第26話 円陣

『もしもし、聞こえるか? あと十五分で開始だ。柚梨と麓朗ろくろうはもう少しでそっちに行くらしいから、到着したらメールしてくれ』


 突然鳴り響いた着信。

 相手は和真。スタート前の最終連絡だろう。二コール目でボタンを押して通話する。


「そうか、って今来たぞ」 


『ああ、そうか。なら、スタートコールすまで適当に作戦会議でもしててくれよ』


「了解、じゃあな」


『面白い動画期待してるぜ! …………』


 ぶつりと音が聞こえ、通話が終了した。

 同じくして、背後から麓朗の声がする。


「遅れてごめんよ」


「お待たせ! 待たせたね」


「いや、準備してくれてたんだから気にしなくていいさ」


 全身迷彩に柄の服装をした麓朗と柚梨が大木の横に立っていた。

 これは麓朗や柚梨に限ったことではなく、俺や久他里さん、棗ちゃんなんかも同じ服装だ。戦争映画などでよく見る、軍人の格好に似ている。

 装備は迷彩服にミリタリー柄のキャップ、顔を守るためにフェイスガードとタクティカルゴーグル。他にも肌の露出を避けるためにタクティカルグローブで完全武装している。

 そのおかげで、棗ちゃんは殆ど顔が分からない。これで、生放送に出演できるわけである。

 

 他にも首周りの被弾を避けるためのアフガンストールやブーツなどこの辺りも一式そろえて全員着用だ。

 マガジンを入れておく、マガジンポーチを太もも辺りに付け、屋外なので肘と膝を守るためにニ―パッドやエルボーパッドもぬかりなく装着して、サバゲースタイルが完成していた。

 そのあたりは全て同じものだが、四人それぞれ持っている武器(銃)が違う。

 違うと言っても殆ど初心者なのでサバゲーの講義にかなりの時間費やしたものの、その過程で学べたのは銃の名前や特徴くらい。なので、仲間の銃の種類などは把握しているが名前までは良く分からない。


 俺が持っているエアガンはSCAR―Hというやつ。色はブラックで装弾数九〇発のアサルトライフルらしい。

 久他里さんはハンドガンを装備、柚梨は俺と同じくアサルトライフル、棗ちゃんと麓朗はサブマシンガンで、久他里さんは元より一応全員がハンドガンを腰のホルダーに装備してある。

 電動ガンは重いのでハンドガンを使う久他里さん以外はスリングという、銃を肩にかけられるようにする負い紐で銃をぶら下げている。


「それで作戦だけど、どうする?」


「とにかく相手が強すぎるから、奇襲や待ち伏せが有効だと思うんだが、久他里さんはどう思いますか?」 


「そうですな、最初は移動しながら様子を窺いましょう。わたくしが音で判断しますので、敵と近づいたら、湊殿が敵の背後に回りこんで追い立てて下さい。そこを狙いましょう。それ以外は基本的に逃げたり奇襲や待ち伏せですかな。お嬢様はわたくしについて来てください」


「はい!」

 

 棗ちゃんは銃を片手で抱きながら、右手で敬礼のポーズをとる。とても楽しそうだ。 


「楽しみだね! 柚梨ちゃん!」


「こういうのってなんだかワクワクします!」


 俺や久他里さん、麓朗は真剣に作戦を話し合うが、柚梨と棗ちゃんは楽しげにおしゃべりしている。こういうのは男女差が出るようだ。


「BチームとCチームでつぶし合ってくれるといいんだけどな」


「全くだよ。でも、僕達は三回まで復活できるから大胆に動けるのは強みだね」


「とにかく頑張りましょう!」


「じゃあ、円陣でも組んで気合でも入れようか」


「いいね!」


「オッケー」


「了解です」 


「では、誰が音頭を取りますかな?」


「棗ちゃんでいいんじゃないか? 今回の企画発案者だし」


「僕もそれには賛成だよ」


「わたくしもです」


「勿論、私もだよ!」


 このチームの柱は久他里さんだが、男三人に女性二人という構成だからか、棗ちゃんがお姫様みたいなポジションになっていて、俺達がそれを守る兵士みたいだ。

 柚梨に関してはサバゲー経験者らしいので、彼女も兵士として数えていいだろう。

 それで、棗ちゃんが兵士を鼓舞する姫役を担うみたいな構図だ。


「わ、私ですか? なんだか緊張しますね」


 俺達に指定された棗ちゃんは照れているのか、苦笑いで頬をかく。


「よろしく頼む。方法は任せるよ」


「で、では、サバゲーらしく、私の合図で銃口と銃口を全員でカチンとぶつける、というのはどうでしょうか?」


 棗ちゃんは所持していたサブマシンガンの銃口を人差し指で示す。

 なかなかのアイデアだろう。実にこの場にふさわしい、円陣の組み方だ。

 それに反対する者は当然いるはずもなく、


「いいねそれ!」


「そういうの一度やってみたかったんだよね、僕!」


「なんだかカッコよさげだしな」


「わたくしも反対する理由は見つかりませんな」


 俺達は一斉に頷き、円陣を組むために棗ちゃんに近づく。


「あはは、喜んでもらえて良かったです。では、気合入れますよ! 準備は良いですか?」

 

 と棗ちゃんが言いながら銃口を上に向けた。


「ふぅ…………よし! 絶対勝ちましょう!」


「「「「「おー!」」」」」


 ガチャンと音を立てる四つの銃。重さのあるSCAR―Hに他の銃からの衝撃。

 ズシリと手に感触が伝わって来た。

 そしてタイミングよく、


『では始めるぞ! 五秒前!』


 会場に設置されたスピーカーから和真の声が聞こえてくる。

 和真が宣告した通り、五秒後にファ~ンとスタートの合図が鳴り響いた。

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