もう止まらない

「お疲れ様でしたー!」

体育祭の全種目が終わり、後はキャンプファイヤーを残すだけとなった。

「依莉、キャンプファイヤー見に行こ」

「あーごめん、先行って。ちょっと用事があって」

「わかった。でも早く来てね」

手を振って捺を見送る。クラスメイトも次々教室から出ていった。一人を除いて。

「で、どうしたの」

綾人君の方を見た。その顔はいつもよりも真剣な表情をしている。

「…………」

「……言いにくいのかもしれないけど、言わないとわからないよ」

私はじっと待った。綾人君の口が開くことを。

「……鈴宮が、好きだ。一緒にキャンプファイヤーを見たい」

「……へっ?」

予想外の答えに一瞬頭が白くなる。そして正しく意味を理解した時、私の頰は熱くなった。

「えっ、ええー! あ、あのでも私は捺と……」

しどろもどろになりながら答える。

「……うん、そうだよな。キャンプファイヤーは諦める。もちろん告白、本気だから。ちょっとは考えてくれよ」

そう言って綾人君は教室を出ていった。横顔も、耳も真っ赤だ。本気なんだってわかった。私の頰もまだ、熱を持っている。これじゃあ捺のところへも行きづらい。熱が引いてから捺のところへ行こうと思った時、教室のドアが開いた。

「! 捺ごめん! 今行こうと……!」

入って来たのは捺。謝ろうと顔を見た時、違和感を覚えた。いつもより暗く感じる。

「捺? 捺、どうしたの……?」

「……どうせ」

「えっ?」

「どうせ、どうせ依莉も……みんなも……私と仲良くなんてなかったんだわ……」

下を向いて呟くように話す捺。

「ちょっと、本当にどうしたの?」

「……捺が遅いから、こっちに来たらこの教室前の廊下で綾人君とすれ違ったの。顔が真っ赤で……それで教室に入ったら依莉も真っ赤で……。私を放って二人でキャンプファイヤーに行くんでしょ……私には後で用が長引いて行けなかったとか言えばいいものね……」

「違っ……!」

その後の言葉が続かなかった。捺の瞳は冷たく、何も映していない。初めて出会った時のように。何を言っても耳に届かない、そんな気すらした。

「どうせ、どうせみんなお金目的だったのよ……!」

「違うってば! 私と捺は親友、そうでしょ?」

声が震えてきた。一体どうして、捺がそう言うのか全くわからない。

「そんなの嘘。本当に親友だって思っていたのは私だけ!」

やはり、捺は聞く耳を持たない。少し腹が立つ。

「そう。そうだったんだ。私も捺と親友だと思ったのに、もうおしまいだね」

「……」

捺は話さない。私は止まらない。

「言い返さないんだ。そっか、それならもうこれも要らないね」

私は手首につけたシュシュを外して乱暴に鞄に突っ込んだ。

「……そう、ね。要らない、わ。……もう私は帰るから、キャンプファイヤー楽しんで」

捺は自分の鞄を持って、教室を出ていった。一度も振り返らなかった。

「少しやりすぎたかな……」

明日になったらきっと捺も落ち着くだろう。その時謝って、何があったのか聞こう。


あれから一週間が経った。まだ、捺は学校に来ない。


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