第17話 暴走族VS戦車

 それから幾何か時間が過ぎ、引き続き俺達は何処までもついて来る金魚の糞みたいな暴走族と共に無事に赤穂のインターチェンジで降り、赤穂あかほ市まで来ることが出来ていた。


「やっと、ここまで来たな」


「だね!」


「あと、数分で着きますぞ」


「久他里さん、西門から入るように、との事です」


「畏まりました」


 そうして、静かな田舎道を出来る限り、トップスピードでひた走る。

 久他里さんの運転技術のおかげで狭い道やカーブ、曲道も難なく通って行き、割と暴走族を突き放すことが出来た。


「着きましたぞ!」


 俺達が逃亡の果てにたどり着いた場所は、山の中にある大きな門があるところだった。

 その門は俺たちが来るまで閉まっていたが、すぐに開く。

 そこを通り、坂道を駆けあがって進む。

 

 よし、この門が閉まれば暴走族たちも入っては来られないはずだ!

 だが、門が閉まるのには時間が掛かり、二十台ほどは入ってきてしまった。


「まだ、追ってくるよ!」 


「しつこいな!」


「大丈夫です。上まで行けば人がいます」


「湊殿! 大変ですぞ!」


 久他里さんは前を向きながら焦った声色で俺に言葉を発する。


「どうしたんですか!」


「燃料が、ガソリンがそこを突くやもしれません」


「なっ!」


 俺はその言葉を聞いて酷く後悔した。

 麓朗ろくろうにガソリンを入れておいた方が良いと言われた時に、ちゃんと聞き入れておけば良かったと。


「湊くん、ガソリン入れてなかったの?」


「すまん。市内を回るだけだと思ってたから」


「いつもそうやって、慢心するから、こうなるんだよ!」


「本当にすまん」


 怒る柚梨に対して俺は謝るしかなかった。


「湊様、大丈夫です! 過ぎたことは仕方がありません。ガソリンが切れないことを祈りましょう!」

 

 棗ちゃんは前向きな言葉で俺を励ましてくれる。

 確かに今はどうすることも出来ない。

 ならば、彼女の言うように祈るしかないだろう。

 今だけは、神様を信じるとしよう。

 しかし、そんな都合のいい奴だった俺の所為か、神は俺たちを突き放した。


「これはダメですぞ!」


 久他里さんの言葉と共に明らかに車の速度が下がっていく。

 坂道の所為かスピードが出ないことに加え、エンジンの回転率が落ちている。

 これでは止まるのも時間の問題だ。

 ようやく坂道を登り切り、開けた場所まで来た。


「やばい! 追いつかれる!」


 柚梨が後ろを振り返り、叫んでいる。


「頼む! 動いてくれ!」


 しかし、そんな悲痛な願いも虚しく、車は殆ど動かなくなり、距離が開いていたはずの暴走族が近くまで迫ってきた。

 もうだめだ!

 そう思った瞬間、辺りが激しい光に照らされる。


「なんだ!」


「湊様! 助かりましたよ! 朱鷺坂の防衛部隊です」


「え? 防衛部隊?」


 仰々しい名前に驚いたが、防衛部隊という名が大げさなものではないことを次の瞬間俺は知る。


『止まりなさい! 野蛮な者共!』


 前方からそんな声が聞こえてくる。

 まぶしさは依然として変わらず、薄目でフロントガラスの向こうを見るとそこには、ずらりと迷彩服を着た者達が少なくとも百名くらいは居た。

 それには当然びっくりしたが、一番驚いたのはなぜか戦車らしきモノが雄々しく居並んでいたことだった。

 まさかガ〇パンの世界に来てないよな?

 そう思うほど俺は動揺する。


「棗ちゃんあれは本物の戦車?」


「はい。だから安心してください。もう大丈夫ですよ」

 

 俺は恐る恐る聞いてみると、にこやかに棗ちゃんはそう答える。


「あ、そう」


 あまりにもぶっ飛んでいて、俺はそんな反応しかできなかった。

 そして、暴走族も動きを完全に止めていた。

 でも、それも少しの間だけで、また動き出そうとする。


『止まれと言っている! 止まらないと撃つぞ!』


「オラァ! ビビってんじゃねぇ! この国で戦車なんか出てくるはずねぇだろっ! ハッタリだ。やっちまえ!」 


「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」


 防衛部隊の一人が忠告を促すが、暴走族は雄たけびを上げて動き出す。


「久他里さん、実弾ではないですよね」


「ええ、実弾ではないですが、暴徒を止められるくらい改造した弾が発射されますぞ」


 と、言うことらしいので、俺はどうせ捕縛のためにトリモチやネットが撃ち込まれるのだろうと思っていた。


 しかし実際は、


『全車に次ぐ、撃てぇぇぇぇぇぇぇぇ』


 どごぉーん! 

 

 忠告を無視してバイクを稼働させた暴走族に向かって、防衛部隊は容赦なく一斉に攻撃を開始した。

 そして、暴走族は戦火に包まれる。


 え、爆炎が上がっているんですけど? 本当に実弾じゃないのか? どう見ても戦場にしか見えんぞ!

 暴走族が少し可哀そうになって来た。

 最早、暴走しているのはユーチューブ的に見れば俺達の方だ。

 戦車とかどこから持ってくるんだよ! ヘリの時もそうだが、軍事力溢れてるな朱鷺坂家!


「これで、一件落着だね!」


「ですね!」 

 

 元気に柚梨と棗ちゃんがハイタッチをする。

 こんなことになったのはお前らが原因だろっ! 勝手に事件を起こしておいて、このように何一つ、反省していない。

 まるで、テーマパークのアトラクションでも体験しているかのようだ。

 バカげているとしか言いようが無かった。


「で、これは動画にしていいのか?」

 

 柚梨達にいくら注意したところで仕方がないので、俺は動画について心配する。

 今回もヘリの時のようにかなり良い動画が撮れたが、こんな意味の分からないモノをUPしてもいいのかと思う。

 誰がどう見たって、やらせとしか思えないだろう。


「構いませんぞ。ここまで来たらなんでもありでは?」


「というか、こっちだってセブンを改良するのに時間が掛かっているから、お蔵入りになったら、困るよ」


 久他里さんと柚梨はそういう意見らしい。 

 ま、そうだよな。これで没になったら、苦労が浮かばれん。


「分かった。そういうことならUPするよ。炎上しても知らんからな」


「大丈夫だって、加川の暴走族をやっつけたし、面白い動画だからね!」 


「今度は大丈夫ですよ!」

 

 そんなわけで、動画を編集してユーチューブにUPすると、すぐに大炎上しました。

 知ってた。



 理由は戦車ではなく、高速道路の速度を違反したことや危険運転の所為である。

 動画を見た人から通報されマスコミが騒ぎ、警察が捜査中と発表し逮捕まで俺は考えた。

 しかし、久他里さんによれば朱鷺坂家の権力を使って全力でもみ消すそうだ。

 それも執事長としての権限だけで済ませられることらしい。

 今回、俺が学んだことは炎上させない動画の作り方より、朱鷺坂家を敵に回してはいけないということである。


 因みに、柚梨のチャンネルの方では今回の動画を上手く編集し、セブンのナビゲートを紹介する動画をとして公開し、炎上を免れていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る