第5話 最弱で不死身の魔王

「始めましてお嬢さん方、私の名前はスライム。種族名ではなく個人名がスライム、最弱にして不死身の魔王スライムそれが私、どうぞよろしく」


魔王スライム、生前にも会ったことはありますが予想通り今の私を見に来ましたか

最弱で不死身の魔王と言われる魔王、このスライムは死なない、殺せない


「そんな大物がどうして僻地の闘技場に来ているのですか?」


「そこのホムンクルスと従者の出来を見に来たのだよ、赤いお嬢さん」


「私たちの出来ですか?」


するとペイナの後ろから

「そうだ」


右斜め前から

「ホムンクルスと」


左斜め前から

「従者」


右から

「その戦闘力も」


左から

「重要だ」


前から

「だから」


右後ろから

「少し」


左後ろから

「調べさせて」


どんどんスライムの数が増えていく

擬態によって椅子に隠れていたスライムは凡そ100体、全員が黒いゼリー状の塊に体の殆どを覆う口を持つ本体スライムと一緒の見た目。

前後左右順番に


「も・ら・う・ぞ」


周りに現れた全てのスライムが歯を出し不気味に笑った


一部のスライムが手を生やし近くに居たスライムをメイドに投げ飛ばしてくる

攻撃はそれだけではなく投げ飛ばしたスライムの間を縫うように触手が襲ってくる

その数は一匹に付き10本、数百の触手が前後左右上下隙間無く襲う

それらの攻撃を無詠唱で展開した半球状の魔法防壁でデドラが防御する


「ワシのことを忘れておらんか?」


「忘れてなどいないさデドラ、だが君だけでは守り切れないぞ」


その言葉と共に魔法防壁内部で擬態していたスライムが自爆する

普通なら完全に防げないタイミングだったのだが魔法防壁内に居た三人は見事に防いで見せた


デドラは闘技場の椅子に擬態していたのが現れた100体以外にも居ると考え伏兵を警戒していたため、自爆するスライムにあわせて魔法防壁を解除し一人用に再展開して防ぎ


メイド二人は結界が解除された瞬間に近くに居る数十体のスライムを魔法ハンド使い幾つもの手を出し掴み取って盾として防御した


この魔王の攻撃方法は有名であったため三人全員が知っていたので対応できた


パチパチパチパチパチ


「ふはははははは、すばらしい!すばらしい出来ではないか!デドラの爺さんは魔法防壁を解除し自身だけに小さくして再展開、メイド二人は飛び込んできた分体を掴み引き寄せ盾にして防ぐ、1秒も無い時間で咄嗟に出来た防御としては100点満点だ」


高笑いするスライムが突如爆発する


「私も忘れていませんか?」


爆発の原因はエトナ・イングラシアが飛ばした液体金属


彼女の剣は右手にイフリートを刺した物を液体金属を足して長くなっており、左手には浮かせたサッカーボールぐらいの液体金属の塊


スライムが喋ってる間に剣と一部の液体金属を回収

メイドたちが攻撃をされてる間に闘技場の結界を一部解除し、

客席に移動したと同時に回収した液体金属を一滴分をスライムに飛ばし見事命中

水で出来たスライムの体の中に入り水蒸気爆発が起きた


「久しぶりだなエトナ、私のことは覚えているか?」


爆発したことがなかったかの様にエトナの後ろから擬態を解除して話しかけるスライム


「覚えているはずがない、私は死んだのだ。死者に生前の記憶など不要!今の私は体が覚えている残滓だ、お前のことは概要ぐらいしか知らない」


エトナの目の前の椅子が変化し擬態が解除される


「とても残念だ…」


常に歯をだして笑っていたスライムがこの時だけは悲しそうに頬を下げた


そこに分体スライムが投げつけられる

それは特に抵抗無く悲しそうなままの本体スライムにぶつかって二体共に弾け飛ぶ


「よくもやってくれたな、青メイド!」


喋っている本体と思われるスライムが青メイドことメージュの後ろに現れる

思わず後ろを振り返るが同時に本体スライムは自爆し酸で出来た体を回りに弾け飛ばす


「っち」


咄嗟に魔法障壁を使って防ぐ



「分体を取り払うついでに相手にぶつけるのは悪くないが、それは相手が防御を考えていた場合のみ有効だ、私のように始めから防御を無視している相手には手痛い反撃をもらうぞ!」


