また晩餐。そして。


 目を覚ますとそこは洋館の寝室だった。


 俺はまた寝巻きを着てベッドに寝ていたのだ。

 外は暗く、しんしんと雪が降っている。


 頭が鈍く痛む。

 ここまで戻ってきた記憶も着替えた記憶も全くなかった。

 俺は晩餐会で料理を食べたあと、眠りについてしまったのだろうか。


 外の様子がそんなに変わっていないから、そんなに時間はたっていなそうだった。

 俺はベッドから起き上がる。


                 –––––––––がちゃり。


 扉が開き、メイドが部屋に入ってきた。


 「ああ、旦那様、お目覚めですか?

  昨日はいきなり机でお眠りになってしまったので、びっくりしましたよ」


 「ああ、すまなかった。

  急にねむくなっちまって。なんでだろ」


 「歳ですかねぇ…」


 「うるさいわ!」


 ふふふと笑うメイド。

 だが、俺は少し引っかかるところがあった。

 昨日…?

 

 「旦那様、ちょうど今、晩餐会の用意ができたところです」


 支度をいたしましょう、とメイドは言った。


 まさか。

 また晩餐会?


 ちょっと寝たどころではなかった。

 どうやら俺は丸一日眠ってしまっていたらしい。


 今さっき食事をしたばかりではないか…。

 そう感じる俺だったが、やけに腹が減っていることに気づいた。

 空腹はキリキリと胃を締め付け、俺に食事を要求した。


 「さ、ほら早く」


 メイドが俺に着替えを差し出した。

 もちろんランプとツルハシも一緒だった。



––––––––––––



 俺は昨日と同じように薄暗い廊下をメイドと進んでいく。


 「なぁ、俺ってさ」


 俺は先を進むメイドに声をかけた。


 「ここ2日間なんにもしてない訳だけど…」


 大丈夫なのだろうか?

 仕事とか。


 「旦那様は大地主ですから」


 大丈夫ですよ。

 とメイド。


 そんなことあるのだろうか?


 「何にも心配しなくていいんです。旦那様は」


 メイドはいつの間に俺の瞳を覗き込んでいた。

 黒い黒い、吸い込まれそうな瞳だ。


 「今はただ、お休みください」


 どういう––––––。


 しかし、俺がメイドに声をかけようとすると、それは本の山だった。

 辺り一面に本が転がり、目の前には本の壁。


 俺は訳が分からずツルハシを振るう。

 なぜかそうしなければいけない気がしたのだ。

 本は岩のように砕け、汗が俺の額をつたう。

 汗は冷たい床の上にポタリと垂れた。


 そうして現れた観音開きの扉を俺は開く。


 「旦那様、お待ちしておりました」


 そこは薄暗い食堂で、彼女が俺を暖かく迎える。


 「今夜の晩餐はローストチキンです」


 俺は何かを彼女に聞かなければいけないような気がしたのだったが、あまりの空腹に耐えきれず、口を閉ざしたままテーブルへと向かう。


 テーブルの上には彼女の言葉どうり豪勢なローストチキンをメインに、様々な料理が並んでいた。


 俺はナイフとフォークを手に、食事を始める。


 これまたやけに美味しい料理だった。

 昨日とはまた違う。

 濃密でさわやか、辛くて甘い、贅沢なひとときだった。

 

 食事を終え、一息つくと、昨日とまた同じ感覚がした。


 テーブルの皿達は俺から遠ざかっていき、闇の中に消える。

 感覚という感覚が麻痺し、柔らかな闇へと落ちていく。



 俺はまた、眠りについていた––––––––。



––––––––––––



 目を覚ますと、洋館の寝室。


 俺は寝巻きを着てベットに寝っ転がっている。


 外は真っ暗で、しんしんと雪が降っている。


                 –––––––がちゃり。


 メイドが部屋に入ってきて言う。


 「旦那様、お目覚めですか?」


 それはそれはにこやかにメイドは言う。




 「晩餐会の用意ができました。


  支度いたしましょう–––––––?」


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