第4話

 扉を開くとそこには階段が下へと続いていて、先が見えぬ暗闇となっていた。

「ここが・・・・・・蔵に続いているの」

「ええ」

ごくりと生唾を無意識で飲み込む音が聞こえた。なんだ、俺にも怖いものがあるのか。

「恐れるほどのものじゃないですよ。ただ、危ないですので・・・・・・手を、手をつないで歩きましょう」

「分かった」

彼女は手をつなぐという言葉に詰まった。やっぱり、見ず知らずの男と手をつなぐってのは嫌悪感があるのだろう。少し悲しい気持ちになったが、それをあえて彼女に気づかれるようなことがないようにした。当たり前のことだ、仕方ない。

ランプは俺が持つと提案し、右手にランプを手にし、左手では手をつないだ。

消えた俺の記憶の中に、誰かと手をつないだりしたという情報はあるのだろうか。分からない、けれど、この手をつなぐという動作が無償に懐かしさを覚えさせた。

蔵に向けて歩き始めてからどれくらい経っただろうか。大分経った気がするのだが、一向に着く様子はなかった。俺が思っている以上にジャンク屋は広いのかもしれない。

後ろを見ても、もうジャンク屋の光はなく、あるのはこのランプのか細い明かりとずっと続く暗闇だけだった。

蔵へと続く道は思いのほか広く、二人が悠々と歩けた。まあ、暗くてそんなさっさとは歩けはしないのだが。

手をつないではいても、本当につないでいるのか自身がなくなり、少しづつ不安が芽生え始める

「まだ、大分先なのか」

辿り着くことのなさそうなこの旅路に不安を覚えた。

「いえ、そろそろ着くはずです。ほら、前を良く見てください」

そこには白いものがうっすらと見えた。あれが、蔵か。

「蔵が土の中にあるってこと?」

「そうですね、半分あってるといえばあってます」

「どういうこと?」

この蔵は元々外にあったものなんです。

なんでわかるの?

それは入ればすぐに分かります。蔵の中に酷く日焼けしているところがいくつかあるんです。蔵には窓があるので、そこから入った日光でそうなったのでしょう。日焼けの具合からして大分長く使われていたようですよ。

じゃあ、半分間違ってるってのはどういうこと?

この蔵は、激しい近くの山の火山活動によって噴出された火山灰によって、埋められてしまったのです。

火山活動?そしたら、そんな長く使えないんじゃないの?

蔵の中に入っていた噴火の年や規模が記されたものを見たところ、火山活動がいきなり始まっているんです。だから、この蔵は元々休火山だった火山が活火山になったせいで埋もれてしまったと思われます。

けど、それだけじゃジャンク屋へは来ないよね?

「正解です。ここへ来た理由を教えてあげたい気持ちは山々なのですが、私にもその理由が分からないんです。・・・・・・さあ、着きました。錠をあけるので、ランプをもう少し上に私のほうへと近づけてもらえますか?」

つないでいた手が解ける。彼女はどこからか鍵を取り出し、目の前の錠を開ける。

確かに古いようだ。

ガチャ

錆びているので、開けにくいのではと思ったが、案外簡単に錠が開いた。

ぼんやりとした灯りの中に暁の顔が浮かぶ。病的な色白さが際立つ。

「ランプを貸してください」

暁は俺からランプを受け取り、蔵を開け、蔵の中に右手を伸ばし何かを探す。

パッ!と暗い蔵の中に光がつく。

電気のお陰で、その蔵の広さが身にしみる。奥行きだけでも大分ある。それのみならず、二階へと続く梯子がかかっていた。

「なんだここ・・・・・・」

あまりの大きさに恐怖を覚える。

「さあ、では、今から探し物をしましょうか」

暁の言葉に驚く。

「え?掃除するんじゃなかったの?」

「いや、そうもいかなくなりまして・・・・・・。どうやら、ここに新たな来訪者がいるみたいなんです。来訪者を見つけ出してください」

そう言って暁はスタスタとどこかへ消えてしまった。

「えぇ・・・・・・、どうすっかな」

困り果てた俺もひとまず暁に倣い、しらみつぶしに探す。暁はどうやらこの階で探しているようなので、俺は上へと行ってみることにし、古びた梯子を登った。

足をおくたびに軋む音が耳へ入ってくる。いつ抜けてもおかしくない。必然的に一歩一歩が重くなった。

灯りがついたと言えど、やはり少々不安が残る。電気が点くってことは、きっとジャンク屋に来てから、そう月日は経っていないんだろう。

暁は来訪者と言った。それはつまり、俺と同じような人が今この蔵にいるということなのだろう。

 彼女はどうして来訪者の存在が分かったのだろうか。それに、どうやって来訪者を探せっていうのだろうか。そこらへんにいるもんじゃないのか?

「それは違うんじゃ」

耳元から聞いたこともないしわがれた男の人の声が聞こえ、ビクッとする。

「そう驚くではない。私が来訪者じゃ」

自らを来訪者と言う声の主は、年配で真っ白な髪の毛と髭は綺麗に整えられていた。

「いらっしゃいませ」

いつの間にか登ってきていた暁が丁寧に挨拶をする。

「おお、暁か。大きくなったな」

「ええ、おかげさまで・・・・・・」

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ジャンク屋 無花果 涼子 @ichiziku121202

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