第25話 本番前

 梅雨に入ったこともあり、ここ数日は雨ばかりの日が続いたが、今日ばかりはすこぶる快晴だった。


 今日は和真とのコラボ動画収録当日。事前準備であれこれと打ち合わせを行い、収録場所は加川市郊外にある朱鷺坂家保有の敷地を使うことなった。

 現在俺たちがいる場所は敷地の入り口付近だ。

 ここはゲームでは使わず、スタッフなどの休憩場所となっている。


「和真の奴、遅いな。もう三十分は過ぎているぞ」


「そうですね、何か事故とかに遭われていないといいんですが」


 生放送ということもあって、放送時間は事前に告知しており、あと一時間後には放送が始まっていないといけない。

 今は集合時間を過ぎてもやってこない和真を待っている状態だ。


「ああ、それでしたら先ほどわたくしの所に連絡が来まして、寝坊だそうで。あと五分ほどで到着するそうです」


「ったく、あいつは何やっているんだ」


「まぁまぁ、放送には間に合いそうですから」


 今日は大掛かりな企画なので多くの人が関わっている。

 スタッフで遅刻するならまだしも、メインのくせして遅れるなど話にならない。

 どうにもあいつのルーズさに腹が立つが、ここは抑えて後でエアガンでぶち抜いてやってもいいだろう。


「今日は五人一組のチーム戦ですけど、組み合わせはどうしますか?」


「先日、事前に練習を行った時の組み合わせでどうですかな?」


「その方がなんとなく連携も出来ると思いますし、それで行きましょう」


「では、わたくしの方から皆さんには伝えておきます」


「ありがとうございます」


 事前準備とルール確認のために四日ほど前、この地で実際のルールを基準に今日の参加メンバーでサバゲーを行った。

 メンバーは俺や棗ちゃんに柚梨、麓朗ろくろう。加えて久他里さんと彼が連れてきた、知り合いと部下だ。


 久他里さんが連れてきたメンバーは、軍人経験者や朱鷺坂家の使用人としての訓練を受けているらしい。

 久他里さんや棗ちゃんの事だから、ヤバい奴を呼ぶだろうと思っていたが、案の定おかしなメンツが揃ってた。

 軍人は呼ばないと言っていたが、元軍人を呼び寄せたところ見るに棗ちゃんが悪ふざけをしたのだろう。

 言葉遊びに騙された。


「じゃあ、さっそくスタートポイントに向かいましょうか」


「そうなりますな。今日もよろしく頼みますぞ。先日、わたくしが教えたことを実践できれば、経験のない、湊殿達でも十分に戦えますからな」


「ははは……。頑張ります」


 練習の時を思い出して俺は顔が引き攣った。

 この間は酷かった。

 小中高で合気道や剣術なんかの稽古事を親にやらされて鍛えられた俺は、そこそこ動ける自信があったのだが、当たり前だが軍人経験者には敵わなかった。

 ゲームが始まって速攻でハチの巣にされ、すぐに退場。

 その次のゲームでも逃げ込んだ小屋の中にグレネードを数発、多方向からぶちこまれた際には大パニック。

 何とか近くにあった板を盾に乗り切った俺だったが、すぐに突入してきたガタイの良い男達に囲まれ、またパニック。

 そして、なすすべなく一斉掃射された数十発の弾丸に俺は倒れた。

 それでも習い事のおかげか、いくつかの技術は相手からは認められて少し嬉しかった。


「おーい、遅れて悪かった!」


 忌まわしき悪夢を思い出していると、敷地の門近くからそんな声を上げ、和真がへらへらした表情を浮かべて手を振り走ってきていた。


「お前、全員に謝っとけ」


「皆さん、スンマセン!」


 和真は両手を合わせて腰を折り、俺は、和真のケツにエアガンを打ち込んでやる。

 痛がりながら頭を下げる和真を見た皆は心優しい人ばかりなのだろう、誰も責めることなく、一発ずつエアガンを打ち込んだだけで笑って許していた。


「さて、全員揃ったし、そろそろ準備始めるか。棗ちゃん、機材はもう調整済んでるんだよね?」


「はい、先ほど麓朗ろくろう様と柚梨さんから林エリアの固定カメラの設置が終わったと連絡が来ました。後は本番前にリハで一度、軽く確認する程度です」


「OK! ありがとう。じゃあ、始めようか」


                # # #                  

 リハーサルも終わって、現在は生放送直前。

 放送開始まで各チームは時間を潰すことになっており、今は林の中にいる。

 

敷地に作られたこの林や隣接した草地エリアでサバゲーを行い、プレイヤーに取り付けられたカメラの映像で和真が実況を行う。

 和真はまったりとした実況をスタイルとして確立しており、実況プレイをしたと後に、リプレイで丁寧に解説を行っている。

 今回は実況はスポーツみたいな実況形式をとることにした。

 なので、解説と実況を同時に行ってもらう。


 ルールについてだが、通常の殲滅戦を基準に、今回は一回まで復活を認める特別ルールだが俺達に関しては実力差を考慮して三回まで認められている。


 俺達Aチーム、プロのBチームとCチーム、三チームとも林エリアからスタートし、そこからは草地エリアと岩石エリアへの移動が可能となる。

 また、各エリアには進入禁止エリアが存在している。理由は立ち入ると危険だからで、例えば草地エリアではぬかるみになっていたり、林エリアでは漆が自生したりしているからだ。


 弾は屋外でプレイするので土に帰るBB弾を使う。

 弾が当たった場合はヒットコールを行い、両手を挙げてランダムに決められたリスタートポイントに素早く移動する。ポイントの指定はプログラムによるランダム指定。スマホから通達される仕組みだ。

 

 使う銃はペイント弾やガスを使用するエアガンは禁止、また近接戦でナイフなどの銃以外の武器も当然使用禁止。

 また、当たり前だが本当の戦争ではないので組手や柔術や空手、徒手空拳などの格闘術もプレイヤーの安全性を守るために禁止だ。

 

 連絡手段はスマホの使用を許可し通話は可能だが、メールは禁止となっている。

 これらのルールは任意の部分が強く、特にヒットコールに関してはその要素がかなり色濃いだろう。

 参加者のモラルは当然問われることになるが、そこは信頼だ。この場にそのような卑怯な手を使うものなどいないという信頼である。

 カメラが会場に設置されているので、場合によっては検証も出来るが、そんなことはしたくない。皆が知り合いということもあるし、そんなことしたところで面白くはないだろう。

 

 ま、これが生放送でなく、通常の動画投稿ならば編集ができるので多少の演出もあったかもしれないが。

 遊びだがルールに法ってこそ楽しいものだと思うし、それに誰もルールを逸脱するようなことはしないはずだ。

 さて、どうなるか楽しみだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る