第4話 波乱の入学式
「えーと、これは持っていかなきゃいけなくて⋯⋯これはいいか」
真斗は物を持ってはダンボールに入れ、また物を持っては「いらないな」と言い、元の位置に戻した。
「よし!これで準備はオッケー!」
ダンボールに物を入れるために座っていたがもうダンボールに入れるものは無いなと判断し、真斗は立ち上って背伸びをした。
そして、勉強机の上の綺麗な模様が入った紙を見る。
貴殿は
「まさか⋯⋯いやそうなのか」
窓を見て目に自身の決意を映し出した。
「《首席》で入学。これが約束のための第一歩ってか」
《 銃士で最強》になり、たくさんの人を守り、救うこと。父と約束したことを目をつぶり思い出す。
「⋯なんか怖いな。いざと言うと人間は緊張して、怖くなって、震えてしまうのかな」
(じゃあ、兄さんはどうやって乗り越えたんだろう?)
恐怖。真斗にはそれを感じたことがよくあった。小さい頃、兄と一緒に遊んでいた時に様々な冒険をした。
家の近くは山というのもあり、洞窟、滝など色々な所を兄と一緒に冒険をした。
だが真斗はその時に毎回危険にさらされており、崖から落ちそうになったり、川に流されたり、迷子になったり。
様々な恐怖を体験していた。
だが、真斗は銃士になることを怖がっていた。
何故かは分からない。様々な恐怖を体験しているはずなのに、それを乗り越えてきたのに、それは活用されなかった。
だがそんなことはどうでも良くなった。
「いや、怖いというよりかは楽しみなのかもな。危険を晒されても僕は楽しかった。恐怖というのが楽しかった。恐怖を超えていくのが楽しかった。だから⋯⋯恐怖を楽しめ!俺!」
真斗はパンとほっぺたを叩く。
意識や気持ちの入れ替え、先程の決意を体に染み込ませた。
「真斗~もう時間よ~」
母が下の階から真斗を呼んだ。
「はーい」
そう返事するとすぐさま真斗は下の階の玄関に向かった。
そこには引っ越し業者と思われる服を着た男三人が立っていた。
「では荷物を運びますね」
一人の男が真斗に問いかけた。
「はい。お願いします」
そう真斗が返事するとすぐさま男達は仕事を開始するため、真斗の部屋に向かった。
その直後、先程真斗を読んだ母が台所から出てきた。
「いよいよ行く日だね」
母は真斗が落ち着くような笑顔で言葉をかけた。
「そうだな。そう言えば父さんは?」
真斗は奥のリビングを覗く。
「真斗」
後ろから突然低い声の男に声をかけられ「ヒッ!」と声を漏らし、後ろを振り向いた。
すると父がいた。
「父さん」
「さっき、俺の名前呼んでたよな?」
「うん。最後に挨拶しようかなって」
真斗は玄関の周りを見渡した。
その真斗の行動を見た父は
「とうとうお前はこの家とはサラバになるのか」
と真斗との思い出を懐かしそうしながらに言った。
「色々なことがあったな。喧嘩したり遊んだり怒られたり⋯⋯んてか楽しかったけどあまり良くない思い出が沢山あるな」
真斗は苦笑いしながらそう言った。
遊んだことの他にぱっと浮かんだのが喧嘩、怒られたというプラスのイメージではないことが出てきたのでじわじわと笑いが込み上げた。
「父さん」
真斗は笑顔ながらも真剣な表情で父を呼びかけた。
「ん?」と父は応える。
「必ず約束。銃士になって沢山の人を救うからな。」
決意のこもったその目は父の胸にずさりと突き刺さった。
「あぁ、信じてるぞ 」
そう父が言うと、母が真斗のリュックサックを持ってきた。
「はい。頑張ってきてね」
真斗はコクリと頷き、真斗は光の灯る玄関の向こうへ歩いていった。
完全に真斗はこの家から旅立って言った。
その瞬間、父はさっきの真斗の言葉を振り返り母に話しかけた。
「さっきの決意。真斗のあんな真剣な顔は見たことがないな。感動しちゃったよ」
「そうですね⋯⋯少し寂しいですけど⋯将来を楽しみにして、我慢します」
そう話し合うと二人は笑顔で玄関の先を見た。
真斗は玄関を出てすぐ家の門の前で待っている少女を見た。
「
そこには真斗の幼馴染である
「真斗。ついに行くんだね」
零は笑顔で真斗に聞いてきた。
「あぁ。お前のおかげだよ。零。零が薦めてくれなかったら、今は何をしていたことか」
真斗は笑いながら感謝を述べた。
「うん。それなら良かった。」
そう言うと零は拳を突き出した。
「ほら。よく小さい頃約束事する時にやったじゃない?まぁこれは約束事ではないけど」
