第10話 銃士本部

同じような高層ビルが立ち並ぶ街の中に一つだけ目立つビルがあった。遠くから見ると黒く周りのビルの4倍ほどの大きさの建物。

ここが「武器使職ぶきししょく 銃士本部じゅうしほんぶ」である。

真斗はこの一際立っている建物の中に堂々と入る。

(こりゃあ、外からも大きく見えることもあって中も広いな)

エントランスは外から見た時に想像したよりも遥かに広く感じる。

真斗は受付がある奥の所へ行き、女性の方に声をかけた。

「すいませーん。銃士学校の真神 真斗ですけれど」

真斗は那瑠に

「とりあえず本部についたら名前言え」

と言われていたのでその通りにする。

「あ、那瑠様の代わりの方ですね。三十階奥の司令室にお向かい下さい」

真斗はお辞儀をし、エレベーターへ向かった。

(いやぁ、三十階建てとかキモすぎだろ)

真斗は周りのビルの階数と比べて驚愕していた。

周りの高層ビルは高くても二十階ほど。

そしてそのビルの所有者はサービス会社本部などである。

それを考えるといかに武器使職がどれだけ重要な職業か良くわかる。

真斗はエレベーターに乗り、三十階までやってきた。

エレベーターを降りると目の前に 大きなドアが設置されていた。

「これ自動だよな?」

明らかに開けるための持ち手がそのドアにはない。奥のの司令室に向かへと言われたが流石にこれ以上奥には扉が存在せず、道は真横に進んでいるため仕方なく、ドアの目の前に立つ。

するとドアが開いた。

「少し焦ったわ。これもしも開かんかったらどうしようって」

初めての場所に緊張する真斗だった。

そしてドアの中に入るとまさに司令室という後継があった。沢山のモニター、そしてヘッドホンをつけた人達。非常事態に備えているというのを示していた。

「ん?誰かな?」

奥から爽やかな声が聞こえた。若干声が高いが、明らかに男とわかる声だった。

「君は確か銃士学校の⋯誰だっけ?」

(早速天然様みたいなの出てきたな、おい)

真斗がツッコミを入れるほど、その男は爽やかな声を発した後、長い時間自分を思い出そうとしていた。

那瑠が真斗を代わりに連れていくと言ったのは今日のはずなので、必ず名前は耳に入っていると思うのだが。

「あの⋯僕のこと聞いてませんかね?」

「うーん、なんとなくは知ってるはずなんだけどなぁ。とりあえず消去方で思い当たる節を消していこう」

奥から爽やかな声と共に男がやってきた。

そして真斗をジロジロ見た。

「姿はなんとなくだが記憶はある。武器は?」

その男は軽やかな口調で真斗に聞いてきた。

「あ、拳銃です」

「拳銃かぁ。実戦経験は?」

真斗は先程インサニティーと戦闘をしているので

「はい」

と答えた。

「うーんと確か名前は」

その男は真斗の名を口にしようとした。

「シンカミ シント!」

「違います!!!」

まさかこんなにもヒントをあげて名前を間違われるのかどういうものなのかと真斗は呆れた。

確かに「真神」を「マサガミ」と見たまま読むのはムズかしい。

だが流石に「真斗」すら間違われるとは思わなかった。

「真神 真斗」とは難しい読み方の名前であるが、実は一度も読み間違われたことは無い。これまで会ってきた人達はそもそも父の知り合いで名前を知っていたり、学校の人達は先生の出席確認の際の名前を読んでいく時に名前を聞いてしまっているため、名前を聞かれたことはない。そして他のクラスの者にはというと読めないため、名前を聞かれることは頻繁だ。

なので実質今回初めて名前を読み間違えられたことになる。

「真神 真斗です。名前の読み方聞いてませんでしたか?」

「あぁ、あれってそういう風に読むんだ⋯んてか名前の読み方聞いてたような」

(この人、典型的な人間のクズじゃないか?)

