第4話 エトナ・イングラシア

《戦闘試験では助けを呼べません、ここで詰みです。ご苦労様でした》


その瞬間、私に意識が切り替わる


(なんだ?目が見えない?声が出せない?体が動かせない?)


《これより第二試験起動、エトナ・イングラシアを開始します》


ご主人さまの意識が消えると同時に身体に変化が訪れる


肌が少し白くなり、胸が膨らみ、喉仏が引っ込み、


顔が少し小顔になり、髪が長くなった


斬られた傷は完全に塞がり火傷も消える


他にも変化が見られるが服を来てるため目立たない

変化を終えたそれは紛れも無く女性に変わっており性別も女性だ


「あー、あー」


声も女性のものに変わっている

そんな変化をしてるのにも構わずにイフリートの攻撃は続いている

殆どは逃げ場をなくすため熱地獄を拡張中だが稀にこちらにも液体金属を飛ばしてくる

観客席では熱が来ないように闘技場の結界を発動してしまった

それは熱地獄に蓋をされたと同じで熱の逃げ場が無くなった


つまり助かるには熱をどうにかするしかない

だけど、そんなことは関係ないとばかりに体のチェックを始める


手にはマメなど無く生まれたてのように綺麗な状態


腕には火傷や切り傷もなくご主人様と比べると筋肉が落ちている


足の大きさは変わらず、やはりご主人様と比べると細くなっている


体はご主人様の影響か生前より大きくなっている、ついでに胸も大きくなっている


顔は自分で見れないからどうなっているか不明


など無い


「あぁ、なつかしい私の体。」


攻撃を回避するついでに手を、足を、身体を、確かめるように動かす


「胸と身体が大きくなってるのが違和感あるが、古傷が無くなったのはありがたいな」


そんなことをやってる間にイフリートの攻撃によって熱地獄が完成した

溶鉱炉の中にいるような気温になり武器を立てかけてあった木の棚が自然発火し

液体金属が赤い光を放っている


「魔法仕様可、武器無し、盾無し、防具無し」


熱地獄に居る私は周囲の熱を魔法で操作することによって生きている

半径1mに冷気を集め熱気を外へ押し出しているせいなのか

薄いバリアみたいなものが私を包む


イフリートはこの熱地獄でも溶かしてない斧二つ手に取りこちらに向かってくる

液体金属が常温で固まらないように、この斧も溶けないように温度を固定しているのだろう


「さて、どうしたものか」


私は剣士だ


魔術も使えるが剣が無ければ戦闘力は半減する

即席の剣で思い浮かぶのは氷の魔法剣


しかし、ここは熱地獄で相手は炎の魔人イフリートもどき

氷の剣では即溶けるのが目に見えている


なら他に作れるのは熱に強い土の魔法剣になるが、問題が一つある

作ってる間は無防備になるのをどうにかしなければならない


幸いイフリートは歩いて間合いを詰めている

おそらく一足で間合いを詰められる距離まであの速度だろうが、

こちらが何かしたら遠距離攻撃に移るのが目に見えている


その場合、魔法防壁で防御しても熱の防御は削られる

ここは熱地獄、熱の防御なしでは焼け死ぬ

剣を作らずに無手で対抗すると言う手もあるが、この身体に慣れていない状態では分が悪すぎる

なら魔法の遠距離勝負という手もあるが、私は剣士だ!

魔法で戦うということも出来なくはないが魔法メインで戦えるほど得意でもない

やはり剣を作り戦うのが一番いいが、その間の隙をどうにかする必要がある


そこで一ついい案を思いついた


私を中心に霧が出始める

その瞬間、イフリートは近くにあった液体金属を斧で掬い石つぶてと共に飛ばしてくる

その攻撃を足を動かさず身体を捻ることで避ける

ここは賭けだったが幸いうまく避けられた


遠距離攻撃が終わったころには私の身体は霧に隠れていたので次は幻聴の魔法で足音と霧の出る場所を移動させる

これに釣られてイフリートは霧が出ている中心に向かって走り始めた


これが私の作戦、私は一歩も動いていないがイフリートは霧を撒きながら逃げる私の幻聴を追って明後日の方向を走り続ける

(この間に剣を作るのだけど、熱操作、霧、幻聴の魔法3種同時と並行して即席剣を錬金術で作るのは初起動にしてはキツイな)


