第8話 ネットの反応
ヘリの動画を撮ってから、十日。動画を投稿してから八日。あれから一つも動画を投稿していないが、それには理由があった。
動画が大炎上したからだ。
こういう時は活動を自粛するのだが、その前に謝罪動画を撮らなくてはならない。なので、三人の都合の付く日がなく、そのため今まで静観していたのだ。
そして今日、棗ちゃんと久他里さんが俺の部屋に来ることになっているのだが、久他里さんが遅れており、部屋には俺と棗ちゃんの二人きり。
だが、いい雰囲気になることもなく、今は動画のコメントを棗ちゃんに見てもらっている。
で、動画のコメントは次の通りだ。
『こいつらヤバいわー、マジでキチ〇イ』
『それな。金の無駄使いとか信じられん』
『ヘリで綱引き、からの墜落とかマジ何考えてんの? 危なすぎる!』
『投稿者、金持ちだからって、やりすぎ。人が死んだらどうするの? 責任とれるの?』
『住所特定しまーすww』
『こういうやつらが、ユーチューバーの価値を落としてる。ちゃんとやっている人が可愛そうじゃん。早くユーチューバー止めろ!』
『若い奴は良いことと悪いことの判断できなくても、まだ分かるけど。この爺さんなんで止めないんだろ? 大人だろう? しかも自分の命が掛かってるのに。ボケてるの?』
『SNSで動画が拡散されて、チャンネルの登録者数が増えてるの腹立つわ』
『死んでしまえ!』
『他の動画は平和なのに、動画の人数が増えて過激になった。たしか、この動画チャンネルって三人だよな? ならジジィと動画を撮っている奴が戦犯か?』
『モノを大切にしろよ! ヘリ壊すくらいの金あるなら、募金しろや!』
などと、俺達のチャンネルは超暴言を吐かれ、大量の批判コメント、アンチコメントなどなど、ヘリの動画を投稿してから大変な事になっている。
だが、
『この動画、面白い! ヘリコプターで綱引きとか面白過ぎぃ!』
『センスあるねぇ』
『年金系ユーチューバーって草生えるww』
『金がないと出来ない動画だから、それをやってくれるのは良いね! 俺たち庶民はせいぜい車で引っ張り合いだなw』
『次も期待してるわ! やっぱ過激系ユーチューバーは笑えるからいいね!』
『批判コメしてるやつ意味わかんね。別に犯罪とかしてないしいいじゃん』
『セバスさん生きてるとか凄いわww』
『ハク、割と顔イケてるし、セバスさんもカッコイイおじいさんって感じで好き!』
『最近のテレビじゃ絶対に出来ないし、他のユーチューバーでも無理だね。チャンネル登録の価値あるよ』
『てか、時々聞こえるカメラ係の声、可愛くね? めっちゃいいんだけど』
このように賛辞を送るコメントも多数あり、チャンネル登録者は一気に増えた。なんとその数は十万人だ。
SNSに投稿されたのも大きく影響はあるが、ヤ〇ーニュースで取り上げられたのが大きい。
以前にもお祭りのくじ引き屋で何度もくじを引いて、当たりが無いことを証明したりしたユーチューバーがいた。その人はSNSに投稿されたり、ニュースに取り上げられて動画の人気を獲得し、一躍トップユーチューバーになっている。
今回もその形だが、やはり批判コメントはかなり多い。いくら何でもひどすぎる言葉も見受けられた。特に、死ねとかキモいや殺すなんて言葉が多かった。
それを受けて、棗ちゃんは……………。
「こういうことを言われても気にしないでおきましょう! どんな人間でも一〇〇%、褒められることはありませんから。それに面白いって言って下さる方がたくさんいるんですから、それでいいじゃないですか! 謝罪動画なんていらないですよ」
と、案外けろりとしていて俺は驚いた。誹謗中傷の嵐で落ち込んだりするかと思われたが、そんなこともなく批判コメントを全く意に介していない。
「そう、だな。で、次は何の動画を撮るつもりなんだ?」
「次はですね、『
それはなんとまぁ、平和な動画なことで。
こうやって、また動画のネタを言い出す辺り、本人は本当に何も気にしていないのだろう。
しかし、今回は本当に炎上要素が見当たらない。やはり彼女は少しは気にしているのだろうか。
さっぱり分からん。
「具体的にはどういった動画内容なんだ?」
たかが、市内をパトロールしたところで、動画の撮れ高になるとは思えないのだ。
何かしらのキーポイントが必要だ。
「そうですね、まず、歩きたばこをしている人のたばこの火を水をかけて消したり、スーパーマーケットなどで、万引き犯を見つけたり、でしょうか?」
「なるほど、良いんじゃないか」
確かに、歩きたばこは市の条例で禁止されているし、迷惑に思っている人もいるから、それを止めに行くのは面白そうだ。万引き犯を捕まえるのもかなり迫力ある動画になるかもしれん。
まぁ、見つけることが出来ればの話だが、そこに関しては大丈夫だと断言できる。なにせ加川市は県内でも犯罪発生率が割と高めだからである。
それでも同じ市内でも俺たちが住んでいる場所は、田舎なのでそこまでではないが、都市部に行くと犯罪の発生件数は多いようだ。
だからといって、別に汚い街でもなく、雰囲気もヤバそうな感じではない。むしろ、俺としては過ごしやすいとも思っている。
「それは良かったです。では、久他里さんが到着したら、撮影に行きますか?」
「そうだな。話は変わるが、なんで久他里さんは遅れているんだ?」
彼女はいつも久他里さんと、車でやって来る。
だが、今日は野上さんが送ってきた。何か用事でもあったのだろうか?
それなら、無理をしてこなくてもいいのだが。
「私が家を出る前に急にお客様がいらしゃって、本来なら父が出迎えるのですが、今は出張中ですし、他に対応が出来る家族もいなかったので、久他里さんが対応していまして」
「だから久他里さんが遅れていたんだね」
それなら納得だ。棗ちゃんから聞いたところ、久他里さんは朱鷺坂家の使用人の中で序列のトップに位置する。それなら、主に代わって応接するのも頷けた。
「はい」
「じゃあ、どうしよっか? やることないし」
「だったら、お風呂を貸しては頂けませんか?」
「え?」
「ここに来るまでに少し汗をかいてしまったので」
そう言って、棗ちゃんは自分が着ているカーディガンを気にする。
「そうなの?」
「はい。それに嫌われたくないですから」
「誰に?」
「湊様に決まっているじゃないですか」
「なんで?」
「だ、だって」
だって、なんなんだ! 気になるぅ!
「だって、好きですから」
(゚∀゚)キタコレ————!!
春だ! 春がやってきたぞ、俺。生まれて十八年、やっと念願の彼女や!
「そ、そ、それほんと?」
「はい、動画を撮るのは大好きです。嫌われたもう一緒に動画を撮れませんから、そうなったら私、泣いてしまいます」
はい、お約束! 残念でした! ぬか喜びすぎて死にそう。
俺の純情返せ、作者! 棗ちゃんに紛らわしいセリフ回しをさせやがって! 絶対に許さんぞぉ!
「ソレナラ、オフロカスヨ。アハハハハ」
「ありがとうございます! では行ってきますね」
「お風呂は玄関の一番近くの扉だから。後で、タオルを持っていくよ」
「はい! 願いしますね」
トタトタと小走りで、白のワンピースを揺らめかせながら棗ちゃんはリビングを出て行った。
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