長い廊下の先に。


「では参りましょうか」


 俺は悩んだものの、空腹に耐えかねてメイドの案内にしたがうことにした。

 扉を開けて部屋の外に出る。

 毛皮のコートを着て、手には灯油ランプと鉄のツルハシ。


 部屋の外は長い、長い廊下だった。

 廊下は真っ暗で、ランプの灯りだけが辺りを薄ぼんやりとてらしている。


「なんで明かりをつけてないんだよ…」


「人がいない部屋の明かりは闇に食われてしまいますゆえ」


 さらっと爆弾発言をするメイド。


 俺たちはランプで道を照らしながら廊下の先へと歩みを進めた。

 床には豪華な絨毯がしいてあり、足音を吸い込んでいく。

 室内だというのにあたりは冷え、息は白くなった。

 コートを着ていなければとても耐えられないだろう。


 進む廊下は入り組んでおり、いくつもの曲がり道、分かれ道があった。

 そこをメイドは迷う様子もなくすいすいと進んでいく。


 そういえばこいつの名前を俺はまだ知らない。

 俺は先を行くメイドを見て思った。


「あのう、君の名前って何だっけ?」


 先を歩くメイドの背中に声をかける。


 フッと彼女は俺を振り返り、じっと俺を見つめた。


「私の名前を旦那様が知る必要はありません」


「どういうことだ?」


「そのままの意味です。私はあなた様の忠実なメイド。それだけでいいじゃあ、ありませんか」


 もちろんそれで俺が納得できるわけはなかった。

 しかし、メイドはプイッとそっぽを向くと、俺を無視してずかずかと歩み去っていった。


「おい、待てよ」


 彼女に聞きたいのは名前だけじゃなかった。

 この不気味な屋敷はなんなのか。

 俺の記憶がないのは、なんでなのか。

 聞きたいことは山ほどあった。


 曲がり角を曲がった彼女を追うと、そこは行き止まりだった。


「!?」


 あたりには分厚い本が散乱しており、突き当たりも本が山となって積みかさなり、壁と化していた。


 彼女はどこにも見当たらない。


「おいっ、どこいった?」


 辺りを探るが、どこにも隠れるような場所はない。




 見失ってしまったのだ–––––。





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