第7話 人助け

天気の良い晴れの日。

銃士専門武器使職高等学校の校舎の目の前には大量の人、生徒がきっちりと列になり並んでいた。

「今から外部訓練。パトロールを開始する。それぞれチームで様々な場所、を探索せよ。だが、空都以内でだ。一応、今日は様々な教師が巡回しているがもし異常があったら、すぐに逃げるように振り切れないと判断した場合は《戦闘を許可する》」

制服をしっかり着こなした教師が大きな声で威圧を持たせながら言い放った。

生徒達、そして教師達はかなりの緊張感を漂わせていた。

「では、始め!」


外部訓練。主に言うと学校公認の授業である。武器使職は警察のようにパトロールをする。インサニティーは普通の人間より頭が回るらしく、刀士達が対処するのには時間のかかる場所に出現し、暴れ回る。そして沢山の被害を出す。

それを抑えるためパトロールを実施し、その悲劇を起こさないよう武器使職は努力している。

そして武器使職を鍛える学校ではそのパトロールで慣れるためにもこの外部訓練を定期的に行っている。

たまに武器使職に就き、そしてパトロールを行った時に緊張で竦むものが多いらしく、それを無くすために学校側は行っている。

だが外部訓練と言っても武器使職は人手不足であるため、よく放課後パトロールに出される者もいる。

「はぁ~。何すんだよマジで。何も起きねぇだろこんなの」

真斗は一人つまらなそうに歩いていた。

「別にやる時はやるけどさ、流石に暇だよな。戦う時はめんどくさいのに逆に戦わないとつまらないっていう。人間とは何ともクソすぎる⋯」

その光景を時雨達は可笑しそうに笑いながら見ていた。

「人生そんなつまらないものじゃないでしょ?楽しいことする代償だって考えれば少し気が楽になるかも」

時雨が真斗を励まそうと活気が落ちないよう提案をした。

「それって余計人間どうしようもないじゃんかよぉー!」

「あはははははは!!!真斗さん面白いですね!」

うさぎがこの四人の中で1番もの可笑しそうに弾け笑う。

「あぁ、うさぎにバカにされるわ。時雨にもっと気を落とされるわ。もう最悪!桃もなんか言うんだろ!?」

「私はなんにも言いませんよ?」

「うぅ⋯お前は優しくて良い奴だな!」

真斗は泣きながら桃に抱きつこうとする。

「流石に⋯怒りますよ?」

桃の顔からものすごく溢れた殺気が漏れていた。

「はい⋯すいません⋯」

真斗は凄く落ち込み、肩を落としながら、ため息をつく。

「ホントに平和ですね。ここってかなりのインサニティー出るんじゃなかったですかね?」

すると場の雰囲気を変えるように、うさぎが話題をもってきた。

「まぁ武器使職の戦士の雛鳥が沢山いますからね。それは先に殺しておいた方が良いでしょう」

桃がうさぎの質問に答えた。

「そもそもインサニティーってなんで襲ってくるんですかね?」

「さぁ?そういえば歴史の授業で習ってない気がする⋯《政府の隠蔽》みたいなものなんですかね?」

うさぎの質問に次は時雨が答えた。

「政府の隠蔽ならいいけど、逆にホントに知らなかったらヤバイよな」

真斗が今の会話から思った事を言った。

「なんででしょうか?逆に隠蔽してたら不安が多くなるじゃないですか?」

桃が疑問を口にした。

「まぁそりゃあ、そうなんだけど、隠蔽してるだけなら謎がわかってる。新しい脅威の対応をしやすいけど、政府がホントに知らない。僕達がホントに知らなかったら新しい脅威が現れた時に沢山被害が出る。もし、知っていたら少しは被害が減る。そういうことだよ」

真斗は下の地面を見ながら話した後、上を向いた。

「だからさ、強くなんないとな。それだけでも被害は格段に減るはずだ」

真斗は強く拳を握りしめた。

「そうだね。僕達頑張らないとな」

「はい。私も頑張らなくては」

「そうですね!」

三人は真斗を見ながら決意よく話す。

そして真斗はコクリと頷く。

「んじゃパトロールの続きだな!少しは楽しくなってきた」

真斗は笑顔を三人に見せた。

そして四人は歩き続ける。

威勢よく。

すると四人が想像もしてなかったことが起きた。

ガン!