再びスライムは歯を出して笑い出し、今度はメージュの左側から声が聞こえる


「ご高説どうも、それで私たちをどうしたいのですか?」


赤メイドのペイナが答えると


「最初に言ったと思うがホムンクルスと従者の戦闘力を見に来た」


今度はペイナの右側から声が聞こえる


「訓練はしたが実戦経験がないといったところか?」


後ろ側から

「なら丁度いい機会だ実践と言うものを経験してみるがいい!」


ドヤ顔で言った次の瞬間、喋ってたスライムは光線のような魔法で弾け飛ぶ

やったのはデドラ・ヴォイニッチ、オーカム帝国が誇る魔術師である

その力は引退している現在も衰えることは無く高難易度の魔法を完成させる


「スターレイン」


光線を打ち上げ一定の高さで爆発のように分裂させ指定した敵を撃ち抜く上級魔法

その魔法は見事に決まりその場に居たスライムの弱点となる核を撃ち抜き消滅させる

実践と言うものを経験してみるがいい!とか言われたので拍子抜けだ


「終わった?」


「魔王と言っても呆気なかったですね」


「私が加勢せずとも終わったな」


魔王と言っても分体、それも最弱クラスの水スライムなら当然の結果ともいえる

だけど周りにスライムが居なくなってもガドラは警戒を解かない


「まだじゃ、まだ終わっとらんぞ!」


その言葉が間違いじゃないとばかりに居なくなった観客席から擬態が解けたスライムが出てくる

数は凡そ100体、先ほどの攻撃など意味無いとばかりに元の数に戻った


「酷いなガドラ、これでは私の面目が立たないだろう?大人しくそこで彼女達の戦闘でも見てるといい」


「そうすれば満足するのかの?」


「あぁ、私の目的はホムンクルスと従者、その戦闘力を見ることだからな。それとも4万の私を相手にするつもりかね?」


「っち、迷惑で面倒な魔王じゃ」


4万とはこの闘技場の観客席の数だ、最初に観客席の椅子から擬態を解いて出てきたことから、伏兵として擬態しているのは観客席の一部ではなく全ての観客席の椅子で擬態をしているとも取れる発言だが、恐らくそんなに甘くないだろう


