『あなた』の全肯定
あなたは今、ぱちりと瞬きをした。
長時間の一つの画面を見過ぎて、知らず知らずのうちに目を酷使していたのだ。
一度、目を強くつぶって、大きく開くといい。視界ちかちかと白く瞬くようなら、お疲れの証拠だ。
首の力を抜いて、ゆっくりと何度か回すといい。その後に、ゆっくりと深呼吸をすることをお勧めする。
息を大きく吸うためには、まずは息を吐いて肩の力を抜かなければならない。ため息つくように軽く一息入れてから、お腹を意識する。ぐうっと腹筋を膨らませて、一秒、大きく息を吸う。
そして今度はゆっくりと息を吐くのに合わせて、全身の力を弛緩させていく。
それだけでも、気分は変わる。
気分転換をしてから改めて画面に視線を戻すと、あなたの意識に一人の少女の姿が浮かんでくる。
彼女は、おかしな格好をした少女だ。
透き通った銀髪の、楚々とした容姿の美少女である。着飾ればよく映えるだろうに、身に着けているのは真っ白な貫頭衣のみ。しかも革の首輪付きである。
美しい容姿と裏腹な服装の粗末さは妙だが、なんといっても目に付くのは少女が掲げる看板だ。
『全肯定奴隷少女:1回10分1000リン』
少女が掲げている看板に書かれているのは、初見ではまず理解できない文言だ。少女の姿よりも看板の文字に視線が釘付けになってしまうほど意味がわからない単語が並んでいる。
あなたの心にいる少女が、にこりと笑った。
制度としてとっくの昔に廃止された『奴隷』を連想させる服装に反して、彼女の笑顔に卑屈さは欠片もない。涼やかな美貌に相応しい楚々とした微笑みには、心の警戒を下げさせる人懐こさと優しさがあった。
無意識にこわばっていたあなたの肩の力が、ふっと抜ける。軽く腕を動かして肩を回す。体のこわばりをほぐしたあなたは、せっかくの縁だと懐から財布を出して、中身を確認する。
お金とは、労働の対価だ。あなたの労働の結果であり、誰かに労働をお願いするための単位である。お金そのものがあなた以上になることはないし、あなたもまた他人をお金以下にすることは許されない。
あなたは日々の生活の糧を得るために、あるいは趣味にお金を費やして経済を回している。
財布の中身は決して多くはないかもしれない。
けれども彼女の十分間の料金は問題なく支払える程度のお金はあった。
あなたは紙幣を一枚取り出し、少女に料金を差し出してみる。財布を取りだした時の心の中身には、こじゃれた料理屋に初めて一人で入る時に似た高揚感と緊張感があった。それを期待と勇気で踏み越える。
ちょっとだけドキドキを抱えていると、彼女は紙幣を受け取ってくれた。
口元を隠していた看板を下げられる。
鼻から下を隠していた看板がどけられることで、彼女の全貌があらわになる。血色のいい唇、形のいいあご。あなたが期待した通りの美少女だ。
彼女が口を大きく開ける。
「初めてましてなの!!!!!! 1000リンをもらったからには、あなたのお悩みを全肯定してみせるのよ!!!!!!!」
ぴゅうっと心地よい風が通り抜けたかと錯覚するほどに、はきはきとした声が響いた。
聞いているだけで元気になりそうな声量。肌に響くほど気持ちのいい滑舌のよさ。驚きも、ためらいも吹き飛ばす声だ。
「だからいっぱいいっぱい、お悩みをここで吐き出すといいの!!!!!!!! 全肯定奴隷少女は、一回十分千リンであなたを全肯定するのよ!!!!! ここでの全肯定を記憶して、いつでも、どこでも、あなたの心に全肯定奴隷少女を買うといいの!!!!!!!!!!!!」
春風より勢い強く、秋空よりさわやかな台詞を吹かせた彼女とあなたの瞳の視線を合わさった。
あざとく小首を傾げた少女は、あなたを見つめてとびっきりの笑顔を弾ませる。
「えへっ!」
彼女の輝く営業スマイルにつられて、あなたは自分の悩みを吐き出し始めた。
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全肯定奴隷少女はこれで完結!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
最後まで読んだからにはなぁ!!!! この作品をブックマークして目次下の☆ポイントを入れて遠慮なく感想を突っ込んでオマケにレビューを書いてMF文庫J発『全肯定奴隷少女:1回10分1000リン』のみならず作者『佐藤真登』の著作シリーズを全部購入する義務があるんだよ!!!! なあ奴隷少女!!!!!! お前もそう思うだろう!!?!?!??!?!?
そんなことないの!!!!!! 自分も普段はやらないことを完結のどさくさに紛れて読者に押し付けるなんて作者のくせに汚いの!!!!!! 感想もブックマークも評価も購入意思も読者さまのもの!!!! 作者ごときに口出す権利なんてないのよ!!!!!! 作者はここまで読んでくれた読者さまのためにも、無言で続きの番外編でも書くのがお似合いなの!!!!!!! ぺっ!!!!!!
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