第3話 戦闘試験

《おはようございます。ここは北西の迷宮都市アーバルの闘技場です》


闘技場(?)は歴史の教科書で見た古代のコロッセオみたいな感じの観客席と意味ありげな地下通路


目の前には片手剣、両手剣、大剣、刀、槍、斧、薙刀、ハルバード、ナイフ、ハンマー、メイス、フレイル、などおおよそ思いつく限りの武器が置いてあった


嫌な予感しかしねー


隠れる場所・・・・なし


地下通路・・・・・獣が吼える声が聞こえる


観客席の壁・・・・目測4.5m


壁乗り越えるにしても目測4.5mはきついな、下手に彫刻ほってデコボコしてるから登れなくは無いが悠長に登ってたら地下通路に居るらしき獣にやられそうなんだよな


目の前に立てかけてある武器に目を通すといい感じのハルバードがあった

ハルバードを持って軽く素振りしてみると、思ったより重いが振れないこともないといった感じの重さだった

長さは身長から計算するにおよそ2.5mの持ち手も全て金属性なところが良い


もう一度状況確認だ


正面の壁・・・・・凹凸が少ない


左側の壁・・・・・爺さんとメイド二人がこちらを見ている


右側の壁・・・・・壁の一部が飛び出てる特別席が見える


後ろの壁・・・・・入場門があり固く門が閉められている


ここで一番駄目な行動はじいさんかメイドに助けを呼ぶことだ。

少し考えれば分かるが、俺をここに連れてきたのはあいつらだ。


《これは戦闘用ホムンクルスの戦闘試験です、武器を取り敵を見事打ち倒してください》


「ッチ」


強制的に眠らされて強制的に戦わされるらしい


「ふざけんな!ここには人権ってもんがないのか!」


《戦闘用ホムンクルスは人ではありませんし、この世界に人権という概念は基本的にはありません》


強制的に戦わせたいんだろうが壁を見る限り逃げられそうなので逃げることにした


《闘技場は人が逃げ出せないように高い壁で覆われています。逃げるのは不可能と宣告します》


うるせぇ、この程度の壁なら余裕で登れるだろ


そんな訳で入場門があるところまでハルバードを担いで走る

入場門は石を削って様々な模様が書かれているが、それは即ちデコボコと言う事

足を引っ掛ける程度にはデコボコしているので助走をつけて壁登りを開始する

2m前後勢いに任せて登ったところでハルバードを壁上に突き上げる

予想通りうまく壁上に引っかかったあとはこれを使って登るだけだったのだが


爺さんが雷の魔法をハルバードに当てやがった!


大した威力ではなかったが金属製なので俺の手にも伝わり反射的に手を離してしまった

重心を後ろにずらしていたためそのまま背中から落ちる


「まさか壁を登ろうとするとはの、少々甘く見ておったわ」


そんな声が聞こえた気がしたが俺の目には地下通路から出たヤツの姿しか頭に無かった

牛の頭に人間の体、足は蹄なのだがバランスをとるために人間の足に近い形の大きさになっている


一般的に言うミノタウロスが俺の目に映っていた


普通なら中に人が入ってるんじゃね?とか思うが通常思い浮かべるミノタウロスと違い、肘や頭、胸から炎がでているし、背中からも火がでているっぽい?


《あれはミノタウロスが進化しイフリートに変化してる途中の個体と思われます》


爺さんがここは異世界だって言ったが本当に異世界らしいな・・・


あんな体から炎がでる生物なんていてたまるか!

仮にきぐるみのようなスーツをきて炎をだすような仕組みがあったとしても中の人が暑さで死ぬ


「つーか、初戦の相手がイフリートって俺に死ねと?」


《ご主人様は一度死んでいます。》


そういうことじゃねー!っと突っ込みたかったがイフリートがこっちを獲物と認識したらしく

近くの斧を二つ取りこっちに向かってくる


斧は二つとも両刃で通常は両手で持つために作られてるのか持ち手が長めに付いていたが片手で持ってやがる


そんなモノを持って襲ってくるんだから、圧迫感がハンパねー!

とりあえず状態を起こし身構えるがハルバードは壁上に引っかかったまま取ってる暇もない

素手で挑まなきゃならんのか


《魔法の使うことを推奨します》


(そんなもん使えたら苦労しねーわ!!)


《ご主人様は魔法の才能があります、身体強化魔法は無意識に使ってるようですし

イメージがあれば私の補助で簡単な魔法は可能です》


この状況でイメージって無理!身体強化魔法だけ意識的に使えるようにしてくれ!!

こんなこと考えている間にイフリートの間合いに入った


《了解、身体強化発動!通常の3倍のパワーが出せます》


体格差を生かした上からの一撃を反射的に避けるが

続いて放たれた左からの二撃目は、最初の一撃を放った斧の位置が逃げ道を塞ぎ避けられない

逃げ場がないことに気づいたときには既に斧は目の前


「ほう、ギリギリ致命傷は避けたようじゃな」


とっさに斧の柄の上の方を掴んで止めたが、この後どうしよう?


《武器が必要です》


イフリートと体の位置を入れ替え武器を取りに行けってか

簡単にいうなぁ、ヤルしかなさそうなのが悲しいが”楽しく”もあるな!


斧から手を離しイフリートの最初の一撃が来る前に、

こちらから胸の炎が出てるところに一撃入れて相手を吹き飛ばし間合いを取る


(む、炎に手を入れたはずなのに)


「熱くねーな?」


《戦闘時は痛覚などの感覚を切っております》


は?


ふざけるなよ、痛覚を切るとか虫じゃねーんだ止めろ!


