第33話 終戦
「勘弁してくれ! もう逃げないからっ!」
「たのむぅぅ! 殺さないでくれ! 俺らが悪かった」
「ひっぃぃ!」
目出し帽を被った三人の男達は口々に命乞いを始める。
別に殺す気はないのだが。
だが、恐怖のおかげで彼らは動けないでいる。男達は膝をつき、震わせていた。
足が竦むとはこういうこというのだろう。
そして、動けなくなったこいつらを処理するのは早かった。さすが、元軍人と朱鷺坂の使用人達だ。
林から木をいくつか持ってきて組み上げ、一人ずつロープで縛り吊るし上げた。
まるでゴルゴタの丘で磔の刑にされたキリストのようだ。
そして、棗ちゃんがビデオカメラを持って撮影を始める。麓朗や和真とは何故か連絡が取れずにいたが、撮影は続けてと伝言があった。
なので五人いた強盗の内、一人はまだ本部にいるのだろう。
あと、一応何かあった時のためにAチームの元軍人たちに和真のところへ向かってもらった。
で、今から強盗の謝罪会見を開く予定である。
「皆さん、こいつらが先程銀行強盗を起こした馬鹿野郎です!」
今頃、画面の向こうには無残に吊るされている四人の男が映っていることだろう。
「さぁ、日本全国の国民と強盗した銀行に謝ってね」
柚梨が木の棒で、一番右端の男の腹をつつく。
「クッソ! 覚えておけよっ!」
さっきまで震えていたくせに、ユーチューブに映っていると分かった途端、この態度だ。
どうせ、俺達が大それたことができないと思っているのだろうか?
それは甘い。謝罪会見を拒否するならそれ相応の手段で謝罪させるつもりだ。
「おい、うるさいぞぉ! 早く謝ったらどうだ?」
先ほどまでBチームのメンバーとして参加していた、ケルビンが男の頭の上を狙ってガス銃を打ち込んだ。
ケルビンは褐色の肌にごつすぎる太い腕と電柱でも敵わないような筋肉まみれの脚の持ち主。朱鷺坂家の警備員らしいが、それまではどこかの国の王を護衛していたらしい。
ケルビンが撃った銃から放たれた弾は縛り付けていた木に穴を開けた。
これが当たったらひとたまりもない。無論当てたりはしない。
男もそれはわかっている。分かってはいるが、やっぱり恐怖を感じるようだ。情けないかな、すぐに大人しくなった。
「分かった! 分かったからぁ! 撃たないでくれ!」
「最初からそうしてればいいのに。ほら四人みんなで謝って?」
何故かS気味な柚梨。
この状況で俺に嗜虐心があるかないかと言われれば、あると答えるがそれでも生放送で彼女みたいなことをやる自信はない。
生放送出なくてもしないがな。
「「「「すみませんでした!」」」」
頭だけを垂れる強盗達。
目出し帽を取ってやっても良かったが、さすがに晒すと問題になるかもしれないので、そのままだ。
今頃、コメント欄には顔を出せといった文言が書き連ねられているはずだ。
しかし、やっていいかは分からないので諦めた。
「次は名前を言ってもらおうか?」
名前くらいは良いだろう。
「ほら、早く、ね?」
柚梨はまた棒でつつく。今度は左端の男だ。この中で一番ガタイが良く、強そうだが吊られている状況ではただの生きた肉だ。喋る肉でもある。
「
「次」
田中隆と名乗った男の隣の胴長の男を棒でつついた。
「
また、田中か。
でも日本には田中姓は多いから不思議ではない。
「次」
「
お前もか。これは流石に多すぎやしないか? 四人中三人が田中とは。
「次」
田中について気になっていたが、めちゃくちゃ、柚梨が悪魔に見えてくる。
棒で突いて発言を促す彼女の目には慈悲などなかった。
マジで怖い。
「田中オマリーです」
全員、田中かよっ!
てか、最後の奴、ここまで来たら下の名前も日本に合わせてほしかった。
もし、できるなら、田中〇クス闘莉王でいてほしかったわ!
「って、もしかし全員兄弟とかあるんじゃね?」
ケルビンがふとポツリ漏らした。
「「「「あ、そういうことね」」」」
みんな何故か納得した。俺もいま、しっくり来たところだ。
四人人間集めて、四人とも田中。それで別人というよりは、兄弟という方が確率的に高い。
「で、兄弟なのか?」
俺は聞く。純粋な興味だ。動画的にも面白いけどな。
「「「「はい」」」」
兄弟みんなで強盗とか恥ずかしくないのか? こんな世の中には困ったものだ。
「もしかして、もう一人も兄弟なのか?」
「「「「いえ、父です」」」」
おい! お前ら家族何してんだ!
母親はどうした⁉
今頃、泣いているんじゃ?
「お前達の母親は?」
「「「「病気で病院に居ます。治療費を稼ぐために強盗しました」」」」
一気にいい話だ! いや、罪を犯している時点で良い話ではないんだが、こいつら解放したくなってきた。
そうして彼らの事情が世にさらけ出されていき、尋問生放送はいつしか慰め会になっていた。
現在の田中兄弟は降ろされ、ロープで軽く縛られているだけだ。
そろそろ、呼んでおいた警察も来るだろう。いろんな意味で可哀想だから、引き渡してもいいと思う。もう十分、制裁は受けたはずだ。俺達からは。
彼らにはしっかり日本の法律で罰が下る。そこで反省してもらおう。
と、そんなことを考えているとやってくるのが警察なわけで。
「おい、こら! そこで何やってるんだ!」
「通報通り、モデルガンを持った強盗犯を見つけました。五人ではなく、十人以上います! 一般人が捉えられています。至急、応援を!」
『了解。必要ならば、機動隊も派遣する』
『こちらでは眼鏡をかけた男二人を拘束しました』
「そこのお前達! モデルガンを捨て、そこに膝をつきなさい! 手をあげて!」
わらわらと走ってくる大人数の警官。
俺達が犯人だと思われているようだ。
なぜなら、銃を持っているのは俺達。
縛られているのは田中兄弟。
その周りに厳つく、いかにも犯罪者っぽい外国人の男数人。
「オイ、ミナト! こいつら倒していいのか?」
「俺は一度、ジャパニーズポリスと戦ってみたかってみたかったんだ!」
その外人達はナイフを手に持ち、今にも警官達と相まみえそうだった。
「いいわけないだろおおおおおおおおおおっ! 大人しくしてろっ! てめぇの眉間、ブチ抜かれるぞ! 日本の警察はいろいろ言われてるが撃つときは撃つんだからな!」
外人組はこんな調子なわけで。
そりゃ、勘違いされて当然だ。言い訳はできなかった。
素直に俺達は膝をついた。
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