第7話 事故

「いやぁー、参りましたなぁ。墜落してしましました。はははっ!」


 え? 嘘だろ。

 声が聞こえた方を見上げると、そこにはパラシュートでゆっくり降りてきながら笑う、久他里さんが居た。そうして、そのまま何事もなかったかのように着地した。


「どうして」


「どうしても何も、緊急脱出をしたからでございます。申し上げたでしょう。そういう時のために軍隊仕込みで訓練をしていると」


 確かにそんなことを言っていた気がするな。だからと言って、あの状態で緊急脱出が可能なのかは謎だ。

 まぁ、とにかく無事でよかった。


「久他里さぁぁぁん。無事で、無事でよかったです!」


「師匠っ!」


「おやおや、心配させてしまいましたか。お二人とも、この通りわたくしは無事でございますから。もう大丈夫でございます」


 棗ちゃんと戸田君が泣きながら久他里さんに駆け寄っていき、それを久他里さんは優しく受け止めた。


「っと、そうだ! 墜落したヘリはどうなったんだ? ってええええええええ!」

 めっちゃ燃えとるうぅぅぅぅぅぅぅ!


久他里さんの事に手いっぱいで放置していたヘリが気になって、墜落した方角を見ると森が激しく燃えていた。

 次から次へと問題が巻き起こる様に、つい夢なのでは? と思ってしまうほどに俺は翻弄される。というか、夢であってほしい。


「久他里さん! 何とかしないと!」


「そうですな、命が助かったことに安心しきっておりました。直ちに消火活動を行

いますのでご安心ください」


「え、消火活動って?」


 ここに消防車もいなければ消火栓があるわけじゃない。

 いったいどうやって?


「聞こえますかな。《H―88》地点において火災が発生いたしました。すぐに火災の鎮静化を願います」


 そのように久他里さんがスマホで通話し、その一分後。


 ビュウウウウウウウウンッ!


 戦闘機みたいな航空機が何台もやってきて、大量の水をぶちまけていく。

 さながらなにかのショーを見ているようで、燃え盛っていた森は早々に鎮火しつつあった。

 すると、俺の背後から賑やかな声がする。

 振り向いてみるとそこでは、三人が和やかな雰囲気で談笑していた。


「ようやく一件落着ですな。ヘリを一台失ったことと、森が少し燃えてしまったのは残念ですが、全員無事であってよかったと思いましょう」


「そうですね。一時はどうなることかと思いましたが、師匠が無事でよかったです」 


「はい、私も安心しましたが、終わったと思ったら、なんだが、急におなかが空いてしまいました。皆さん、おやつにいたしませんか?」


「そうですな。ではしばしお待ち下さい」

 なにこれ。意味が分からん。まだ消火活動中だぞ。どうしてそんな落ち着いているんだ!


 俺がおかしいのか? いやそんなことはないだろう。が、一人で焦りまくっていた俺がバカみたいだ。


「あ、湊様。どうしてそんな落ち込んいるんでしょうか?」


 どうして君は落ち込んでいないんだ?

 と、聞くことが出来るはずもなく、俺は無難に動画の件どうしようか、と尋ねた。


「ああ! 申し訳ございません! 途中で驚いてしまってカメラを落としてしまいました。多分、ちゃんと撮れていないと思います。本当にすみません!」


「ああ、いや、別に気にしなくていいよ。あんな状況になったらみんなカメラとか忘れるから。しょうがないって。それと、俺が言いたかったのは流石にこんなことになったら、動画に載せられないから、後日、他の動画でも撮ろうかって思ってて」


「そうだったんですね。でもなんで載せちゃダメなのでしょうか?」


「結構大ごとになっているし、実際危険な目に遭っている久他里さんと野上さんがいるのに、面白い動画にしてUPするのはどうかと思ってさ」


「そうですね。確かにちょっと気が引けます」


「でしょ?」


「お嬢様、湊殿、別にわたくしは構いませんぞ。面白ければオールOKというやつですな」


 俺たちが気にかけて話していたというのに、当の本人は微塵も気にしてない様子で、ティーセットを運んでいた。


「でも、野上さんがいますし」 


「別に親方がいいっていうんだ、それなら俺はユーチューブにUPしてもいいぜ!」


 今まで、事故の後から何をしていたのかは知らないが、久他里さんの後ろから現れた野上さんは破顔しながらグッドサインを作ってこちらに向ける。


「そうですか。では動画にさせてもらいますね」


「湊様、良かったですね!」


「ああ、全くだよ」


「これ、カメラ拾ってきました」


 戸田君がいつの間にかカメラを拾ってきたようで、俺に差し出す。


「ありがとう。どれ、どこから撮れてないんだ? ん? おかしいな」


「どうしたんですか? まさか最初から取れてなかったとかでしょうか?」


「そうじゃないよ。その逆だよ」


「逆?」


「最初から最後までしっかり撮れているんだよ」


「ええ⁉ でも確かに私、驚いて落としてしまったことははっきりと覚えています」

 

 確かにカメラをの映像では落としたと分かる瞬間が記録されているので、そこからは芝生しか映っていない。

 だが、彼女が言う撮れていないのと、俺が思う撮れていないのは認識の違いだった。

 それは、どこから撮れていないかなのだ。


「棗ちゃんが落としたのは久他里さんが生きているって分かった時だよね?」


「はい、びっくりして思わず落としてしまいました。なので、全て記録出来ていないとおもいます」


「そうだね、全部は記録出来てないけど、そこまで撮れてたら十分だよ。普通はヘリが墜落するときに驚いて落とすよ! テレビのカメラマンじゃないんだから」

 

 そう、彼女はヘリが落ちている瞬間もカメラを持って、撮影していた。自身の執事があんな危険なことになっていたのだから、普通は落とすか、碌に撮影が出来ていないはずだ。

 だが、彼女は普通に撮影をしていた。しかも、ヘリが落ちるまでをカメラで的確に捉え、綺麗に撮影をしていた。

 尋常じゃない。あんな時までカメラを回すなんて信じられん。最早、才能だ。

 俺は恐ろしい才能を見つけてしまったかもしないな。


「あの時はなぜか撮ってました、動画的に面白いと思ってしまったので。えへへっ!」


 えへへっ! じゃないよ! まったく。

 この調子なら、戦場でも普通にカメラを回しそうな勢いだ。なんというか、常識が抜け落ちている。とりあえず、自身の身が危険な時とかには、すぐにカメラなんて捨ててもらわないと。その辺は追々伝えるとしよう。


「まぁ、とにかくこれで動画にできるよ。ありがとう!」


「はいっ!」


「では、お話も落ち着いたところでティータイムとしましょう。あちらに準備が出来ておりますので」


 と、久他里さんが指し示す方には、組み立て式のテーブルと椅子が並べられていた。そこにはお菓子や紅茶もおいてあるようだった。

 やっと、くつろげるぜ。今日は俺の人生の中でもトップクラスでやばい出来事だったからな。


 さてと、明日からさっきの動画を編集して、UPするか。

 棗ちゃんと久他里さんとの初の動画だから記念動画になるな。

 さて、評価が楽しみだ。

 そうして俺は、一時の休憩を楽しんで、無事に動画を投稿することが出来ました。


 二日後、

 しがないユーチューバーと箱入りお嬢さまとベテラン執事の動画は大炎上しました。

 なんでこうなった!

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