《腹部の傷に手の火傷、これらの痛みで思考が正常に機能しない可能性があります》


痛みが邪魔をするからアドレナリンとかで必要以上の痛みを調整するんだろ!


《了解、痛覚遮断を解除しアドレナリンを通常の2倍の速度で分泌します》


その瞬間、体中の痛みに熱が同時に襲ってきた


痛い、熱い、痛い、熱い、熱痛い、


手の火傷以外にもイフリートに近づいたことによる火傷が発生していた

防いだように思っていた腹は斧の一撃を貰っており、内臓に届いていると思われる


「痛い、痛い……っが!これで力を出せる」


痛みがあるからこそ人間、痛みの重要性を理解しない化け物になんかなりたくない

それにこれだけ痛みがあれば自己暗示でより力を引き出せる

引き出す力は一回鉄筋コンクリートの壁を殴って骨折する程度で大したことは無い


本命は傷が治る体質だ、生前は足が骨折しても次の日には歩ける程度に治る体質

魔法があるこの世界ならば、もっと…


《確認しました、自己再生発動》


(やっぱり出来た!生前の体質も身体強化で上がってるな)


《……腹部の傷、再生》


こちらが体勢を整えてる間に吹き飛ばされたイフリートも体勢を整える

体の状態を確認し、武器の状態も確かめる

20mは吹き飛ばしたはずなのに平然としている


吹き飛ばした距離から考えて無傷とは思えない

確実にダメージを与えたはずなのに平然としている理由は痛覚がないのかもしれない


「こんな体だが俺は人間だ」


痛覚があって当たり前、痛みがあるからこそ傷を庇える

痛みとアドレナリンでハイになってる気がするが気にしてはいけない


イフリートが叫びながら突っ込んで来る

その走りはどこかを庇っている様子はなく傷を考慮してない走りだ


今度は完全に返り討ちにしてやろうと身構えたが

斧で地面を削りとり塵と一緒に石つぶてをこちらに飛ばしてきた


石つぶては外れたが遅れて飛んできた塵の粉塵で前が見えない


「ヤバッ!」


急いで粉塵から脱出するが左側に出たところを斧で狙い撃ちにされる

こちらも狙い撃ちされるだろうことは予測していたので避ける


運良く一度目と同じ縦と横の二連撃をやってきたのだが

最初と同じように一撃目を避けられるのを考慮して誘導し、

二撃目を粉塵で隠した本命を狙ってきた


工夫しても基本的には最初と同じ攻撃

逃げ道を塞ぐ一撃目の斧を踏み台にした軽いジャンプで回避

追撃は来なかったが奥にある武器を取らせまいと立ちふさがるので一旦距離を取る


「武器がない」


相手は化け物で、工夫する程度は知恵が回る


この異世界に来たときに着けていた防刃装備があれば良かったんだが一度眠らされたときに外され

今は服しか着ていない


3倍程度の身体強化では避けるので精一杯


この体がホムンクルスっていうならアレがほしい


《イメージ検索完了。強欲の盾は魔法で再現可能です》


(マジか!まだ治ってない火傷の腕に頼む!)


強欲の盾が発動する

ホムンクルスが出てきた漫画と同じように、俺の両腕が硬く黒く覆われていくのはいいのだけど


「動かせねぇ!」


腕は回せるが肘から先が全く動かせない


《硬くなれば動かなくなるのは当然です》


「使えねぇ!!!!」


(肘を動かせるように黒い部分を押さえてくれ)


《了解、肘より先の硬質化を解除します》


そんなことをやっている間にイフリートは武器が置いてある場所に移動し身構えている


「武器を取りに来たところを返り討ちにするつもりか?」


そんなことを考えていたが違った

両手の斧を脇の地面に刺し別の武器を取り振り回してきた

それだけなら距離があるので慌てないのだが振り回してきたときに液体を飛ばしてきた

もちろん、ただの水というわけではない


液体金属


イフリートが熱を操り武器溶かし飛ばしてくる

主に剣の切っ先から飛ばしてくる液体金属は水鉄砲程度の速度

距離があるので全てを回避するのは容易かったが、狙いはかなり悪く時々大きく外すようなことが多々あった

最初は数滴だったのは徐々に多くなり、今は一振りで剣の金属部分を全て溶かしガラクタに変える

武器全てを溶かし仕様不可能にする、それがイフリートの狙いなんだろうと思ったがそれだけじゃなかった

液体金属がイフリートから離れているのに固まらない


それはそのまま金属が溶けるほどの熱量を放っていることになるが

それが辺り一面にぶち撒けられているのだ

多少外気に触れた程度で熱は収まることは無く、温度は確実に1000度以上

熱から逃げるように闘技場の端に追いやられる


「どうしたものか」


イフリートは熱の中心に居るが自分でやっていたので熱に耐性があるのだろう

氷魔法とか使えたらいいんだけど


《魔法初心者以下のご主人様では無理です》


次にイフリートは炎の玉で液体金属をより広範囲に分散させ始めた


「闘技場を熱地獄に変えるつもりだ」


この状態をなんとかするには


1.痛覚をカットしイフリートに突っ込む→成功しようが熱でやられて死亡


2.氷魔法を覚えて対抗する→さっき覚えるのは無理と否定されたばかり


3.全身を強欲の盾で覆う→動けなくなり熱で死亡or動けないところを襲われて死亡



3通り作戦を考えたが全部ダメ、なら助けを呼ぶしか


《戦闘試験では助けを呼べません、ここで詰みです。ご苦労様でした》


その瞬間俺の視界は黒に切り替わった


(なんだ?目が見えない?声が出せない?体が動かせない?)


《これより第二試験起動、■■■・■■■■■■を開始します》


ここで俺の意識は闇に飲まれた

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