、テレビで歌舞伎町のボッタクリの特集が組まれたら必ず目に入る、あの交番の前である。
病院が入っているタワーの建物を出て、交番のところまで歩いていると、新宿区では路上喫煙が条例で禁止されたにもかかわらず、タバコのポイ捨てが普通にされているのを、雪絵は見かけた。
(タバコでも吸っていたら……きっと私のこと……嫌ってくれるかな……重森君……)
だがこれから男の子と会うのである。タバコの匂いを服に纏うなんて、雪絵にはとても出来なかった。
約束をしていた時間の約十五分前になって、重森はやってきた。時間は守る人なんだな……と思って、雪絵は安心した。
「ゴメンネ! 待たせちゃった?」
「うううん……私も今さっき病院が終わったところで……」
「じゃあ行こう! と言っても、ここからそんなに遠い映画館じゃないんだ」
重森に実際に連れて行かれた映画館は、ちょうど新宿コマ劇場の前に広がる広場の、奥にあった。確かに待ち合わせの交番から、そんなに歩かない。
重森が前売り券を二枚出す。
「あのっ……お金は……」
雪絵が財布を取り出そうとすると、重森が制した。
「良いんだよ笹森さん。俺が誘ったんだからさ!」
そして二人で劇場に入る。オタクに受けが良いアニメなせいか、オタクっぽい男性が数名いるだけで、劇場はガラガラだった。曜日と時間もあるのだろうが、本当にガラガラ。
「笹森さん。上映中のどが渇くだろうから、何飲む?」
自分で買うから良いよ……と雪絵は言いそうになったが、ここは重森に甘えることにした。
「あっ……じゃあ……お水で……」
「オッケー。じゃあ俺はアクエリアスにしようかな」
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