寝坊助ミュージック

しみどうふ。

我々は自由だ!

「何か思い出に残ることがしたい!」

寝癖を抑えながら、彼女は言った。


桜が丘学園文化祭、通称桜フェス。

そこでは毎年、クラスごとにカフェや屋台などたくさんの催しが行われ、大いに賑わっている。

その中でも特に盛り上がるのが、後夜祭。

生徒たちが頑張ったご褒美という名目で、普段は禁止されている化粧やフェイスペイントなどをした生徒たちが自主的に参加し歌やダンスをして盛り上がる、進学校とは思えないようなイベントだ。

私たちが参加できるのは今年で最後。

受験を控えているという理由で不参加でも許されていたのだが、

「やっぱさ、ウチらが居たって証を残したいじゃん?」

この子にとっては、参加しないという選択肢は無かったらしい。


私と志穂と香苗は高校で知り合った。

それぞれの中学の話や共通のアニメの話をしていたらいつの間にか、一緒に居ない日なんて無いくらい仲良くなった。

それぞれのタイプはバラバラなのに楽しくて、居心地よかった。

なのに、運命というのは残酷で、私たちはそれぞれ違うところに進学することが決まってしまった。

離れても連絡できるよ、なんて言うけれど、そんなことを言っていても疎遠になる可能性があることくらい、わかっていた。


「志穂と愛美とずっと居られないのはわかってる。だからさ、ウチらが居た証として、後夜祭に出ようよ。」

「熱意は伝わってきたけど、それを香苗が言うとは思わなかった。」

熱弁しすぎて唾が飛びそうな香苗と手鏡で前髪をチェックしながら話す志穂。

いつも思うことだが、なんで私たちって仲が良いのかわからないや。

「出るとしたら何をするの?」

「バンド!昨日見たYステのガールズバンドが可愛くってやりたくなった!

愛美は声が可愛いからボーカルとギターで、志穂はベース、ウチがドラムでどう?」

ちょっと妄想してみたら、なんか楽しそうに思えてきた。

「私は良いと思うなあ。練習大変そうだけど。志穂は?」

「香苗が一回も寝坊しなかったらいいよ。」

「ゲッ。」

カエルのような声が漏れ、私と志穂はくすくす笑った。


香苗はよく遅刻する。

いつも目覚まし時計を用意しているというが、ぶっ壊れているんじゃないかと思うくらい、遅刻する。

この間なんて、担任の先生から

「これ以上遅刻するなら留年も考えないとな。」

と言われ、顔が青ざめていた。

そんな香苗が毎回遅刻せずに練習するなんて、誰が想像できただろうか。

正直、集合5分前に寝癖まみれで来たことは何度かあったが、それでもなんとか間に合っていた。

眠い目を擦りながら頑張るその姿勢に、私たちも負けていられないという気持ちになって練習した。


私たちが出演できるのはたったの五分間。

その五分に思いを込め、今、歌う。

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寝坊助ミュージック しみどうふ。 @shimidoufu077

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