近くから音が鳴った。

「ん?今の音なんですかね?」

異変に気づき、それを口にしたのはうさぎだった。

「⋯インサニティーが出たのかもな。行ってみよう」

真斗がそう言うと三人は真斗について行った。

「こんなにも都合よく出るんですね。少し緊張します」

桃が言った。

「まぁ見つけたら誘導するように逃げよう。あまりにも僕達に戦闘は難しい。」

「そうですね!ってあれ?」

時雨の意見に反応したうさぎが何かを見つけた。

「皆さん⋯隠れて」

いつも明るく大きな声で話すうさぎが静かな声で近くの家に身を隠しながら真斗達を誘導する。

「あれって⋯あれ?」

真斗はゆっくり身を潜めてうさぎの見ている方向見てみると

「あれはインサニティー⋯じゃないですね」

そこには男達、約十人が小さな子を囲んでいた。

「おい?お前さ、女っぽい顔しておいて男とか、ふざけてんのか?」

「だよな?こんな可愛い面しといて男とかふざけてんのか?オラァ?」

何とも男十人がかりで男の子を囲んでいじめているらしい。

だが少しだけ真斗達は目を疑った。

「あれってさ、いわゆる『オトコのムスメ』って書いてオトコの娘って呼ばれるヤツだよな?」

「えぇ、恐らく。こんな可愛いらしい男の子がいるなんて思ってもいませんでした」

「と言っても僕達の教師はロリババアだけどな」

「まぁそれは⋯と言っても可哀想ですね。何とかしてあげたいです」

あまりの可愛らしさに少し動揺する真斗と桃。そしてその可愛らしさから生まれてくる「助けたい」という欲求が真斗と桃には生まれていた。

その時、うさぎはじっくり静かに眺めており、時雨は何かを考えていた。

「ねぇねぇ、いい作戦?思いついたんだけどさ」

時雨が作戦話を持ちかけた。

「うさぎちゃんってさ、こういうこと出来る?」

時雨は右手を人に見立てながら、物を飛び越えるようなジェスチャーを想像していた。

「⋯あぁ⋯はい、出来ますよ。昔から運動神経には自身あるので」

うさぎは少しボーッとしながらも返答する。

真斗は少しボーッとしていた理由が気になったが。

「んじゃあ、こういう感じに行こう」

時雨はコソコソと話をし始める。

「よし、これでいいな⋯てかホントにお前いいのか?」

真斗が時雨の作戦に賛成の意を示したが少し大丈夫が不安になった。特に時雨の役割に対して。

「大丈夫だよ。慣れてるから」

時雨は大丈夫と丸サインを手で作る。

「んじゃあ、行ってくる」

そして時雨は隠れていたのを止め、男達に見える位置へ移動した。


「おいおいおい?なんか言ってみろよ?その可愛らしい顔でさ?」

男の一人は可愛らしい男の子、いわゆるオトコの娘の髪を引っ張りあげ、自分の顔に持ってくる。

「や⋯めて⋯」

オトコの娘は泣きながら、体全身を脱力させていた。

「あはははははは!!!さっきの威勢はどうした!?君さ、なんでこういうことされてるか⋯わかってる?」

男の一人がいやらしい顔をしながらオトコの娘の前に座った。

「君の威勢の良さにね⋯惚れちゃったんだよ!いつもは静かで落ち着いていた女子に囲まれて!いつも俺達が行くと女子が庇ってよ⋯なんだよ!ハーレムかよってな!」

男達はさっきよりも大きな笑い声をあげ始める。

「だからさぁ、いつもと違う君を見てなんか面白くなっちゃってな⋯結果的にこのザマ。最高だよ!君みたいな子をいじめるのはホン⋯トに楽しくてめられないね!???!」

喋っていた男は狂ったように笑い出した。

(誰か⋯僕はただ⋯ただ守りたかっただけ⋯なのに)

