第29話 侵入者

 俺達は草地エリアの進入禁止地域へと走り出す。

 辺りにはほとんど何もないので、敵が居たらすぐわかるだろうが、如何せん三つのエリアの中で圧倒的に広い。敵と遭遇する確率はそこまで高くないだろう。もし出会ったとしてもその時は距離があるはずだ。

 本物の銃ならばともかくこれは電動ガン。それほど遠くまで届くことはない。出会っても弾がとどかなければ無問題である。


「確か、アイテムを誰かが獲得したらスマホに連絡が来るんだろ?」


「みたいだね。まだ来てないからどのチームも手に入れてないと思う。でも、私達がヘリとか戦車を獲得しても運転できないし、どうするの?」


 柚梨の言うことはもっともな意見だ。俺たちのチームでは運転できるのは多分、久他里さんだけだろう。もしかしたら、麓朗が出来るかもしれないが。


「ヘリや戦車なんて強力な武器を敵に持たせるわけには行かないし。それに、手に入れずにその周りにいるだけで、やって来た敵を待ち伏せできるだろ?」


「つまりは、別に乗りこなす必要はない、確保するだけで充分だってこと?」


「その解釈で間違いないよ」


 敵チームはただでさえ強いのにアイテムが手に渡ったら最悪だ。

 それに、さっきから聞こえてくる実況は殆ど各チームの動向ばかりだ。

 戦闘の様子が窺えないということは他のチームもアイテム獲得が最優先事項ということだろう。

 

 なにせこのアイテム争奪戦のいやらしい所は、二つのアイテムが同じ場所にあることだ。

 三チームあるうち、獲得できるのは最高で二チーム。つまりは獲得のために、二チームが協力するということも考えられるのだ。

 もし、他の二チームが協力していた場合、俺達の勝利は絶望的になる。だが、協力していた二チームが土壇場で仲間割れを起こす可能性もある。どちらかのチームが元から二つとも奪う算段であれば、此方が漁夫の利を得るということも考えられる。

 チームを組むからと言って、絶対に安全ではないのだ。


「あれか、アイテムは」


「絶対そうだね。思いっきり戦車とヘリだし」


「この間、見たものですね!」


 俺達はアイテムのある場所に難なく移動することができた。

 ヘリがあるところまで前方約100メートル。戦車まで120メートルくらいといったところだろうか。ひとまずは他のチームの人影は見えない。

 とりあえず、警戒しながら近寄って行き、やがてヘリに触れられるくらいには接近できたので確保したのと同義だろう。

 今、スマホにAチームがアイテムを獲得したとメールが来たということは間違いない。


『リスポーンの位置がアイテム解放地に近かったAチームがアイテムを獲得したぞ! だがしかし、このメンバーでは動かせない! 一体どうするのだろうかっ‼』


 ついでに実況も聞こえてくる。


「どうしましょうか? セバスさんを待ちますか?」


「そうだね。セバスさんなら運転できるし、それまで死守できれば勝ちだね。もし、セバスさんが来るまでに俺達が全滅したら負けだ」


 ここは敵がノコノコとやって来る場所でもあるから、待ち伏せポイントだが、一気に二チームが押し寄せる可能性もある。今は生き残ることが先決だ。


「おーい、ちょっとみんな来てくれるー?」


 いつの間にか戦車の方へ行っていた柚梨が大きな声で俺達を呼ぶ。


「なんだ? どうした?」


「ハイハイ、今行きまーす!」


「なんかここに人が居てね、明らかにサバゲーの参加メンバーじゃなったから、銃を持ってたしすぐに黙らせたよ」


 ヘリから離れて柚梨がいるところに行ってみると、そこには戦車にもたれかかるように男がハンドガンを持ったまま怯えていた。

 この短時間でいったい何をしたんだ? と尋ねてみたいところだったが怖いので聞かないでおく。

 それよりも、


「おい、こいつ! 俺が岩石エリアで見たやつだ!」


 こいつを岩石エリアで見た時は顔を把握できなかったので、どこかの敵チームかと思ったが、どうも見た事のない顔。

 迷彩服などのサバゲー必須装備を身に着けていないのも、この男が侵入者だからだと俺は判断した。


「ということはこの人は何処からかエリアに入ってきたってことだね」


「一体どうやって入って来たんでしょうか? ここは全て個人の敷地ですし、柵やフェンス、壁で囲ってますので普通には入って来られないはずなんですけど」


「そりゃ、普通に入ってきたわけじゃないからだろうな」


「つまり柵を乗り越えてきたってことですか」


「撮影を行う場所なのに割とざるなんだ」


「申し訳ありません」


「いやいや、謝ることじゃないよ。悪いのはここへ不法侵入したこいつが悪いんだからな」


 俺はそう言いながら、SCAR―Hの銃口を男へと向けた。


「ひぃぃっ!」


 銃口を向けただけでこの反応。本当にどうしたらこんなに怯えるのだろうか?

 何をしたらまともにしゃべられなくなるのか。本当に不思議だ。

 いや、訂正しよう。銃口を向けた俺が悪いか。一般人はたとえエアガンでも向けられたら恐怖を覚えるものだろう。

 それにしても、この男が銃を持っているのはどういうことなんだ? まさかホンモノではあるまいし、ましてやこのゲームにおける第四の敵、なわけないよな。


「とにかく、生放送中だしこのままでは良くない。しょうがないから縛っておくか」


「ですね。変な事をされても困りますし、他の人が危険な目に遭っては私はどんな顔して会えばいいのか分かりません」


「そういえば、さっきから和真君の実況ないね」


「言われてみれば。どうしたんだろうか?」


「一度、緊急ということで連絡してみますね」


 棗ちゃんは迷彩服の胸ポケットからスマホを取り出す。


「あのもしもし? 和真様ですか?」


 ワンコールで繋がった電話。棗ちゃんはスピーカーモードにして、俺達にも聞こえるようにしてくれた。

 最近までスマホも知らなかった彼女がこんなことも出来るようになるなんて少し感動だ。

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