第18話 番外編 お嬢様の夜の秘密活動
「誰もいないですよね? 今日はお父様がおられない日ですからパソコンを使っても大丈夫なはずです!」
一切、明かりの無い廊下を歩く私は周囲を確かめながら、お父様の書斎がある部屋までやってきました。
そうして誰もいないことを入念に三度確認し、扉をそっと開きます。
そこは廊下と同じく真っ暗です。しかし、懐中電灯を持っている私は無敵なのです。
懐中電灯で照らしながら、室内の様子を窺いました。
部屋の大きさは十二畳ほどで、正面に大きな本棚があり、右手には奇麗に整えられたベッドがあります。
左側にはオーダーメイドの木の机が設置していて、その上にパソコンが備え付けているみたいですね。
私の目的はそのパソコンで、湊様に教えていただいたユーチューブを閲覧するためここに忍び込んでいます。
お父様にバレたら随分と叱られるでしょうが、バレなければ問題はありません!
私は少し、ビクつきながらも電源ボタンを押してパソコンを起動させます。
「あ、これですね。これがインターネットのアイコン」
立ち上がるまでに時間はかからず、すぐにデスクトップのインターネットのアイコンを見つけることが出来ました。
ここまでは湊様に教えていただいた通りです。
数学の公式を覚えるより難しかったですが、私は昔から覚えが早いと先生方に褒められるだけあって、何とか手順を記憶できています。
そうして、私はマウスを操作してインターネットを開きます。
「ええっと、この白い枠にユーチューブと入力すれば出てくるはずですね」
出来ました!
見覚えのあるロゴが画面に表示され、そこをダブルクリックしてサイトを開くと、それはもうお昼に見たユーチューブです。
なんだか、いけないことをしているようでワクワクします。あ、いけないことをしているんでしたw 普段の私、いいえ。今までの私ならこんなことはしませんでしたが、どうしても今日ばかりは抑えられません!
いつもお父様は外で友人と遊ぶのもダメ、勉強もたくさんしろ、習い事も色々としなさい、と言われます。
私が将来、立派な大人になるために、お父様が思って下さることは分かっていますが、それでも私だってもう少し自由でもいい気がするのです。
でもまぁ、唯一夕方のお散歩だけは許してくださいます。
そのおかげで湊様と出会えたことは幸運です!
きゃっ! 私ったら湊様なんて名前でお呼びして! 恥ずかしいですね。
「なにを検索すればいいんでしょうか?」
ユーチューブを見るといっても何を見るかまでは決めていませんでした。それに湊様のチャンネルも詳しく聞いていません。
不覚です。
でも、確か実験と言っていたような気がします。とりあえず、実験で調べてみましょうか? それとも今日見た、動物の動画でもいいかもしれません。
「やっぱり実験動画にしましょう! 湊様の動画があるかもしれませんし」
私は数十秒悩んだ挙句、実験動画を見ることにしました。
それが私の人生と湊様の人生を変える事になるとは知らずに………………。
運命を分けた数十分後、
「ふふふっ! あはは! も、もうダメ。笑いすぎて息が、息がで、出来な、いっ!」
笑い転げている私がいます。
こんなに笑ったのはいつ以来でしょうか。昨年のお正月に久他里さんとにらめっこした時以来でしょうか。
でも、これからはいつも大笑いできそうです。
「あ、もう二時間ほど過ぎてしまいました。そろそろ履歴を消し『お嬢様?』」
私がパソコンを閉じようとしていると、ドアの向こうから久他里さんの声が聞こえてきます。流石に大きな声で笑い過ぎました。
どうしましょう!
居ないフリなんて多分通用しないでしょうから、誤魔化すのが最善策のはずです。
ならば、電源を落として、
「あ、はい。私です」
そうやって、私は堂々と存在を明かしました。
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