五分間のデート

@muuko

いつだって、僕は。

 別れよう、私達。

 会うたび君はそう言った。

 そのたび僕も、こう言った。

 別れない、絶対。


 もう会わない。

 部屋に入れてくれなくなった君。

 外は桜の季節。

 僕はいつも、花束をドアの前に置いていった。


 毎日通った。

 君は何も言わなかった。

 僕はドアの向こうから、何度も声をかけた。


 だからさぁ、僕がいつも会いたいと思うのは、君なんだよ。



 夏、やっと君が僕に会うと言う。

 向日葵の花束を買ったよ。君が好きな花。



 部屋の前に立つ。

 深呼吸をする。

 ドアに手をかける。

 胸が高鳴る。

 ドアをゆっくりと開ける。

 君がいる。

 胸が熱くなる。

 白いベッドに横になる君と横に座る僕を、日の光が優しく包む。

 久しぶりの2人きり。

 五分間のデート。


 変わったでしょうと君は言う。

 だけど優しい目元はあの頃と同じで。

 どきどきするねと僕は言う。

 見つめ合う視線をくすぐったそうにして、君はすこし笑った。

 僕は君の耳元でささやく。君はすこし泣いた。


 手が使えないの。

 恥ずかしそうに口にペンを咥えて。

 僕にくれたメール。

 今読まないでって怒る君も可愛い。


 僕がささやいたのは、たった四文字の言葉。

 君がくれたメールには、たった四文字の言葉。


 だからさぁ、いつだって僕の胸を焦がすのは、君なんだよ。


 側にいて。

 手を握って。

 顔を寄せ合って。

 僕はずっとこうしたかったんだ。

 こうしたかったんだよ。

 忘れないで。

 僕はいつだって、いつだって君を想うよ。


 そして君は微笑んだまま、僕にさよならをした。

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