オトコの娘はそう思って涙を思いっきり流した。

すると、近くの家の塀から男の姿が現れた。

「あれ?君達何してるの?」

時雨は男達に声をかける。

その声に男達は時雨の思惑通り反応した。

「あぁ、なんだてめぇ?」

「あれ?君達女の子をいじめてるの?いけないなぁ。この差別主義の世の中。男は女の子に優しくされなくても、男は女の子に優しくしなきゃいけないんだよ?」

時雨はいつも通りの口調ながら少し挑発した意味を込めて言葉を放つ。

「あぁ?部外者は黙ってろ⋯オラァ!」

時雨は男達の一人に殴られた。

「グハッ⋯」

時雨は防御もせずに攻撃を受ける。

唾を吐きながら立ち崩れる時雨。それに合わせて男達は集中攻撃を始める。

「なんだ!お前もあいつと同じ風になってんじゃねぇか!何イキってるんだよ!ハハハハハハハハ!」

四人くらいの男がは時雨を踏みつけにする。

時雨は防御もせず、無防備に攻撃を受けている。

その最中にまた一人、いや二人時雨と同じく塀から出てきた。

真斗と桃だ。

「あ?なんだてめぇら?お前らはこいつの連れか?」

男達の一人がそう言った。

すると二人の男がそれぞれ真斗と桃に近づいてきた。

「てめぇもアイツと『女の子』みたいに泣き崩れな!!!」

二人は同時に殴りかかった。

かなりの速さだった。だが真斗と桃は綺麗に躱した。

(なんだコイツ!?)

(このスピード!尋常じゃない!?)

男二人はそれぞれ思いが生まれながらも次の攻撃の準備を始める。

「「このクソがァァ!」」

二人は同時に声による威圧を放った。

一発、二発、三発と連続して攻撃を繰り返す男達だったが真斗と桃は綺麗に交わしていく。

「そのクソ雑魚さん?貴方々私達を見て気づかないのですか?」

桃が避けながら言う。

(私達⋯そういえばコイツらの制服!銃士高校のヤツらじゃねぇか!?)

男達は気づき、驚きと動揺を露にした。

そのせいで男達は焦りだし、このままじゃ負けると思い、真斗と桃に近づく。

「まぁわかったようだし、僕達の行動のネタバレといこうかな?」

真斗はそう言った途端、塀からもう一人出てきた。

その人は塀に乗り、走り出す。

そして回転しながら着地しながら、止まらずオトコの娘の方へ向かう。

そしてオトコの娘の体を自分の走りを止めずに抱き上げ、男達から一番離れた所で急停止した。

その人とはうさぎだった。

うさぎはそのオトコの娘を地面に下ろすと真斗達に「成功しました!」とメガネを元の位置に戻した。

「てめぇら⋯よくもオォォ!」

男達は一斉に殴りかかってきた。

「そうか⋯ならこっちも」

「心がクソ色の方々」

真斗と桃は左右別々に男を避け

「「後悔させてやりますよ!」」

真斗と桃は顔面に拳を食い込ませた。そして男達二人はその反動でぶつかる。

そして真斗と桃はその男達二人を同時に蹴って男達の方へ吹き飛ばす。

「ガアッ!」

「バハッ!」

蹴り飛ばされた二人は仲間の男達にぶつかる。

「何やってんだよ!」

「邪魔なんだよ!」

その光景を見て「これはヤバイ」と感じた男は倒れた仲間達を助けに行った。

すると背後から仲間達をなぎ倒していく真斗達が近づいていた。

「なにぃぃぃぃ!」

「なに」と男が発した途端、真斗はその男の顔面を上段蹴りで吹き飛ばす。

そして真斗と桃は蹴って、殴って、またもや殴って。

男達を様々な方向へ倒していく。

するといつの間にか

「あら、これで終わりですか?」

男達全員は腹や顔を抑えながら倒れていた。

「おいおい、時雨大丈夫か?」

時雨は腹を抑えながら

「まぁ、大丈夫だよゲホゲホッ!」

と唾を吐き出した。

「全然大丈夫じゃないじゃん・・・手、貸すよ」

真斗は時雨を肩で担ぎ上げる。

「ありかどう・・・ホントにすまない」

時雨は少し痛そうながらも礼を言った。

そして真斗と時雨は桃の方へ近づいて行った。

桃はその時オトコの娘の手当をしていた。

持っていた絆創膏や包帯、一応なんかあった時のためにと学校側で用意してくれたものをふんだんに使い、治療をする。

「ありがとう⋯ございます⋯」

痛みがかなり凄いのだろう。声が震えながらもオトコの娘は桃達に感謝を述べる。

「おい、そこのオトコの娘⋯って呼ぶのは失礼だな。名前は?」

真斗は時雨を担ぎながら、オトコの娘に名前を聞く。

「円太と言います⋯」

円太という少年は自分のの名前をそう名乗った。そして真斗達もひと通り挨拶をした。

「それで円太君?何でこんなことになったのかな?」

桃が円太の頭を撫でながら聞いてみた。

「あの子達に喧嘩を売ったんです。いつも女の子に守らてばっかなのが嫌だったので」

円太は少し痛みがひいたのか自分で体を起こして話をし始めた。


円太は昔から変わらず可愛らしい女の子のような容姿をしていた。

みんなから親しまれ、特に女性からは友達のように仲良くしてもらっていた。

そういうこともあり、円太はよく男子から恨まれることもあった。たまにおふざけで「円太とアイツは付き合ってる」などがあったがそういうのはギリギリ誤魔化したりして楽しく我慢することが出来た。

