第36話 復学

 2LDKのリビングの窓からは奥のキッチンまで日差しが差し込んでいた。

 七月に入りこの三日間、ずっと猛暑日が続いている。その影響もあって、外は炎天下。エアコンがフル稼働しているが、トイレや風呂場は最悪と言っていいほど熱気がこもっている。

 それでもリビングに居れば快適で、冷蔵庫にはアイスやジュースもあるのだから、結構贅沢なものだと思う。

 現在午前八時半。俺はリビングのソファーに座りながら、携帯で動画を見ていた。動画の内容は国内トップクラスのユーチューバーが発信するものだ。


「ぶっはは! うはははっ! めっちゃ面白れぇな、この人!」


 今日もとても面白かった。子供用のおもちゃを無茶苦茶な使い方で、仲間と一緒にバカな遊びをやったりしていて、ゲラゲラ笑ってしまった。 

 コメント欄を見ていると、絶賛するコメントが多く、評価もグッド数がたくさんつけられていてSNSでトレンド入りも果たしている。

 そして昨日、俺が投稿した動画は次の動画一覧にあるが、棗ちゃん達と撮っている時よりも再生回数は落ちており、コメント欄を見に行ってもほとんど不評だった。

 

 棗ちゃんが家へと強制的に連れていかれてから、はや、二週間弱。

 一人で動画を撮りつつ、投稿しているがコメントではなんで一人で動画を撮っているのかと、続々コメントされている。

 そこには、俺が一人で動画を配信する理由が有ること無いこと、書かれている。

 そろそろ、解散したという報告動画をUPしなければならないだろう。

 加えて俺も ユーチューバーをやめるつもりなのでそのタイミングにチャンネルの削除をしようとも思っている。それも動画にするつもりだ。それで最後くらい再生回数を稼げるかなと割と俺は卑屈になっている。

 だが、なぜかなかなか動画を取る気になれないのだ。

 

 しかし、そんなことを言っていても意味はないので、そこで思考をとめた。

 あらかた動画も見終わり、やることもなくなった。俺はスマホをスリープモードにして机に置いて、そこから離れようとした瞬間、すぐに画面が明るくなり、メッセージアプリの通話機能が起動する。

 面倒臭くて放置しようかと考えたが、連絡を寄越してきた相手は無視するとそっちの方が面倒臭くなるので、俺はすぐに通話のボタンを押した。


「もしもし?」


「あ、もしもーし? おはよう! 今、家にいるよね?』


 画面越しに元気な声が聞こえてくる。柚梨だ。


「おう」


「じゃあさ、今から迎えに行くね。学校、復学したんだよね?」


「復学はしたが、今日は暑いから行く気はない」


 俺は学校関係で親と喧嘩したことにより、休学していた。

 そこからユーチューバーを始めたわけだが、もうユーチューバーをやめるのでやることもなくなるだろうし、今ではなんで大学を休学したのかと思う。

 なので、大学を復学したのだ。先週の金曜日に復学届が受理され、月曜である今日から出席ができるようになっている。

 しかし、どうにも学校というものは休む期間が長いほど行きたくなくなるものだ。今日は休んで明日から行こうと考えていた。


「いや、これから毎日暑いのにそんなこと言っててどうするの?」


「どうするって言ってもな。明日から行こうと思ってたよ」


「それ、絶対行かないパターンだよ! 明日明日って言ってる内に半年、一年と経って辞める典型的な大学生になるよ!」


「その通りだと思う。その通りだと思うが、今日は見逃してくれないか?」


「ダメに決まってるでしょ! てか、今日学校に来てもらわないと困るんだよ」


「何かあるのか?」


 柚梨が不思議なことを言ったのでとても気になった。

 俺が学校に来ないと困る? 意味が分からん。


「まぁまぁ、とにかく迎えに行くから準備してて」


「はいよ。それなら、プリンでも買ってきてくれないか?」


 俺が行かないと言っても迎えに来るというなら、連れ出されることは確実だ。

 大人しく従う方が賢明。


「贅沢な事言うね」


「頼むよ」


 我ながら図々しいとは思うが、あいつの家からここまでにコンビニがあるし、それくらい別に良いだろう。


「まぁ、今日は元よりそのつもりだし良いよ」


「ん? もとよりってどういう?」


「ああ、別に何でもないよ! どうせ今日もパシられると思ってたってこと」


「俺、そんなにお前をパシってたっけ?」


 どちらかというと俺の方がパシられてると思うんだけどな。


「なんだかんだね。あーあ、私もパシられる事、予想してるとか奴隷根性染み込んでるね。湊くんは最低な男だよ。人間のクズだね」


 柚梨は棒読みでわざとらしく喋る。

 そして、俺を罵る部分だけはガチトーンでしゃべるのはやめて頂きたい。


「ひでぇな。俺そんなつもりないんだけど」


「女の子を一回でもパシらせてる時点で最低のランク付けされるから。そこんとこよろしく」


「厳しいのな」


「ふふふっ。まぁ、とりあえずそっちに行くから、準備して待ってて」


「ああ、分かった」


「じゃあね」

 プツンと電話が切れると俺は学校へ行く準備をするべく、ノートや筆記用具、パソコンを鞄に入れ始める。

 久しぶりの感覚だ。

 なんだか、ずる休み的な後に学校へ行くのって得も言えない気分になるよな。

 そんな風に変な感覚を楽しみながら柚梨が来るのを待った。

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