第31話 お嬢様と機関銃

「皆さま、逃走中の犯人達を窓から探して下さい。できるだけ低空飛行をいたしますので。すぐに見つかると思います」


「ここにある機関銃のようなものは何でしょうか?」


 それに関しては触れないでおこうと決めたのに! 

 そんな俺をあざ笑うかのように久他里さんへ問う棗ちゃん。


「見つけたら、そこにある重機関銃(ブローニング)で銃撃してもらって構いません」


「いいわけないでしょ! 人が死にますよ!」


「いえ、改装してゴム弾を打てるようにしてありますから。中身はただのゴム弾です。負傷の恐れはあっても死傷の可能性はありません」


「いや、負傷もダメでしょう!」


「冗談です。少し痛いくらいですから」


「まぁ、それなら」


 頷いた俺だが、どうにも信用できないから、どこかに試し撃ちしてからにしようと思った。


「ああ! 見つけました! あれじゃないですか? 明らかに見た事のない人たちがいます!」


 棗ちゃんが左側の窓へ顔をへばりつかせながら叫び、俺と柚梨はすぐさまそこに駆け寄って、窓の外を見下ろす。

 そこには俺達の後ろで縛られている男と同じ格好の集団が三人走っていた。

 まず間違いなく、侵入者どもだろう。

 しかし、逃走中の侵入者達は目が血走っていて、鬼にでも出会ったかのような形相で必死になっていた。

 気になってよくよく侵入者達を観察すると、その後方にはAチームとBチームの元軍人たちが追いかけまわしている。

 まるで獲物を見つけた獣、いや、久々の敵を見つけた彼らは狂ったように狩りを楽しんでいるキチ〇イだ。


「ドアを開きますぞ! ヘリから落ちないようにベルトと紐をしっかり結んでください!」


 久他里さんはドアを開くとよりヘリの高度を下げ、侵入者達に近づく。


「「「ひぃぃぃぃぃ!」」」


「ハハハッ! 久々の戦場だぁ! 者ども容赦するな!」


「ヒャッハァー!」


「血が滾るぜ!」


「イラク戦争を思い出すなぁ!」


「ああ、全くだ! 俺はベトナム戦争も思い出すぜ! あの時、お前とは敵だったけな!」


 追いかける元軍人達は本当に楽しそうにしていた。

 最早、どこかの世紀末漫画にしか見えん。

 俺は彼らから目を逸らした。


「よし、とりあえず機関銃を試し打ちしないと!」


「私にやらせては下さいませんか?」


「え? いいけど。まずはどこかに試し打ちしようか。どれくらいのモノか確かめないと狙うのも難しいし」


「はい! では打ち方は……」


「お嬢様。両手でグリップを握って、親指でトリガーを下に押していただければ打つことが出来ます」


「ありがとうございます! では早速。あ、後ろから支えて下さいませんか? なんだか怖いので」


 棗ちゃんが、俺に向かってそう言ってくる。

 かわいいなぁ、おい!

 俺は了承して彼女の背後に回って棗ちゃんがグリップを握った手の上から自分の手を重ねた。


「なんだか、緊張しますね」


「そうだね。と、とにかく撃ってみようか」


「…………いやらしい。死ねばいいのに」


 後ろで柚梨からなぜか殺意が向けられたが、振り向く勇気がないので気付かなかったふりをして、棗ちゃんと共に機関銃のトリガーに指をかける。

 開いたドアから猛烈な風が吹き込んできて、棗ちゃんの髪が荒ぶっていた。

 うあぁ。いい匂いがする!

 いかんいかん! これではただの変態だ。

 一旦、深呼吸をして心を落ち着けよう。

 

 すうううううううううう! 

 

 口呼吸は埃が喉の所に入ってきてはいけないからな。鼻呼吸にあるのは仕方ないだろう。

 うん! 仕方がない。

 もう一度、深呼吸しておこう。 


「おい。いい加減にしろ! 八つ裂きにするぞ?」


 二回目の深呼吸しようとしたら左肩に手が置かれ、柚梨に耳元で囁かれた。

 ついでに頬のあたりにコンバットナイフが突きつけられたような。

 気のせいだと思いたい。

 恐怖で俺は過呼吸になりそうだった。

 つまり、


「実弾じゃねぇかっ!」


 ということだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る