第32話 強盗VS機関銃

「最初はあの離れた岩に撃ちますね」


「ああ」


「では行きます!」


 棗ちゃんがそう言い放った瞬間、


 ドガガガガガガガガガガッ!


 銃口から弾が発射され、爆音と衝撃が伝わってきた。そして、大きく頑丈そうな岩が一瞬で砕けた。


「す、すごいです! 楽しいですね!」


「ええええええええええええ!」


 彼女は初めての体験に感動しながら、喜んでいた。

 だが、俺は驚きで叫んだまま口が開いた状態になってしまう。

 なぜなら、岩が木っ端微塵に砕けたからだ。

 ゴム弾ならたとえ、重機関銃であれ岩が砕けるなどありえない。だが、岩は砕けた。

 つまり、


「実弾じゃねぇかっ!」


 ということだ。


「おかしいですな。実弾入りでしたか。はっはっはっ!」


「笑い事じゃないですよ! もし、撃ち殺してらどうするんですか!」

 

 生放送で人を肉片に変えるとかただ事じゃねぇぞ!

 トラウマなんてレベルじゃない。最早、カルト的な何かだ。


『おっと、機関銃から実弾が発射されたぞ! さすがは炎上系ユーチューバーだ! 容赦がないぜ!』


「あははは! 次はどこに撃ちますか! 私、こんな体験初めてです! 気持ちいいですぅ!」


「あいつは何を煽ってんだ! って、棗ちゃん⁉」


 なぜか、棗ちゃんがラリってた。

 目が虚ろだ。

 これは、アレか? 銃を撃つ快感に取り憑かれるとかいうやつか?


「どいつもこいつも! 柚梨、棗ちゃんを頼む!」


 俺は銃に取り憑かれた棗ちゃんを機関銃から引きはがし、後ろにいる柚梨に任せようとしたが、そこにはいなかった。


「これ楽しいなぁ。うふふふふ!」


 ガガガがガガガガガガガッ!


 彼女は隣で俺達が先ほど撃ったヤツと同じ型の機関銃を乱射していた。

 柚梨に理性はないみたいだ。

 幸いなのは人を目がけて撃ってないだけマシだった。

 勿論、目からは光が失われている。


「お前もか! てか、もう一機何処から持ってきたんだよ!」


「一応、予備を載せておりまして」


「本当にいらんことしてくれるな」


 思わず絶句した。

 とりあえず、俺は二人を銃から離れさせ、落ち着かせる。


「「一体私は何を?」」


 棗ちゃんと柚梨の目に光が宿り元に戻った。

 ハッと気づいた二人は辺りを見回している。


「「あ、敵を撃たないと」」


 彼女らは再び機関銃のトリガーに指をかけようとした。


「させねぇぇぇ!」


 棗ちゃんと柚梨が狂乱状態になる前に俺は必死に止めにかかった。


「それで、どうしますかな? 機関銃はもう使えませんからな。どうやって捕まえますか?」


「機関銃が使えないのはあんたのせいでしょうが。ま、動画のオチ的にも何かしないと。それにしても、あの強盗ども、やけに足が速いな。元軍人達から長いこと逃げ回ってるぞ」


 開いたドアから俺は全力で逃走している強盗達に目をやる。


「逃げ足は一人前ってところかな。強盗をしたこと考えると、人としては半人前もいいところだけどね」


「そうだ。いいこと思いつきました!」


 棗ちゃんがポンっと手を打って、そんなことを言い出した。


「ん? いいことって?」


「はい、強盗を捕まえられることができて、かつ動画的に面白く終われる方法です」


「そんなアイデアがあるのか?」


「もちろんです。簡単なことですよ! ヘリで先回りして、挟み撃ちにすればいいんです。そして強盗を吊るし上げ、銀行の皆様に、国民の方々に謝罪させましょう! そうすれば、面白くないですか?」


「た、確かに!」


「棗ちゃんは天才だよ! 今回は炎上するどころか、ネットは盛り上がりそうだね!」


 柚梨の炎上という言葉に引っかかったが、まぁ今日の動画は大丈夫だと思う。

 それに最近、もう炎上商法でもいいんじゃないだろうかと俺は考え始めている。 そういう方法もあるし、なにせ、一部からは熱狂的に支持されてもいるのだ。

 このままいけば、動画の収入も上がっていくだろう。今日みたいな動画は無理だが、金銭的な面もある程度はどうにかなる。

 それにいつまでも、棗ちゃんとユーチューバーをやり続けられるわけじゃない。

 彼女は最近まで良いところ過ぎるお嬢様だった。これから進む道はいくらでもある。

 もちろん、彼女がどの道に進んでも俺は止めはしない。だが、俺もいつまでもユーチューバーをやっていられるわけじゃないのだ。

 そうなった時、楽しかったと言えるように今だけは、無茶をしてもいいだろうと思い始めていた。


「よし、やろうか! セバスさん、よろしくお願いします」


「かしこまりました!」


 ヘリが速度を上げ、元軍人のおっさん達や強盗共の頭上を越えていく。そして、ヘリは強盗達の目の前に降り立った。

 吹きおろしの風が彼らの身動きを取れなくする。

 すさまじい粉塵が巻き上がり、草花は今にも千切れて飛んでいくよう。砂埃で目をやられないために強盗達は腕で目元を守っていた。

 やがてヘリのローターが止まり、俺は機関銃をそいつらに向けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る