だが円太が中学生。今の年齢になった時に最悪なことが起きた。クラスの男達が金を巻き上げてくるようになったのだ。最初は「嘘の噂を流すぞ。流されたくなかった金をよこせ」といった感じだったので噂を流されても我慢は出来ていた。と言っても女の子達が信じなく、守ってくれたからだ。そこから無理やり殴り金を巻き上げてくるようになった。

そして大人数で殴られる数時間前、とうとう女子に手を出し始めた。「円太を殴られたくなかったら金をよこせ」と。それを丁度よく見ていた円太は女子達を庇い、戦うことを決意した。だがクラスの男達は喧嘩強い友達を呼び、円太を一方的に殴ってきた。そして手に負えなくなった円太が絶望していたところに真斗達がやってきた。


「大変だったんですね⋯」

流石に金銭トラブルで中学生がこんな風にされるなんて酷いと余計円太が可哀想に思えてきた桃だった。

「もし⋯桃さん達がいなかったら僕は⋯いや、友達の女の子達はみんな⋯もしかしたら」

円太は涙を流した。腕を目の前にしてそれを隠す。

「あの子達に⋯金を巻き上げられる⋯最悪殴られてしまっていたかもしれない⋯そう思うとそう思うと!」

円太の涙が溢れ出る。ものすごい量の涙だった。真斗達はその光景をただただ黙って見つめる。

「僕はなんて弱いんだ!って。男なのに⋯女に守られるなんてそれは僕が男で生まれた意味がない!さっき時雨さんが言ってましたよね⋯『男は女に優しくしないと』って。僕は優しくする以前に守れない。その機会すら得られない!最低な男なんですよ!」

円太は自虐した。ものすごく自分を罵倒した。それを見て桃は

「そんなことはありません!」

円太を強く抱き締め、円太の顔を胸の方へ押し付けた。

「守れないから優しく出来ないなんてことはありません!そもそもこの世界には本来守るということはいらないのです!それくらい平和でなければいけないのです!だから!円太君は優しく女性と接すればいいんだけなのです!」

桃は円太の背中をさすった。

「だから⋯君は今回、女の子を守ろうとしたことを誇りに思ってください。そういう守ろうとする意志だけでも何もやらない人より何百、何億倍かっこいいと私は思っていますよ」

「桃さん⋯」

円太は桃の言葉に感動し、思いっきり泣き抱きついた。

ものすごい泣き声だった。

それを見て真斗は時雨とうさぎと話をした。

「なぁ、こういうの和むよな」

「そうだね。円太君の頑張りが余計わかって、男のあるべき姿はこういうのじゃないのかなって色々考えさせられたよ」

「真斗さんと時雨さん、貴方々も今回かっこよかったですよ。時雨さんは自らを囮に、真斗さんは私を行動させやすくするためにあんなに何人も相手にするなんて」

うさぎはベタ褒めした。

「あはは。ありがとう。」

真斗は少し笑った。

「俺達の決意は大雑把で無責任だ。そのせいか、武器を決める時はテキトーだし、このチームで頑張ろうと思った時、ものすごく重い雰囲気にはならず、ものすごく明るい雰囲気だった。これは一般的には異常かもしれない。だって人の命を守る仕事だ。今後残酷なことを見る事は避けられない。でも大雑把で無責任な所は深くマイナスなイメージにならずに俺達の心を強くして・・・優しくして、被害にあった人を少し明るく出来る。俺らはその特徴を初っ端から活かせたんだ。」

真斗は今回の事件を含め、これまでの出来事の感想を述べた。凄く気分が良いものだった。

「そうだね」「そうですね!」と時雨とうさぎは反応する。

「さてと、んじゃあこの子送り届けて帰りますか」

真斗は円太にニコリと笑った。

すると円太はそれに気づいたのか泣き止んで笑顔になった。

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