零は少し目を閉じて
「活を入れるっていう意味でさ」
零は言い終わった瞬間に目を開き、綺麗な眼差しを真斗に見せた。
「あぁ、ありがと」
真斗は零の突き出した拳に自分の拳を合わせる。
「頑張るな。向こうでも」
「うん」
零の言葉を聞いた直後、真斗は寮に向かうため駅へ向かった。
数時間後
「よし引っ越し作業終わった~!ってか広いなここ。ほんとに寮なんだろうな」
銃士学校は寮制で他の学校も同様である。そしてこの寮の部屋はなんと二階建てになっているである。いわゆるメゾット物件と呼ばれるマンションのようだ。
「うーん、広々してていいなぁここ。明日から学校って言うのもあるけどこんな環境だったらすごく怠けてしまうよぉ~」
と元々設置してあるソファーに勢いよく座り、グニャとしぼみながらくつろいだ。
すると勢いよく座った反動でか目の前にあった机に置いてあった写真が床に落ちた。
それに気づいた真斗はそれを拾ってみる。
「懐かしい写真だな」
昔の真斗、真双、零そして両親が全員でとある街で取った写真だ。
「確かこの街ってあの洋風の街⋯どこだっけな?たしか日本じゃなかったような⋯まぁいっか」
写っている背景の場所が非常に気になるが懐かしいという思いが勝り、そんなことは気にしなくなった。
この街は昔は海外に五人で言った時に撮った写真であるが、昔過ぎるというのもあり完全に忘れていた。
「ふぅー、よし寝るか」
と言うとベットに向かいダイブした。
「えーと電気、電気と」
部屋の電気を消すためのリモコンを探すために枕の下に何故かあったリモコンを取り出して電気を消した。
「わぁああ」とあくびをした後すぐに真斗は寝た。
次の日 銃士学校正門前
凄く広く高く立派な正門を学ランではなく、この学校の制服(黒がベース、少し赤い線が入ったブレザーにネクタイ)を着た真斗はそれを見る。
「さっきも全体的な学校の正門みたいなの見たけどそれに負けないくらいこの正門立派過ぎるな。流石だわ」
様々な人々が正門の端を通っている中、真斗はど真ん中に立ち、立派な正門に見とれていた。
「さてと⋯⋯入学式はセイクリッドホール⋯⋯⋯⋯めっちゃ中二感凄いな!」
セイクリッドホール。この学園都市は国がおすすめするほどの観光施設でもある。というのはこの都市、学校等を建設する際に有名なアーティストに設計図を作ってもらったらしいのだが、そのアーティストがものすごくオカルトなのにハマっていたことにより「聖なる大広間」という何とも中二臭い名前になってしまったという。他にも刀士はリバースホール。拳士はルインホールとなっている。特に意味はあると思えないが。
「まぁ行きますかね。んてか首席だから挨拶みたいなのしなきゃいけねぇんだよなぁ。めんどくさいなぁ」
真斗はそう呟きながら歩き出す。
真斗はセイクリッドホールにつくと出入口のドアに「新入生はご自由にお座り下さい」と書いてあったので入口に入り、広い空間の中から空いてる席を探す。
「あれ?空いてなくね?めっちゃここ広いのに」
とても気持ち良さそうなクッション素材の赤い椅子。それが何千と存在しているというのに関わらず全然空いていなかった。
だがよく見ると大体は新入生ではなく、その保護者や銃士関係者が占めていた。
(これは困ったなぁ)と思っていると
「君。ここ空いてるよ」
と横から声をかけられた。
(学生服着てるよなこいつ?」
真斗にかけた灰色のような髪をした少年はなんと学生服を着てるはずなのにフードが付いていた。
よく見るとブレザーの下にフード付きの服を着ていた。ネクタイは付けていない。
制服があまりにも違ったことに対して気を取られていたが、それを立て直し、真斗はその少年の隣、今真斗が立っている通路側の端の席に気づく。
「あぁ、ありがとう」
真斗は少年にお礼を言うとその赤い椅子に座る。
「君って名前なんていうの?」
少年が突然話してきた。
(これはいわゆるあれだな。高校生初の友達作るチャンスイベントだな)
そう思うと真斗はその問いに答えた。
「
「わかった真斗。僕は
二人は別々に自己紹介をした。
「あぁ、わかった。時雨⋯⋯お前って何?クラスは?」
真斗は気になったことを聞いた。クラスについては事前に合格発表の通知で明記されていた。真斗はAクラスだった。
「僕はAだよ」
その言葉に真斗は
(良かった~マジで良かった~!)
