第14話 捜索

 車内から覗く夜空には幾数億以上の星が輝いているはずだが、街中では光が邪魔をして、月以外の星は見えない。

 現在は不届きな輩を探すために、俺達は街中をゆっくりと徘徊している。

 俺が見る限り、車外の様子はいたって普通。夜中の街ということもあって、見受けられる人たちはやや年齢が高めだろうか。酔っ払いやそれを介護する人、カップルや仕事帰りのサラリーマンにOLらしき者など様々だ。


「おかしいね。結構な時間、探してるけどいないね」


「見当たらないな。そこまで普通、歩きタバコくらい、いるはずなんだが」


 きょろきょろと街を見渡しながら、俺と柚梨は会話する。

 駐車場から出発して早、三十分。目当てのマナー違反者が一向に見当たらない。 よく出没する場所を重点的に捜索しているのだが、まるでこちらの動きを感知しているかのように姿を現さない。

 因みに、万引き犯については昼間に探す方がいいだろうと、今回は車内から見える範囲で活動を行うことになった。


「では、繁華街の方へ向かいますか?」


「ですね。そこに出るかもしれませんね」


 現在は西加川駅周辺を探している。繁華街は加川駅の近くに位置しているので、そこならば、かなり人通りも多いから期待できるだろう。


「だったら、市役所の方から向かうといいかもね」


 セブンが喋り始める。会話が成立するのは彼女にAI技術が搭載されているからだ。とはいっても、完璧に会話ができるわけではないので、動画の編集時に動画の 状況に合わせて声を吹き替えたり、セブンを動かさなければならないそうだ。

 それにしても、声も動きも滑らかで驚かされる。


「どうしてだ?」


「あっちにはコンビニが多いから、暴走族が現れるかもだよ」


「おい、暴走族はやばいだろ!」


 加川の平和を守るとはいえ、いくら何でも暴走族に近寄るのは危険だろう。


「なるほど。確かに。セブン、案内を頼むよ」


「かしこまりっ! じゃ、次の信号を右折ね」


「承知しました」 


 柚梨が頷いて、勝手に案内を頼むと、セブンが案内を始め、久他里さんは彼女に従って、ハンドルを切る。


「だからダメだって!」 

 

 俺は必死に止めようとするが、セブンは道順を教え、久他里さんは素直に運転する。

 なんで、そんなにお前たちは怖いもの知らずなんだ。

 それよか、暴走族に誰が注意するんだよ!


「湊様、加川の平和を守るためです。私たちがやらなくてどうすんですか! 愛しの加川じゃないですか?」


 なんか、妙に張り切っているな棗ちゃん。

 ここ最近分かったことだが、棗ちゃんは夜になるとテンションが高くなる。

 なんでも、いつもは九時に就寝するから、この時間に出かけるのはワクワクするらしい。


「湊くん、ビビってるの?」


「ああ、存分にビビっている最中だ。もし、暴走族なんかに睨まれたら車内で漏らすかもな。それが嫌なら今すぐ行き先を変えようか」


「へぇーそうなんだ。もし、漏らしそうになった縛るから安心してね」


 柚梨が言葉を返すと共に、紐状のモノを取り出したことをバックミラーで俺は確認する。

 こいつ、ナニを縛るきだ! やめろ死んでしまうわ。


「それは勘弁してくれ!」


「大丈夫だよ、痛くしないから」


「そういう問題じゃねぇ!」


 そんな風に冗談を交えて柚梨たちは暴走族をひたすら探し続ける。

 いま、ふと思ったが、暴走族を探すやつらなんて警察以外にはいないのではないかと。

 暴走族もユーチューバーに捜索されているとは思っていないだろう。


「あ! あれじゃないかな?」


 市役所目指して五分。広い国道を走っていると突如、柚梨が身を乗り出してきて、前方を指さした。そこに視線を向けてみると、対向車線に派手やかで非常に喧しい集団がいることが確認できる。

 おい、見つけちまったよ。


「あれだな」


「おや、ここに居ましたか」


「見つけたね! よーし、追いかけよう。五十メートル先でUターンできるよ」


 そうして車はUターンし、暴走族の後をつける。

 連中は明らかな交通違反を行っていた。まず、ヘルメットを被っていないやつや三列走行、前方の車を煽ったりするなどだ。


「Uターンできるよ、じゃねぇよ! 追いかけるな!」 


「さて、どう懲らしめようか」


 柚梨が人の悪そうな笑みを浮かべる。


「まずは、兎に角付け回して、此方の存在に気付かせないといけませんね」


「ですな。ではもう少し近づいてみましょう」


 暴走族たちに近づくが、彼らは前方の車を煽ることにご執心なようで、此方には気付いていない。

 どうせなら、このまま気付かないでもらいたい。


「全然気づかないね。久他里さん、クラクションを鳴らしてもらえますか?」


「畏まりました」


 柚梨が指示して、久他里さんはノータイムで了承する。


「ダメですって!」


 俺の制止もむなしく、 


 ぱぁぁぁぁぁ!


 奴らの騒音アンサンブルに一際大きな、クラクションが加えられた。

 すると流石に気付いたようで、二人乗りの暴走族の後方に座っているやつがこちらを振り返り、中指を立てる。

 挑発のつもりなのか、唾まで吐く。


 ぱぁぁぁぁぁ!


 だが、久他里さんも負けじとクラクションを鳴らし、挑発し返した途端、今度はその周りにいた複数の暴走族がスピードを落とし、車のサイドを囲む。

 どうすんだよ! 囲まれたじゃないか!

 もう、どうにでもなれ!

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