剣の材料は地面の土とイフリートが飛ばしてきた液体金属

剣の作成失敗はイコール私の死ではないが、これが失敗すると重傷または重体になる可能性が高くなる

なので慎重に、しかし時間は掛けるいられないので速く作らねばならない


周囲の地面を固め圧縮し、液体金属で熱し、また固め圧縮する

そうして出来た剣は片刃の柄の無い剣

剣の刃はただ鋭く研いだもので即席の使い捨てレベルのもの

刀身は地面を固め圧縮し熱したものなので黒く

液体金属で熱したため血管のような赤い筋が刀身に浮き出ているが

剣のデザインは作りやすさを重視したので禍々しい見た目でもしかたない


剣が出来たあたりでイフリートがこちらに気づいた

同時に足音の幻聴と霧の魔法を解除


「デドラ、こちらの声は聞こえているか?」


すると頭から声が返ってきた


「聞こえとるぞ」


「イフリートもどきは殺して構わんな?」


「構わんぞ、闘技場の見世物に使うには強くなりすぎたからの」


あとで聞いた話だが剣闘用のミノタウロスがイフリートに進化し始めて檻に閉じ込めて置くにも限界が来ていたらしい

少しずつ知恵も付けていたので檻を溶かせると気づくまで秒読み状態だったとか


イフリートが騙されていたことに気づき怒りこちらに走って向かってくる

途中、地面を削って石つぶてと液体金属を飛ばしてくる

今までと違い今度は我武者羅にこちらを狙っている

熱地獄を作っていた間と違い適格に狙っているが

今まで避けられたように腕力で飛ばせる液体金属や石つぶての速度など大したことはない

それを補うように数を飛ばしてくるが避けられないものは剣や魔法を使って軌道を逸らせば回避は容易い


相手が逃げるの前提な1回目と2回目の攻撃


絶対にあたる範囲攻撃


この二つの攻撃パターンと今回のパターンを考えればイフリートが格下しか狩っていなかったことが伺える

動物や魔物としては正しいのだけど闘技場の戦士としては致命的な経験値だ

相手の突撃に対し私は動かず遠距離攻撃を凌ぎ

ぶつかる瞬間に踏み込み左肩から胸の炎が出ている場所の心臓がある位置まで

斬り刺したというのは、本当は左肩から胸まで斬り進みそのまま右脇腹まで斬る予定だったが武器の強度が足りず、心臓あたりまで斬り進んだあたりで深く突き刺すことに変更した


そのまま即席の剣を心臓に突き刺したまま手放し相手と距離を取る


突撃したイフリートは攻撃が空を切り、その一瞬で心臓を刺されたことに気づいたのは心臓が止まってからだった


だが、その程度では上位の化け物は死なない


「エアカッター」


風の魔法エアカッター

風の刃を飛ばす魔法で首を斬り二発目のエアカッターで額の上を輪切りにする


心臓を潰し、首を斬った上に脳まで潰せす

ここまでしないと安心できないのが上位の化け物だ

さすがにここまでやれば死亡は確定だろう


「ふむ、見事じゃエトナ」


「ありがとうございますデドラ様」


「予想とは違いに戻ったが不具合はあるかの?」


「機能上の問題はありませんがになっておりますので慣れるまで時間がかかります。」


「それはちと問題だのう。魔術に関してはどうじゃ?」


「熱、霧、幻聴、風と魔法に関しては問題は無さそうですが錬金術に関しては剣を作っただけなので情報不足です。」


「錬金術に関しては暫く出番はなさそうじゃし、最悪使えなくとも金でどうにかなるのでいいじゃろ。問題は性別変化だけと見てよいのじゃな?」


「はい、ですが予想外の効果として変化後の傷修復などがありました。」


「ふむ、予想される弊害に目をつぶったとしてもその効果は捨てがたいのう。その辺も踏まえて調整じゃな、これで戦闘テストは終了じゃ」


これで私の起動試験は終わったわけだが、イフリートが残した液体金属は未だ熱を放ったままだ


「それでこの熱地獄はどうしましょう?」


「ふむ、それにはワシに考えがあるんじゃが、熱地獄の元(液体金属)を集めといてくれんかのう」


「了解しました」


パチパチパチパチパチ


そのとき拍手が聞こえてきた


私もデドラ様もメイド二人も誰も拍手はしていない


ここはデドラ様がこの日のために貸切にした闘技場で

この場には4人と死亡した一匹しか居ないはずだった


拍手していたのは一匹のスライムだった


観客席の椅子に擬態していたためかスライムが居る場所だけ椅子が無い

ご主人様の知識にあるバスケットボールより一回り大きいぐらいの黒い球体に

棒のような腕が生えてデフォルメしたような人間の手があった

目は無く身体の約半分を占める大きな口が歯を見せながら笑っていた


「久しぶりじゃな、スライム」


「あぁ、久しぶりだデドラ私のことを覚えていてくれて嬉しいよ。それに」


そこで黒いスライムの体から一つの目が生えてきた

目には目蓋がないため目玉が飛び出てきたと言ったほうが正しいかもしれない

口以外の黒い表面を移動しの手のひらで私たち4人を観察するように見てくる


「始めましてお嬢さんがた、私の名前はスライム。種族名ではなく個人名がスライム、最弱にして不死身の魔王スライム!それが私、どうぞよろしく」

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