その男の言動に真斗はまたもや呆れていた。

「おっと、ここで君の名前の話をしていたら全然本題に入れないじゃないか」

男は腰に手を当て

「私は銃士本部総司令官、近藤こんどう 呼界こかい。これからよろしく頼むよ」

真斗は呼界に握手を求められ

「えぇ、まぁ」

と動揺しながらも握手をした。

こんなにも忘れっぽい人と将来仕事をしなければならないと思うと真斗は少し息苦しい世の中だなと感じた。

「そう言えばだが君がここに呼ばれたわけだけど」

呼界が本題に入ろうとした瞬間、自動ドアが開く音がした。

「呼界。本題は終わったか?」

小さな女の子の大きな声が聞こえた。

「まだだよ。那瑠君。珍しいね。君がここに来るなんて」

「貴様は天然小僧だからな。私の生徒にちょっかいかけてないか見に来た」

いやもうちょっかいかけられましたと真斗は突然現れた那瑠に思った。

「んてかなんでロ⋯先生がここに?」

真斗はつい癖で出てしまう「ロリババア」という那瑠への呼び名を必死に我慢した。そのため少し言葉に力がこもってしまっていた。

「ん?先程も言った通りだが?」

「いや俺、あなたに頼まれて、あなたの代わりに来てるんですけど?」

「あ、あれは嘘だ」

「は?」と真斗は怒りを声に表した。

「いや、貴様をここに誘導するにはもってこいの言い訳だと思ってな。貴様は私に毎回刃向かってくるからな。そういうのも考慮して面白半分に口実にしたわけだ。」

真斗は怒りをついに全面的に露にした。

「このロリババア⋯テメェは絶対に許さねえ」

真斗は指をポキポキの鳴らす。

「あぁ?貴様。今私のことをいじったな?⋯⋯フン。まぁいい。そんだけ貴様が殺されたいのならお望み通りにしてやる!!!」

那瑠は思いっきり真斗に殴りかかる。

(あ、やばい。この人電車止めるほど素手のパンチとか強いんだった!)

真斗は少し焦りを感じ、それと共に恐怖を感じた。

そして真斗の腹に当たりそうになった瞬間

「グハアッ!!!!」

真斗ではない、他の男が崩れ落ちる音が聞こえた。

「え⋯⋯えぇ」

真斗は困惑した。先程天然な性格を露にしていた呼界が自分の盾として、那瑠に殴られ倒れているのだ。

「まさかこれも天然故の行動とか言わないですよね?」

真斗は呼界の天然さに震えながら言う。

「フン⋯どうだろうな。昔、呼界の天然さ故に殺さなくても良かったインサニティーを殺してしまったことがあったな。まぁその時はそれはそれで殺してしまってもなんにも心配なかったが」

(いや、怖すぎんだろ!?あとロリババアの言い方もなんか怖い)

平然として話す那瑠と昔話に恐怖をさらに真斗は感じてしまった。

「呼界、早く立て。貴様がいるといつも茶番になるから本題に入りそびれてしまう」

(え?今の茶番!?んてか呼界さん殴ったのアンタだろ!?本題入らなかった原因ロリババアにもあんだろこれ!?)

普通人が崩れ落ちてそれを平然と見ている人がいる茶番などこの世でどこに存在するのだろうか?と疑問を抱きつつも今目の前で起こっているため、この世界の違和感、非現実的なことに対して真斗は混乱していた。

「あぁ⋯⋯そうだったね⋯⋯さぁあぁあぁてと本題に⋯⋯入ろう」

呼界はなんとも苦しそうに机を手すりにしながら立ち上がる。

「君は⋯何を持っているのかね?」

「何を⋯ですか?」

唐突に何を言い出すのかと真斗は思った。

「君は銃士でありながら、拳士の技術⋯うーんまぁこれは私の意見ではあるが君は持ち合わせている。それはなぜかな?」

「わかりません」

「ほぅ⋯⋯何故即答するのかな?」

「俺はいつも考えるからです。自分はどういう者なのかと。大雑把で無責任。もし何か思い当たる節があるかと言われるとこの二つですかね」

真斗は色々思い返す。

するととあることを思い出す。

「自分の性格とか関係なしだったら、昔の出来事、まぁ俺の普段の生活が関わってくるかもですね」

真斗は兄との生活を思い出す。

「昔、兄と色んなとこ冒険してたんですよ。山奥とか色々。んでその時に崖から落ちて死にかけたりとかしてて。でもだんだんそういうことはなくなってきて、危険察知が出来るようになって。まぁ危険察知出来ても身体能力学校の低くて死にかけたこともありましたけど、そこも兄と生活してる家に備わったというか」

真斗は言葉選びに苦労していた。

昔の兄との生活は今の戦闘能力の高さ(まぁ真斗自身、他の人より少し出来るのは自覚している)に関係していると考えている。だがそれと自分の身体能力の一つずつ結びつけていくのはすごく難しい。

