仲良し二人組

「じゃあ喫茶店、縁日、カジノの三つで多数決を取ります。今から配る紙にどれがいいか書いて二つに折ってください。回収しに行きます」

学園祭のクラス展示の案が出尽くし、どれにするのアンケートが行われる。学園祭は文化祭二日、体育祭一日の三日間で構成されており、クラス展示は文化祭の二日間に行われるためかなり重要である。

ちょんちょん。肩を突かれて振り向く。

「依莉は何にしたの?」

「カジノ。捺は?」

「奇遇ね、私もカジノにしたの」

「お揃いだね」

同じ案に投票したのが嬉しくて二人で笑った。

「集計終わりました」

何にした? 等の話でざわついていたクラスが一瞬で静かになる。

「結果、喫茶店になりました」

やったー! と喜ぶ声が響く。

「残念だったね」

「ね、でも喫茶店も楽しそうだよね」

捺と小声で話す。周りも騒がしい。けど、

「静かに!」

クラス委員長の綾人君の鶴の一声でクラスがまた静かになる。

「喫茶店ということでテーマ、もしくは方向性などを決めたいと思います。何か意見はありますか?」

女装男装、アリスモチーフ、執事&メイド、猫等々いろいろ出て来た中で捺も手を上げた。

「テーマや方向性じゃないのですがいいですか?」

「はい、いいですよ。今はいろんな案や意見が欲しいですから」

「せっかくお茶を出すなら本格的なものをして他のクラスと差をつけませんか? というわけで英国式の紅茶にしたいです」

「なるほど、じゃあそれも案に入れますね。でもこれだと予算どれくらいになるかな……」

綾人君と一緒に進行をしているクラス委員の真紀ちゃんが心配そうな声を出す。

「それなら大丈夫。私の家から持ってきます。もちろん食器も」

「えっでもそれは悪いよ……全部高い物だし……」

「なら普通の紅茶と同じくらいの値段で私の家の紅茶を売る、それならどう?」

「まあそれなら……」

真紀ちゃんがちらっと綾人君の方を見る。綾人君はこほんと咳払いした。

「えー、お茶はテーマを決めるためにも必要なので先に決めようと思います。今の三島さんの案に賛成の方挙手してください」

手が上がる。もちろん私もあげる。

「過半数なので決定します。三島さん、よろしくお願いします」

「任せて。って違うわよ、みんなの為じゃないから! 半端な紅茶を出すクラスが私のクラスだなんていやだからで、つまりは私の為だから!」

一瞬クラスが静かになった。捺は素直になれないから勘違いされやすい。カバーしようと口を開きかけた時、綾人君がパンと手を叩く。

「もう時間もいいぐらいですしテーマも決めちゃいましょうか。これがいいって案1つに手を上げてください。まずは女装男装喫茶がいい人」

クラスの空気を一瞬で塗り替えた。もう先程の捺の言葉を気にしている人はおらず、どの案にするか悩み始めている。

「えー、女装男装喫茶が二十六人と過半数を超えたのでこの案に決定します」

パチパチパチと教室中から拍手が起こる。一部の男子の顔が青い。

「ではこれで企画書を出します。以上でロングホームルームを終わります。お疲れ様でした」

その後解散になったので私は捺の方を振り返る。

「大丈夫?」

「うん。……あーあ、またやっちゃった」

「次気をつければいいよ。ほら帰らないと、お迎えが待ってるでしょ」

「私は別にいいっていってるんだけどね」


文化祭の買い出しを頼まれたので捺と二人で近くのショッピングセンターにやって来た。頼まれたものを全部買って帰ろうとした。が、さっきから捺の姿が見当たらない。来た道を引き返すとショーウィンドウを見つめている捺の姿を見つけた。

「なーつー? 何見てるの?」

急に話しかけられて驚いた捺が、勢いよく振り返る。

「ごめん! 立ち止まっちゃって……」

「いいよいいよ、それより何を見てたの?」

捺が見ていた物を見る。アクセサリーを揃えている店のようできらきら光るものや可愛いものが色鮮やかに飾られている。

「気に入ったのあった? 買う?」

「いっいや違う! 別に無いわよ! ほら、早く学校に戻ろ!」

そう言いつつも捺はちらちらとショーウィンドウを見ている。絶対気に入ったのがあるのだろう。だけど、どれかまではわからない。私はアクセサリーに詳しくなく、どれがいいものなのかもわからない。少し考えて、こうした。

「ちょっと来て!」

「え?」

捺の腕をがっつり掴んで店内に入る。ショーウィンドウに飾られていたシュシュと同じ物を見つけてハーフアップにしている捺の髪ゴムの上に着ける。捺の艶々の黒い髪にピンクの花が咲いたみたいでとても可愛い。

「やっぱり可愛いね」

「ど、どうしたの急に……確かにこのシュシュ可愛いけど……」

「ネックレスだったら校則でアウトだけどシュシュだったら大丈夫でしょ? それに」

私は同じテーブルに置かれた色違いの青いシュシュを手に取る。

「お揃いで買ったらいい感じじゃない! ね、買わない?」

そう言った途端固まる捺。

「で、でも依莉は? 依莉はショートカットだし……」

「私は手首に着けるから大丈夫だよ」

捺は少し考えるそぶりを見せた。

「そっそこまで言うならお揃いで買ってあげてもいいわよ?」

「やった! じゃあ買いにいこ!」

私は青色のシュシュ、捺はピンクのシュシュを買った。早速手首に着ける。いい感じ。それからシュシュが入っていた袋に一枚の紙が入っていることに気がついた。

「あっ見て捺! シュシュを使ったヘアアレンジが書いてる紙が入ってるよ。どれかする?」

捺の髪ならきっとどれも似合うだろう。でも捺は首を振った。

「私も手首にしようかな」

捺は白い指をシュシュに通し、手首に着けた。

「ふふ、お揃いだね」

私達は手を近づけてシュシュを並べた。

「本当だね。私、ずっとシュシュ着けてるよ」

「私も」

捺は嬉しそうに笑った。

「ねぇ、知ってる?」

「何を?」

「体育祭のキャンプファイヤーのジンクス。恋人や親友同士で火を眺めればずっと一緒に居られるっていう」

「ああ! 知ってるけど、それがどうしたの?」

「依莉もし暇なら一緒に行かない……? どっどうせ暇だろうから付き合ってあげるわよ!」

髪をくるくると指に絡ませ、目線を下にやりながら捺は言う。

「オッケー、いいよー」

私がそう答えると捺はパッと顔を上げた。まるでお菓子の山を見ている時の子供のような顔。

「それにしても、捺ってジンクス信じてたんだね」

「へっ? あっ.そっそんなわけないでしょ! そんな非科学的なことなんてあるわけないんだから! 私はきっと依莉は一人で可哀想だから誘っただけで、別に他意なんてないんだから!」

子供から茹でタコに変わった。湯気が見えそうなくらい立派な茹でタコだ。あまりにも必死になるからつい、笑ってしまった。

「ちょっと依莉! なんで笑っているの!」

「ごめんごめん! なんでもない!」

「絶対嘘!」

「本当だってー! ほら、帰ろ?」

不満顔の捺を連れて、私はショッピングセンターを後にした。

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