伏兵がいるのはバレていても数がバレていないなら言う必要はないのだが

敢えて言う場合ハッタリで多くいうか、逆に少なく言って油断させるか、バカ正直に言うかの三択

ハッタリだったりする場合もあるのだろうが過去の記録ではスライムの魔王がハッタリで数を多く言ったことは多く無いし殆ど言う意味もない

それはやろうと思えば数万程度ならすぐ集められるからだ


ここにいる全てのスライムを倒したところで意味が無い

魔王スライムを本気で倒したかったら世界に存在する全てのスライムを倒さないと終わらないのだ

そんなことは不可能というほどスライムは種族として数が多く、一匹でも討ち漏らせばそこから鼠算式に増えていく


故にこのスライムに付いた二つ名は「不滅の魔王」、「最弱で不死身の魔王」などと呼ばれている


この魔王を退けるには近くにいる全てのスライムを倒すか魔王の目的を果たして満足してもらうしかない

デドラは後者を選び構えを解いて自分だけに魔法防壁を張る


「…いい判断だ」


デドラの前で擬態を解き笑う

メイド達とエトナの周りに擬態を解除したスライムが数百匹現れる

全て椅子に擬態してたようで擬態が解けた場所には椅子がない


4万と言うのは嘘ではないようですね」


エトナはもう一度、回収した液体金属を一滴飛ばし椅子に当てる

それは予想通り擬態したスライムで急激に熱せられ水蒸気爆発を起し、爆発音を合図としてスライムが動く


「ハーハッハハハハハハハハハ!!!」


一斉に擬態から解除していくスライム

その数は言葉通りの4万匹だと思われる


ニヤリと笑うと半数の2万匹のスライムが腕の触手をだし

近くに居たもう半分のスライムを手に乗せて投げつけてきた


メイド二人は袖から中に収まらないほどの剣を出し構える


剣と言っても本来の用途は魔物の解体用包丁で

忍者刀を分厚く包丁のような形に改良したような見た目で刃渡りは目測1mほど

二人とも片手で剣を持ち片手で魔法の標準を定め放つ


「星屑」


「アイスガトリング」


赤髪メイドのペイナが手を左から右に視界を振ると同時に宙に浮いたビー玉ぐらいの大きさの光の玉が星屑のように展開される


青髪メイドのメージュは正面に展開した星屑にワザと開けた穴を狙い氷弾が次々と着弾スライムや地面を凍らせていく

その氷だらけになった場所目掛け二人は駆けていく


背後と少し上の空中では星屑に触れたスライムが膨張した光の玉に飲まれ焼かれ蒸発していく

氷だらけの場所に駆け込んでも二人の足は止まらない

片手の剣で近場のスライムを斬り倒しアイスガトリングガントで敵を凍らせ道を作り星屑で追撃を防ぐ


最初に居た場所はデドラのスターレインで少なかったがスライム包囲網と言っていいほど囲まれていた

抜けるには倒しながら引き付け包囲網に穴を作るしかない


いくら最弱固体のスライムとはいえ魔王の意思で統一された約4万のスライムは固体能力を超えた自爆技を惜しげもなく使ってくる


それは並みの魔法剣士ではあっという間に囲まれやられていただろうが

二人の戦闘メイドは並みの魔法剣士を数段上回っていた


ペイナとメージュが使ってる星屑とアイスガトリングは上級魔法で、使えるならそれだけで一人前の魔法使いを名乗れる

さらに襲ってくるスライムの核を魔法の片手間に一撃で潰してしまう剣の腕はそこらの騎士にも劣らない


囲まれた状態で奮闘しているが如何せん相手の数が多い


一方、エトナは手に持つ剣と左手にある液体金属を使い一定範囲を熱地獄にして身を守っている

熱地獄で攻撃を受けていたらか顔は複雑そうだが有効でスライムは入った瞬間沸騰し始めて動けないまま爆発する

余裕がありそうなので援護してもらいたいが、メージュが凍らせるのに対してエトナは蒸発させている

効果が正反対なので下手な援護は妨害になりかねず、エトナは様子を見るようだ


これで実質的に約4万匹に対して二人対抗することになる

一度の魔法で100匹近く倒してもそれを400回繰り返さなければならず

その間中ずっと上級魔法を連射し続ければ途中で力尽きるのは明白だ


だが分かっててもこれ以上に有効な方法を取れない


このままジリ貧でやられるかと思ったが突然スライムが動きを止め一斉に西の方角を向いた

そこに今までのような笑みは無く、ただ無表情に西の方角を向いたままカウントダウンを始める


「3、2、1、」


0のタイミングで大きな地震が来る

大きな揺れで立てないことはないが歩くことはできそうにない

エトナは主人の記憶から震度を出そうとするが体感したことのない大きな揺れで判断できなかった


「「「「煙はわずかに見える」」」」


「「「「影響は甚大」」」」


「「「「風向きは西方向」」」」


「「「「日照時間の激減」」」」


「「「「海龍不明」」」」


スライムが一斉につぶやいてるので聞きづらいが何か不測の事態が起きた模様で頭の中で整理し終え

メイド達近くのスライム、デドラの近くのスライム、エトナの近くのスライムが別々に振り返り元の嫌な笑みを浮かべる


「デドラとお嬢さん方、私は用事ができた」


デドラ、メイド二人、エトナの前に居た3匹のスライムが突如崩れ後ろから話しかける


「まだ実力を出し切っていないが合格にと言うことにしよう、ご苦労だった!」


言葉の最後に殺気を飛ばして体が崩れる


「ふむ、無理に固体限界以上の力をだした影響で」


またスライムが突如崩れる


「この場にいる全ての私(分体)が限界のようだな」


またスライムが突如崩れる


「私はこの場から去るが忘れるな」


後ろから

「私はどこにでもいる」


左から

「私は何でも知っている」


右から

「私は全てに期待している」


正面から

「また会おう」


全てのスライムが同時に叫ぶ


「さらばだ」


ハーハッハハハハハハハハハ

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