なぜなら身体能力が高くなっている、戦闘能力が高くなっているのは真双との生活のおかげだと理解しているがどの部分がどの場面で備わったか把握していないからだ。

もしどの場面で備わったかわかっても元々理解していたわけではないので言葉ですぐ説明するのは難しい。

哲学者でもない奴が哲学テーマについて即興で語るのと同じほどに。

「身体能力の高さの秘訣はなんとなくわかった。それであの狙撃能力の高さについては?」

真斗と呼界の会話に那瑠が口を挟む。

「那瑠君。口を挟まないでもらえるかな?天然な僕でも」

呼界のイメージが次の言葉でガラリと変わる。

「怒るよ?」

呼界の顔が急に険しくなり、真斗達に強烈な恐怖を押し付ける。

「もう茶番はやらないんじゃなかったのか?」

呼界の威圧で怯える真斗に対し、那瑠は恐怖に全く怯えず、平凡な顔で言葉を放つ。

「そうだったね。早速だが那瑠君が聞いてた事。私も気になるから教えてくれ」

(いや⋯⋯またあれが茶番だったの⋯⋯あれが?)

真斗は二人に対し、更に恐怖を覚えた。

「まぁとりあえず仕切り直して⋯⋯あれはですね。幼馴染との遊びが関係してまして」

真斗は零との思い出を思い返す。

「よくエアーガンとかで撃ち合い勝負してたんですよ。幼馴染は色んな武道とか昔やってて動体視力良くて、負けてたんですけど、なんか回数重ねるうちに精度が上がってきたんです」

エアーガンでの撃ち合い勝負。数本の空き缶を置いて、それを撃つ。それを何個倒せたかを真斗達は競っていた。

最初は真斗は全く当たらず、零は半分以上という感じだったが、その後真斗は完璧に命中するほどまで上がっていた。

だが銃士学校の入学試験時は流石に年月が経ちすぎてしまっていたので、「もうあの時のように当たらないだろう」と真斗は予測していたが、その予測は外れ、完璧に的を撃ち抜いてしまった。

「それはかなり昔の話だよな?」

那瑠が真斗に問う。

「あぁ。どうだろうな。兄さんがいなくなってからだから小学生くらいかな?」

「ん?それだとお前が五歳くらいの時に真双は家を出たのか?それだといつ冒険とやらをしに行くんだ?」

真斗と真双は約十歳年が離れている。

那瑠はそれを知っているのか真斗に問いかけた。

「いや、学生の頃はよく兄さん帰ってきてたよ。それでよく遊びに行ってたんだ」

真斗は刀士学校の白い制服を着て、自分と遊んでくれた真双の姿を思い出し、少し笑顔になる。

「奴め⋯土日臨時のパトロールとかにでなかったというか連絡取れなかったのはそういうことか⋯」

那瑠は真斗には何故かわからないが怒りのオーラを放っていた。

「ははは。面白い話なこと⋯いや平和だな。案外残酷な経験とかをしてきたのかと思っていたよ」

「残酷な経験ですか?」

「あぁそうとも。よく昔、海外のテロ組織にいたとかね、子供兵士をやっていたとかね、親を殺したことがある子がいたんだよ。まぁ今は真双君のおかげで少なくなっているがな」

呼界は笑いながら「残酷な経験について答えた。

(残酷な経験⋯殺す⋯血)

真斗は先程の呼界が言った例に該当するような経験は積んでいない。

(なんか引っかかる⋯)

「多分ですけど⋯残酷な経験と呼べるかはわかんないですけど、それかどうか迷ってしまうような経験はしたことがあります」

「どういうことだ?」

那瑠は真剣な顔で真斗に問う。

「死にかけてるんです。僕。兄さんとの冒険で。このことはよく話してて、多くの人には例えとして使われると思われるんですがそうじゃないんです。僕は本当に死にかけてるんです」

真斗は少し重い雰囲気を醸し出しながら話を続ける。

「冒険している時に崖から落ちて大量出血で死にそうになったりしてるんです。他にも頭をぶつけたりして。死んでもおかしくない状態でした。ですが・・・」

真斗は少し黙り込む。これは信じてもらえるような内容だ。だけど現実味がない。その矛盾を感じていたが真斗は口を動かした。

「何故か生きてるんです。目が覚めて気づいたら、すごく元気なんです。目が覚めた時はあまり時間は経っていないくて、それも流石に短時間で自力で治すのは無理だろうと思うくらいの傷なのに完璧に治ってて」

