第30話 逃走中
『もしもし? そっちからかけてきたってことはやっぱり、何か起きてる? 今、緊急事態だから放送をいったん止めてるんだ。五人ほどこの敷地に侵入してね。因みに一人は捕まえてある。しかも全員銃を持って顔を隠してる。事実を確認中だけど近くの加川信用金庫で強盗があったらしい。そいつらが逃げてきた可能性が高い』
「そうですか。ではどうしますか? 先ほど柚梨さんがその強盗と思われる方をこちらも一人捕らえました」
『それは本当か? もしよかったら尋問してくれ。銃は本物かどうか。銀行で強盗を働いたのかとか。とりあえず、通話から映像通話に切り替えて』
「分かりました」
棗ちゃんは和真の言う通りに映像通話に切り替え、画面のカメラを男の方に向ける。
「棗ちゃん、今から、この男を拷問すればいいんだね!」
「拷問じゃねぇよ! 優しく尋問だ。拷問なんかしたら犯罪だろうが! 一体何考えてんだよ」
柚梨がハンドガン持ちながら、嬉々として何かをどつくようなふりをしたので慌てて止める。
さっきからなんでこいつは物騒なんだ!
「ごめんごめん。サバゲーの緊張感でアドレナリンがあふれ出しててね。つい、興奮しちゃったよ! もうびしゃびしゃ」
柚梨は反省するどころか体をくねり、卑猥な言い方をする始末。
全く手に負えん。
「知ってるか? アドレナリンは皮膚からは出ないんだよ」
「粘膜からは?」
「でねぇよ!」
「じゃあ、おま「それ以上しゃべるなっ!」」
いくら、カメラが止まってるからって猥褻な言動をさせるわけにはいかない。
なんとか口を塞いで黙らせた。最近は大人しかったが、柚梨は割と下ネタが好きだ。
異性交遊に関しては厳しいくせにだ。
「とにかく、質問してみましょう」
「そうだね。今の状態だと生放送できないし」
それから、男にいくつか質問をしてみたところ。最初は喋ることを渋っていたが、柚梨が銃を使って脅しをかけるとすぐに男はすぐに話し始めた。
銃が偽物であること、しかし刃物は持っていること、そしてそれらを銀行で強盗に使ったことだ。
「という訳らしい。どうする?」
『よぉーし。銃が偽物ならこの生放送を再開しよう! 今からは逃走中に切り替えようか』
「何言ってんだ。いくら面白そうなシチュエーションだからってそれはまずくないか? ここには棗ちゃんや柚梨がいる訳だし。危険な目に遭わせるわけには」
『二人には実況席にでも来てもらうさ。というより、ヘリに乗ってれば大丈夫だろ?』
「だからそういう問題じゃないって」
『なんだ? 面白そうなシチュエーションってお前も認めてるじゃないか。そうだろう?』
「それはそうだが」
『だったら、いいじゃんか。じゃ、それでよろしく。そっちに久他里さんを向かわせる。因みにBチームとCチームはいま進入者たちを捜索中だ。じゃあな』
「おい、待て! 勝手に決める……な、って切れた。どいつもこいつもイカれてんな!」
通話が切れた大体五秒後くらいに周囲のカメラが起動する音が聞こえてきた。
『皆さん、急に放送が止まってしまい申し訳ありませんでした。実はこのフィールドに侵入者が現れるトラブルがありました。現在も問題は解決してませんが、ABCの三チームが協力して犯人たちを捕まえることにしました。侵入者たちは銃を持っていますが、偽物らしく、今からは逃走中に切り替えて放送します。では、引き続き楽しんでください!』
和真の実況も再開し、どうやら強盗どもを捕まえなくてはいけなくなったらしい。
ここで、抵抗してもしょうがないので柚梨と棗ちゃんの安全を第一に捕獲作業に入ることを決めた。
捕獲した男に関してはこのまま放置するのは、得策ではないとしてヘリに載せることにした。
その準備をしていると、俺達が油断した一瞬の隙に男が逃げ出した。
「あ、逃げられた!」
「追いかけますか?」
「いや、しょうがない。危ないし諦めよう」
男は全速力で戦車の方へと逃げ、この場所からぐんぐんと離れていく。
だが、戦車を通り過ぎたとこで男は五〇発近くの銃弾に撃たれた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
近づいてみてみると、久他里さんがマシンガン(エアガン)をフルオートで一斉掃射していた。
本当の戦争なら確実にハチの巣の血まみれ状態だろう。
それにしても容赦ねぇな。
「すみません、遅れてしまいました。和真殿から連絡がありましてな。念のため色々と武器を装備しなおしておりました。早速ですが、ヘリに乗り込みましょう」
「え、ええ。分かりました」
そうして男を再確保し、ヘリに積み込む。操縦席には勿論、久他里さんが座り、その後ろには俺や柚梨、棗ちゃんが待機する。
戦車は使い道がないし、誰も動かすことが出来ないのでとりあえず放置。
ヘリはものすごい音を立てながら離陸し、一気に空へ上昇した。
しかし、気になることが一つ。ヘリの中に機関銃みたいなものが鎮座している。 アニメなどでよく見かけるやつだ。気にしないでおこうと決めたが、やはり気になってしまう。
柚梨の事に関してもだが、なぜこうも知りたくないような事が俺の前に現れるのだろうか。
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