第26話雪絵と重森その4
雪絵は大学の春学期は金曜日は二限で授業が終わる。病院は午後の三時半からである。なので金曜日の授業がすべて終わった後で、一旦家に帰って、準備をする。季節はもう夏と呼ばれる時期である。自宅のシャワーで午前中にかいた汗を流し、もう昔のように日に焼けたくないので、長袖のブルーの、リボンが付いた服を上に羽織り、青のチェックのスカートを履いた……途端にスカートが、雪絵の足元へとすり落ちた。
(えっ? なんで? 高校のときは普通に履いていたのに……)
しょうがない……。ベルトで調節しようと思いながら、
(ああ私……本当に痩せたんだ……)
コンタクトレンズなんで目に入れるのは何年振りだろう? 中学のときから視力は変わらず右目が1.0で左目が0.1のままである。当然ながらコンタクトレンズは、左目だけに入れれば良い。ちなみにいつもかけているメガネには左目だけに度が入っており、当然ながら右目には度は入っていない。
雪絵にとって新宿という街は、いつ来ても慣れないものである。もうさすがに駅の出入り口などで迷うことはなくなったが、歌舞伎町の裏にそびえるタワー内に入っている病院に、慶応病院の時代からお世話になっている消化器外科の、雪絵の主治医の出井先生が、歌舞伎町のこの病院に異動になると聞かされたときは、それはそれは落ち込んだものだ。
消化器外科の待合室はとても狭い。雪絵は待合室の長椅子に腰掛けると、ふと隣に週刊誌が置いてあることに気がついた。
その週刊誌をペラペラとめくっていると、特集で秦野の『煙草祭り』という記事を見つけた。
(タバコなんて……百害あって一利なしなんて言われているのに……なんでこんなお祭りがあるのかしら?)
不思議なお祭りが、日本には存在するのね……。そんなことを雪絵は考えていると、
「笹森さん、笹森雪絵さん。三番診察室へお入り下さい」
と、主治医である出井先生からの、呼び出しの声が聞こえた。
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