第34話 表彰

「…………の以上からここに表彰いたします。加川警察署署長、半田はんだ宗徳むねのり


「ありがとうございます」


 立派な口ひげを蓄え、恰幅の良いハゲたおじさんから俺は感謝状を受け取ると、周りから暖かい拍手が起きた。


 これは先日、生放送の時に強盗を働いた田中一家を捕まえた、そのお礼だ。

 もちろんネットでは大激論だった。

 ヘリコプターで追い掛け回す行為や、強盗を相手に遊び半分で対応したことなどがやり玉にあげられ、やっぱり炎上した。


 しかし、炎上と言っても今回はそこまでではなかった。

 いつもに比べ、好意的なコメントは多かったし、高評価も多くついている。

 炎上させているのは多分アンチと変な報道をするマスコミに踊らされた輩だろう。あとは、便乗したネット民だった。


 所長室で行われた感謝状授与式は俺と棗ちゃんと久他里さんが参加した。柚梨や元軍人の皆さんは時間が合わないようで辞退してここにはいない。

 ここにいる代表で俺が感謝状を受け取ることになり、こうして署長と対面している。

 主に未成年のユーチューバー、それも生配信中に手柄を挙げたということもあり、いくつかの報道機関もやってきていた。

 テレビなどに映るといっても基本的には俺と久他里さんとくらいだ。

 棗ちゃんは映さないように記者やカメラマンには伝えている。未だ、顔出ししていない棗ちゃんはかなりの美少女だ。それをテレビやネット記事などで伝えることができれば、結構な興味を集めるだろうと、彼らは考えたのだ。


 交渉するときには割と難航した。報道の権利がどうのこうの、ユーチューバーならもはや一般人ではなく、報道される側であるだとか。

 その時、心の中では、権利という名の凶器を振り回す、とんでもなく傲慢な人たちだと憤ったものだ。

 一応、ユーチューバーとして表彰されるのだから、顔出しは今後の活動に影響すると言って、収めた。


「感謝状を頂けて良かったですね。これで、軽犯罪くらいなら減刑されますから、ちょっとくらい動画で過激なことをしても怖くないですね」


「おいおい。それはいくら何でもここで言うのはダメだって」


「もちろん、冗談ですけどね。うふふっ」


 署長に一礼した後、一言二言、頂いて俺は棗ちゃんの所へ感謝状を持っていく。

 すると、彼女からそんなことを言われた。

 最近、棗ちゃんがちょっと悪い子になってきたような。警察署長もめちゃくちゃこっち見てるし、記者の人は何やらメモを取っているようだ。

 冗談だろうが彼らの前で言うことではない。


「まぁ、その感謝状は過失とかの事故だったり軽い刑罰のものだと役に立つから、その子の言うことは合ってるし、私が伝えることでもあったしね。はははっ! 先に言われちゃったよ。案外、表彰状が助けてくれることを知らない人が多いんだ。それを知った人の驚き様を楽しみにしてたんだけどね。でも、人によっては不快に思うだろうから気をつけなさい」


 署長は苦笑して、棗ちゃんに記者たちにそう言う。そして、報道関係者を部屋から自然に返した。マスコミはこういうのも見逃さないだろうから、署長が気を利かしてくれたようだ。

 警察組織に所属するだけはある。かなり気の良い人で良かった。

 最初は見た目から、ドラマとかみたいに金に汚いハゲおやじだと思ったことは墓場まで持っていこう。ごめんなさい。


「す、すみません」


 棗ちゃんは自分の過ちに気づいたらしい。

 ぺこぺこと頭を下げていた。

 彼女は悪いと思ったことは素直に謝ることが出来るいい子だ。

 それゆえ、ここのところこういうことが多くて気になっていた。

 この間も、学校をずる休みして俺のところに動画を撮りに来たりしてたしな。

 もともと、ぶっ飛んだ行動を起こすから、それが悪い部分として出てしまったのだと思う。いや、そう思いたい。

 そうでなければ………………。


「なっ、この先はダメですよ! いくらあなたであっても許可なく入ってはいけません!」


「うるさいっ! 今、そんなことはどうでもよい! 失礼する! ここかっ! ここにいるのかぁ! 棗ぇぇ!」


 棗ちゃんのことを考えていると、大声を上げてドアを蹴破るように一人の男が入ってきた。

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