第4話 お嬢様と一緒にユーチューバー?

 彼女にお願いされなくても教えるつもりだ。これはとても重要なことである。それを知らないまま彼女を俺の動画に出演させることは出来ない。


「いいよ。簡単な話なんだけどユーチューバーが就職や進学時に不利なのは端的に言えば、社会から十分に一つの職業や趣味として認められていないから。世間の一部では馬鹿な事をやっているってイメージがあったりするんだ。何か良く分からないことをやっている変な奴を招き入れるより、普通に優秀な人間を囲う方が無難だと捉えるんだ。学校も会社も」


「確かに自分たちが全然知らないことを行っている人に対しては懐疑的になりますよね」


「そういうこと。でも、そういうのに寛容な会社や学校もある。会社内自体がすごくウィットに富んでいたりユーモア溢れる所だったり、学校なんかだとスマホやネットを使って授業することも聞いたことがあるね。そういう所はは積極的に雇ったり進学時にマイナスポイントにはならないかもしれない。でもそんな企業も学校も多くないのが現実だ」


 俺の言うように面白かったらOK! みたいな学校や企業は最近では割と増えてきた。

 分かりやすい例を挙げるならば、企業だと社員の息抜きにビル建ての社内に古き日本の銭湯みたいな大浴場があったり、毎日席を変えてしまう制度や社内ならどこで仕事をしても自由だとか、しかもおしゃれなカフェや無料シアターがあるなど今までには無かったものばかりだ。

 

 学校で言うと、学力ではなく特別な技術、強い向上心のある生徒を入学させるAO入試なんかはメジャーで割と多くの学校に取り入れられている。

 だが、遊び心よりも純粋に仕事や勉学に取り組むべき、という思いを持った人たちは多くいる。それが悪いとは言わないが、そういう人達からはどうしてもユーチューバーなどは不審な目で見られることになり、そういう場合に俺達は除外される。


「そうだったんですね。私、知りませんでした。だったら羽寝崎様はどうしてユーチューバーになられたのでしょうか? 私から見て羽寝崎様は大学生くらいに見えますが、大学生なら就職活動が控えているはずです。何故不利なのにユーチューバーに?」


「ああ、俺は大学生だよ。でも今は休学中で、暇だからユーチューバーを始めたっていう理由だ。進路の事は深くは考えていないよ。どうせ、決まっているし」


「もうすでに就職の内定がお決まりなんですか?」


「あーいや、そういうわけじゃないんだけどね。ま、就職先が決まっているというか、なんというか」


 何とも歯切れの悪い言葉しか出てこない。なぜなら、話したところで朱鷺坂さんを困らせるだけで、誰にも何の得にもならないからである。


「あ、申し訳ありません! 聞いてはいけないことだったでしょうか?」


「別にたいしたことじゃないから謝らなくていいよ」


「それなら良かったです」


 朱鷺坂さんは無礼な事をしてしまったとでも思ったのだろうか、すぐに頭を下げて謝る。

 本当に良い子だな。出来ることなら妹であって欲しかった。今から何とかならないかな? 


「で、話の続きだけど、俺は問題なくても朱鷺坂さんがこれからユーチューバーになったことで、困るといけないから俺は断ったんだよ」


「それなら、私だって問題はありません! だから私にお手伝いをさせてください!」


 おかしいな。進路が不利になるって聞いたら普通の子はすぐに引き下がるはずなのに。


「どうして?」


「だって、私は学院の卒業後、そのまま大学に進学できますし、就職先も完全に決まっていますので全然ユーチューバーでも問題ありません」


 それ、マジなのか! お金持ちの美少女で大学受験の心配もなく、就職先も決定しているだと⁉ なんという勝ち組だ。

 やべぇ、この子に勝てる要素が見当たらん。


「俺のチャンネルはあんまり人気がないから、人目に触れることは殆ど無いけど、クラスの子とか学院の誰かが見ることがあるかもしれないし、そうなったら色々と聞かれたり変な噂がたったりするかもしれないよ?」


「それでも構いません!」


 どうしよう。もう断る理由がない。なら、一緒に動画を作ってもいいんじゃね? それにこんな美少女が動画に出てくれたら、チャンネルも人気が出るんじゃないのか? 

 向こうから一緒に動画を撮ろう、ってことは多少なりとも好意はあるはず。だったらそういう展開も…………。いかんいかんそういうのは良くないぞ。だが、相手は現役JK! モチベが上がるってのは事実だ。

 いや、でもしかしなぁ。俺らの関係がただの相方だったとしても、視聴者はどう捉えるかわかんないし、彼女に迷惑がかかるかもしれん。困ったなぁ。


「よし! なら俺達で動画を作るか!」


 で、結局、採用することにしました! 勿論そういうのが理由じゃないぞ! いいなお前ら!


「あ、ありがとうございます! これから三人で頑張りましょう!」


 ん? おかしいな。今、変な単語が聞こえたぞ? 三人? 間違えちゃったのかな。かわいいなぁ朱鷺坂さん。


「三人じゃなくて二人じゃないの?」


 俺はニコニコした顔を彼女の間違いを指摘する。


「いいえ、三人で合っていますよ? だって久他里さんもいるのですから。ですよね?」


「はい、そうでございます! 羽寝崎様、不束者ですがお嬢様共々これからよろしくお願い致します」


 先日のように急に現れた久他里さんを見て、俺は一気に絶望の淵に落とされる羽目となった。

 おいおい聞いてないぞ。なんでジジィと一緒に動画取らなきゃなんねぇんだよ!畜生! 

 でもまぁしかし、人数が増えると編集とか撮影の一人分の負担は減るからな。朱鷺坂さんは学生だし、編集とかそういうのは時間的に無理だからそれは俺がやるとして、撮影に関しては久他里さんに手伝ってもらおう。企画とかは朱鷺坂にたまにでいいから出してもらって、基本的には俺がチャンネルの運営をする形にすれば上手くいくだろう。


「了解です。俺の事は湊でいいからこれからよろしくね。二人とも」


「はい! 私の事も棗と呼んでいただけたら嬉しいです」


「不肖、この久他里が精一杯お手伝いさせていただきますぞ!」


 そんなわけでお嬢様とその執事が仲間に加わりました。

 ホンモノのお嬢様はともかく、執事がユーチューバーをやるって中々ないだろ。 キャラ付けとしては良い感じだな。加えておじいさんがユーチューバーってのは珍しいし、そういう感じでやれば面白いか。

 なんにせよ、今のところデメリットはあんまりないし、炎上とかないだろう。

とりあえず三人で頑張るか!


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