第9話 シャワー中の彼女とやってきたアイツ

 やがて数分後、シャワーの音が微かに聞こえてくる。

 完璧に生殺しだ。かわいい女の子が同じ部屋でシャワーを浴びているのに、どうする事も出来ない。男にとってこんな惨いことはないだろう。

 

 いや、待てよ。

 男と部屋で二人きり。しかもシャワーを浴びるだと? これはもう覗いてくれと言っているのではないか? 襲ってくれともとれる。

 なるほど、そういうことか。女子の方からそんなことを言うなんて、はしたないって思っているだろうから、遠回しに伝えているんだな。

 それなら俺から行くのがマナーだよな。

 据え膳食わぬは男の恥!

 行くぜ! オラぁ!

 そうして、俺はバスタオルを持ってリビングを出ると、一直線に浴室がある洗面所へと向かい、浴室の目の前に辿り着いた。


「こ、この先に一糸纏わぬ、棗ちゃんが……………」


 あと一枚、あと一枚、目の前の扉を開くだけでそこは理想郷ユートピアであり、桃色ワールドだ。

 俺は恐る恐る取っ手に手を伸ばす。

 そして、それを捻ろうとしたところで、


「湊様? バスタオル持ってきてくれたんですね。ありがとうございます! あ、覗いたらダメですからね、って湊様はそんなことはしませんよね」


すみません! めちゃくちゃ覗こうと思ってましたぁ————!


「あ、ああ。勿論そんなことはしないよ」


「ですよね!」


「洗濯機の隣の台に置いておくから。じゃあ」


 もう少しで楽園に辿り着きかけた俺は手を引っ込めて、そのままリビングへととんぼ返りをした。

 別にビビった訳じゃないからな!

 そういうのは夜になってからだ!

 と、素直に待つこと十五分。

 ピンポーン!

 お? 久他里さんが来たかな?


「はい、どなたですか?」


 最近は物騒なので一応、インターホンで確認することにした。

 するとそこに映っていたのは久他理さんではなく、違う人物が居た。


「私だよ。柚梨ゆずりだけど? 湊くんだよね? 扉開けてくれないかな?」


「ちょっと待ってくれ。片付けるから」

 

 不味いぞぉぉぉぉぉ!

 俺の部屋に女の子が居るどころか、お風呂に入っているなんてバレたら、速攻でキレられる。アイツはそういうの許さないからな。

 

 七八瀬ななはせ柚梨ゆずり。十八歳女子大学生。俺の高校時代からの友人の一人で、現在大学の同期。

 高校時代から、あまり友達のいなかった俺を気遣ってくれる良い奴だ。

 可愛くて、優しく、おまけに賢い。本当なら一流の大学に行けたはずだが、学びたい学部がある大学は自宅から近い所だと今、通っている所しかなかったらしく、ランクを下げて入学した。

 ちなみに学部は俺と同じ、経済系の学部だ。

 

 そこではアイドルみたいな存在で、めっちゃモテる。多分、彼氏とか居たはずだ。よく、男に言い寄られてるし。しかも、みんなイケメン。

 だが、チャラ男は彼女から相手にされていない。アイツはそういうやつが嫌いで、だから、最近は寄ってくるイケメンもみんな、真面目系爽やかイケメンだ。

 

 普段は普通の女子大生をしているが、異性交際の話、特に不適切な交際とかにめっちゃ厳しい奴で、俺は何度も注意されている。

 別に俺は誰とも変な付き合いなどしていないし、二股とかやっている訳でもない。女子との付き合いといえば、ただ授業の課題とかの相談だったり、分からない所を共有して、教え合っているだけだ。

 俺なんて、大学に居る女子からしたら相手にもされていないはず。自分で言うのもなんだが、俺は人が良いので、良くてただの友人、悪くて都合のいい奴、だろう。

 という訳で、ここに棗ちゃんが居る事がバレるのは相当まずい。


「まだぁ?」


「まだだ。まだ半分も片付いていない!」


 インターホンで会話する時間なんてない。今は、直接大きな声で会話をしている。

 取りあえず、棗ちゃんには出て来られるとカオスだから、風呂場に居てもらおう。

 そんで、今度柚梨には時間を取って、悪いが今日の所では帰ってもらう方向で。



「どれだけ、散らかってるのー? 手伝うから入るよ?」


「ま、待ってくれって!」


 鍵をかけていないので、慌てて閉めようとするが、もうすでに扉は開きかけている。どうにかして押し返えそうとするも、間に合わず柚梨が入ってきてしまった。

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