と心の底から思った。
もしここで自己紹介しても、クラスが違うとあまり会えなくなるかもしれない。そうするとこのイベントは少し無駄になってしまうかもしれないと真斗は思ったからだ。
「同じクラスだな!」と言おうとした瞬間
「ご静粛にお願いします」
とアナウンスがかかった。
すると周りの席の声が一気に無となった。
「ではこれから銃士専門武器使職高等学校の入学式を始めます。では初めに理事長挨拶」
そう司会者が言うと舞台の上に座っていた綺麗なスタイルの緑色の髪をした女性が立ち上がった。
そして、演台の前に立った。
「皆様、はじめまして。銃士専門武器使職高等学校の理事長、藍羽 理沙です。」
そう言った直後、何故か真斗はこちらを見たような気がした。だがそれはなかったかのように理事長は話を続ける。
「銃士は年々成果が刀士、拳士よりも少なくなり、あまりこの世界に貢献できていないような印象を持たれてしまい、《最弱の職業》と言われるまでに落ち潰れてしまいました。だが今年、なんと射的を満点取るというこの銃士の新しい世界を作っていくような生徒が入ってきてくれました。私はこの希望にかけ、この職業のレベルを上げていきながらも、その職業も全うできるような人間になってもらえるように願いを込め、私の話はこれで終わりとします」
そう言うと理事長は一歩下がり、深くお辞儀をした。
その瞬間、一斉に拍手が舞い上がった。それを見て、真斗は真似するように拍手をする。
「では、次は新入生挨拶。真神 真斗!」
司会者が大きな声で真斗を呼んだ。
「はい」
(やばい、「あ、はい」って言いそうになった)
真斗は冷や冷や汗をかきながらも舞台を目指し歩き出す。
隣に座っていた時雨は「マジで!?」と驚く顔を満面に表に出した。。
新入生挨拶は首席が挨拶するのがこの学校の伝統だ。それはほぼ誰でも知っていることであり、時雨はそれが原因で驚いた。
そして真斗は演台の前に立って礼をする。
「えー、気持ちいい春風に吹かれながら私はここでこの学校に入学したことをお知らせします。私達生徒は先程理事長が仰っていたことを必ず成し遂げられるように《精一杯努力》することを誓います。これで私の新入生挨拶を終わります」
真斗は一歩下がり、お辞儀をした。
先程の理事長の時のように拍手が舞い上がった。
(何とか切り抜けた⋯いつも使わない私とか使ったらめっちゃ緊張した~)
未だにバクバクする心臓を抑えながら真斗は舞台を降りようとすると
「待った!!!!!」
セイクリッドホールの二階から大きな低い声は聞こえた。
真斗はバクバクしそうな心臓のせいでものすごく「ヒッ!!」と小さく声を漏らし、驚きながらもその声の方向を振り向いた。
そこには着物を着た老人が立っていた。際どい目に切り傷のあるまぶた、そしてしっかりとした体つき、ものすごくインパクトの高い老人だった。
「貴様⋯⋯《何か今回の試験で思ったこと》はないのか?」
(いきなり何聞いてくんのこの人!?」
いきなりの質問に同様しながらも正直に答えないとヤバいと感じた真斗はその問いに答える。
「ふぅ~正直申し上げると」
(正直言っちゃダメな気がするけど)
「めっちゃこの試験カンタンでしたね」
その言葉に周りがざわつき始める。
「筆記試験はまさかの家の中学の定期テストとあまり変わらなくて《ものすごくぬるかった》です。技術テストは個人的な意見ですが昔の経験が役立ち、射的で満点を取れてしまったのでぬるかったなと」
その言葉で席からは大量のヤジが飛び始めた。
「そして貴様は何を求める?」
老人は真斗に際どい目付きで問いた。その目付きを見たヤジを飛ばしていた人間は黙り始めた。
真斗は少し考えた。
(これは言っても良いのではないか?)と。
言ってしまうとこのヤジはもっと増してしまうかもしれないがこれは人々、この学校関係者にものすごく刺さるものかもしれないと。
「テストの難易度を上げ、そもそもレベルの高い人間を入れると良いと思います」
「貴様はそもそもこの学校のレベルを上げるべきだと?」
老人の問いに真斗はコクリと頷く。
「わかった。済まないな。時間をとってしまって」
老人は笑顔で謝ってきた。
「えぇ、別に大丈夫です。では」
そう言い残し真斗は舞台を降りた。
するとまたヤジが飛び始めた。
しょうがないと思いつつ、真斗は元々座っていた席に戻り、ゆっくり座った。
「凄いこと言ったね」
時雨が苦笑いを浮かべながら真斗に言う。
「あぁ⋯まぁこれでいいのかもな」
(自分のレベルを上げるにはもってこいだな)
そう真剣な顔で舞台を見つめる真斗を時雨は隣で何を考えているんだろうと不思議に思い、考えていた。
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