第27話 放送開始
『さぁ、いよいよリアルPUBG、本気サバゲーが始まりました! ユーチューバー集団Aチームと軍人経験者Bチーム、Aチームに所属するセバスの部下Cチームの殲滅戦! どのチームが勝つのか!』
試合が始まると和真が実況を始めた。
実況は連絡用端末とは別の端末から把握できるようになっている。
今から、林の中にあるカメラも起動し、放送に使われることになるためるため、ここからは柚梨と麓朗、和真以外は本名を隠さなければいけない。
「よし、さっそく行動開始致しましょう!」
久他里さんを筆頭に林の中を左右後方を警戒しつつ、進んでいく。
辺りの林は木の根が露出しているところが多く、足が取られないように気を付けて進むのは結構大変だ。
途中で傾斜も現れ、敵を気にしすぎると危うく転んで怪我をするだろう。
しかし、久他里さんが丁寧に一つ一つ注意してくれるので今のところスムーズな進行具合だ。
「皆さま、止まってください。足音が聞こえます」
後ろにいた俺達は久他里さんの静止によって、歩みを止める。
「ここから西の方向にいます。距離は四百メートル弱です」
なんでわかるんだ! という驚きはもうない。これまでの身のこなしや久他里さんの技術力はすでに何度も実感している。
前回の事前練習でも久他里さんだけは相手を手玉に取るような、プレイをしていた。
「では、作戦通り俺は行ってきますよ?」
「ええ、よろしくお願いしますぞ。もしかしたら気付かれるかもしれませんが、その時はひたすら撃ってください。どうせ復活できますので」
「分かりました。では」
俺はチームから小走りで離れ、西側へ回り込むため大きく半円を描くように進んで行く。
やがて、三分ほど走ったところで妙な違和感を覚える。
先ほどまでは足音が聞こえていたのに、急に何も聞こえなくなったのだ。
久他里さんのように遠距離の足音が聞こえる訳ではないが、それでも近づいた時には確かに耳にした。
敵がこちらに気付いて逃げたと思いたいが、どうも気になる。
辺りを何度も見渡すが、どこかに隠れている気配もない。本当にいないのか?
その時、正面に一人の大男が落ちてきて、こちらに銃を構える。
「よっしゃー! 一人目! あばよ!」
「しまった!」
そのまま連射されたBB弾が腹部に当たり俺の死亡が確定した。
前回よりもガチすぎて手も足も出ん。
木の上からとか普通じゃねぇぞ。
「ヒット!」
『おおっと! 早くもAチームのハクがヒットコール! これはBチームのキットが木の上に待機してそこから奇襲攻撃だ! 流石は元軍人。やはりBチームが有利なのか!』
俺はヒットコールをして両手を上げながら、その場から離れる。
バトルフィールドにはいくつか安全地帯というものを設けており、ヒットした者はそこへ向かい、次の指示を待つ。
死亡回数が上限に達すると、フィールド外に退場しなければならない。
俺はまだ残機があるため安全地帯で、次のリスポーン位置を確認する。
次は草地エリアだが、林エリアと面した位置なのでそこで待伏せしようかと思う。
「あー、もしもし? 聞こえますか?」
『はい。ヒットされたんですな。聞こえておりました』
「すみません。なんか、木の上から奇襲されました。上も気を付けて下さい」
『分かりました。さっき聞こえた足音ですが、どうやら私共をおびき寄せる罠だったようです。それでハク殿が攻撃されたのかと』
「なるほど。まんまとやられましたね」
『ですな。次ですが、どこから再スタートですかな?』
「草地エリアと林エリアの境界地です」
『なら、林エリアの入り口で待ち伏せをお願いいたします』
「そのつもりです。では」
久他里さんとの会話中にリスポーンの場所にたどり着いた俺はスマホを切って、銃を構える。
林エリアから出てきた敵を襲撃するため、俺は太い木に隠れる。
『今度はBチームとCチームの銃撃戦だぁ!』
スマホとは別の端末から聞こえてくる和真の実況。
どうやら、二チームがかち合わせたようだ。敵の二チームなのでこれで戦況的には有利になるかもしれない。
そんなことを思っていると林エリアの方でザクザクと足音が鳴る。
こちらに向かっているようだ。
この辺りで林を抜けだせる道はここだけだ。草むらや、木が入り乱れて通りにくい所から抜け出すことも考えられるが、明らかにこちらの道を歩いている。
ギリギリまで待って、出てきたところを襲撃するか、それともこちらから飛び出して襲撃するか。悩みどころだ。
待ちすぎるのはバレる可能性が高くなって危険だし、飛び出した時に距離があればエアガンのスピードなら回避される可能性がある。
段々と足音が大きくなって来た。時間的にも考えている暇はない。
ここは覚悟を決めてギリギリまで待とう。
飛び込んで勝つ確率よりも高いだろう。
敵がもうすぐそこまで迫っている。あと数歩くらいだろうか。
…………よし、ここだ!
俺は一歩踏み出………あれ? おかしい。身体が動かない。
腰辺りに何か当たっている。
そこに目をやるとゴツイ手が腰付近の左脇腹の下辺りを押しており、気付けば銃口が向けられていた。
振り向けばニヤリと笑う外国人のナイスガイ。俺が気付くまで待っていたところを見るに、どうやら遊ばれているらしい。
『ハクが大ピンチ! 今度はCチームのゲイリーだ!』
「やぁ! ボーイ!」
「クソ! やけだ!」
「おい、逃げろぉ!」
動こうとした俺は撃たれるが、それと同時に体に違和感を覚えた際、用意したグレネードを背後の道へ投げる。
向こうが遊んでくれて助かった。これで何人か巻き添えに出来ただろう。
「ヒット!」
「「ヒット!」」
『ハクが投げた苦し紛れのグレネードが炸裂! Aチーム初の撃破だ! ゲイリーが遊び過ぎたのが原因みたいだな…………っと、こっちはAチームのセバス以外が全滅しているぞぉ! Cチームの強襲が成功したみたいだ!』
俺がヒットコールをすると後ろの方でも複数のヒットコールが発せられた。
何とか無駄死にせずに済んだようだ。
それにしてもCチーム、朱鷺坂家の使用人ってあんな外人がいっぱいいて、つくづく、軍人チームかと思う。
本当に復活回数は足りるのだろうか。
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