毎回真斗は真双と冒険している時、かなりの致命傷とも言える大怪我を負っている。だが、真斗は生きている。完璧に治って生きている。真斗はすごく自分が不安だった。

「自分が何者かよくわかんないんです。血を見るとその時のこと、残酷な経験と言えるかはわかんないですが少し思い出して、表に出ないけど変な感じがするし、なんか自分にすごく違和感を覚えるんですよね」

少し肩をすぼめながら話す真斗の言葉を聞き、呼界が反応をする。

「君は謎が多い。強さの秘訣がわかっても謎の経験や事実が多いため完璧にわからない。自分の可能性がわからない。か⋯」

「なんとも難しい問題だな。真双と同じく様々なことに対応してきた経験量とそれに加えてほかの技術、更には謎の回復力、経験と来たか、これは考えさせられてしまうな」

那瑠が真斗を哀れむように言う。だが那瑠自身哀れんではいない。彼女の性格が原因としてそう聞こえてしまうだけだ。

思い雰囲気がすごく漂う。そこに大きな軽い雰囲気が声として鳴り響く。

「お前らはそんな希望のような話でクヨクヨしていてどうするのだ!!!!!!」

なんとも大きく低い声だった。

真斗達は様々な場所を振り向く。

だがどこにも影が見当たらない。

「今の声どっかで⋯」

真斗が呼界達のいる方面へ向いて考えていた時、真斗の肩にずしりと重く優しい握る手が出現した。

真斗は小さな声を出しながらびっくりして、後ろ振り向く。

すると見た事のある老人が立っていた。

「久しぶりじゃのぉ。真神 真斗よ。」

そこには入学式に真斗に様々なことを質問し、学校で一躍マイナスなイメージで有名にさせた張本人が立っていた。

「あなたはあの時の!?」

真斗はびっくりして声を上げた。

「あら、柊総統ひいらぎそうとう。お久しぶりです」

(総統⋯総統!?)

呼界が老人に向けて言った「総統」という言葉。それが示しているものに心当たりがあった。

「もしかしてあなたは⋯現段階インサニティーのトップ!?」

「総統」とは主に国を統治する最高指導者の地位を表す。昔の時代に多くの「総統」の位を持った者達が様々な残虐的な行為を行っていたためあまり良い風に思われない言葉かもしれないが、ディフェンサーは規模的に国の政府とほぼ同等。

警察等の組織に公務機関に対して口出し出来る最も国に近いような機関である。

そのためディフェンサーの最高指導者、最高責任者等は「総統」という地位になっているらしい。

「ハハハハ!少年!入学式の時はすまなかったな。その謝罪として自己紹介させて頂こう。私はひいらぎ 動輪どうり。ディフェンサーの総統である。まぁ個人的には総統という名はインパクトがあって好きだが、あまり歴史の関係でよく思わないやつがいてな。呼ばれると変な感じになるから、少年の身分ですある限りは『柊さん』とかでも呼ぶがいい」

まぶたに傷がものすごく怖い人柄だと思わせながらも、話し方や口調は人柄の良いおじいちゃんとかにしか見えないため、重い雰囲気が少し軽くなった。

「はい。柊⋯さん」

間違えて「総統」と真斗は呼びそうになったがギリギリのところで堪えた。

「とりあえず少年はその技術や悲しい経験とやらを希望にしろ。少年のそれは希望に変えられる素材である。少年はそれを希望に変えられるよう今後とも努力するといい」

真斗は少し柊のおかげで元気になった。笑顔が顔からこぼれ落ちる。

その光景を見て「良かったのかな」と呼界と那瑠は思う。

その後、柊は話を変え始めた。

「呼界。話がある。一応那瑠君もいいかね」

そういうと柊は司令室の奥の方へ歩いていった。

「はぁ、何ともこれで質問タイムは終わりか⋯じゃあね。真斗君。また会おう」

呼界は手を振りながら柊について行く。

「私も行かねばならんから、お前は帰ってろ。少し重い話させてすまないな」

那瑠はそういうと呼界と同じように柊について行った。

「まぁ⋯なんか良い経験しか最近してない気がする」

真斗はそう呟くと司令室の出口に向かって歩き出した。

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Tne level 3seasons 真央:翁渦 @maooz426

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