第3話 蔵

 ガチャ

 扉の開く音を耳にし目が覚める。

 音の要因のほうを向くと、そこには暁が立っていた。

「おはようございます」

 水玉のワンピースを着た暁はとても似合っていて、その華奢さが表立っていた。

 前にもこんな雰囲気の少女に会ったことがある気がする。忘れてしまった記憶の一部なのだろうか。

 顔の見えない彼女は一体誰だったのだろうか。

 深く考えようとすると、頭が少し痛んだ。もしかしたら、記憶障害かもしれない。しかし、これまでにこんなことはなかった。少し成長したのかもしれない。

「朝から、早いんだね」

「はい、今日は、えーっと・・・・・・、一緒にジャンク屋の蔵の中を掃除してもらおうと思いまして・・・・・・」

「蔵?」

「はい、まだ案内したことないので案内をするとついでに、きっと埃被っているでしょうから、手伝ってもらおうと思いまして」

「わかった。じゃあ、蔵行って、ついでに掃除しよっか」

「はい!」

 彼女は、もしかしたら俺が手伝うのを嫌がると心配していたのか、俺の返事に安心したように笑顔で頷いた。

 彼女はこんな笑顔も見せられるのか。

 暁が少しづつではあるが、俺に心を開いてきていることがわかる。それが、どうしようもなく俺を嬉しくさせた。

「ところで暁」

「はい?」

「俺のこと呼びにくくないの?」

 俺の急な質問に、さっきまでの笑顔が困惑を示した。

「と、いいますと?」

「俺が名前わからないせいで、今の俺は無名状態。呼びにくくなのかなって」

 さっき、暁は俺を蔵に誘う時に、言い方に詰まった。これは決して、一度や二度のことではなかった。最初はなんで急に詰まってしまうのか分からないが、どうやら原因は、俺に名前がないことにあるようだった。

「・・・・・・はい、実はとっても呼びにくくて」

「じゃあさ、暁、俺に名前付けてよ」

「え?」

「だから、俺に名前をつけてって!俺の名付け親になってよ」

 俺は笑いながら暁に言う。すると、すっとんきょんな顔をしていた暁も少しずつ笑い出した。

「あははっ、私が名付け親?まだ、そんな歳じゃないですよ。でも、そうですね、ありがたく名付け親になろうと思います。何かこんなのがいい!みたいのはありますか?」

「特にないよ、暁が俺に対して、これだ!って思う名前を付けてよ」

「ん~、そうですね、いきなり言われると思いつかないものですね」

 彼女は腕を組みながら、大真面目な顔をして考える。

 暁の名前にはどんな由来があったのだろうか。ふと考える。彼女の家族が、きっと、色々なことを考えて彼女に暁という名を授けたのだろう。きっと、俺にもそうやって付けられた名があったはずだ。それを思い出せないってのは、なんとなく申し訳ない気持ちになる。

「あ!じゃあ、流れ、歩く人と書いて、流歩というのはどうでしょうか」

「りゅうほ?」

「はい!」

「綺麗な響きだね、ちなみに、その由来は?」

「秘密です!」

 えへへ、と笑いながら髪を耳にかける。

 その動作一つが愛らしさを感じさせた。

「そっか。それで、その例の蔵はどこにあるの?」

「あ、そうでした。じゃあ今から行きましょうか。一度、ジャンク屋のカウンターのほうへ寄ってもいいですか?」

 ジャンク屋のカウンターは木でできていて、所々欠けている。しかし、つくりがしっかりしていて、木の香りも少しだかする。もちろん、ジャンクとして流れ着いた物だ。

 暁は、カウンターについている少々大きめの引き出しを開け中を漁る。引き出しの中には、ストラップや使い終わった切符などが入っていた。そこから、小さなランプを取り出す。複雑な柄をしたランプではあるが、きっと年ものなのだろう、所々錆が付いていた。

 暁は汚れているところを、ティッシュで軽くふき取り、火をつける。

「なんで今火をつけたの?勿体無い」

 俺は疑問を口に出す。

「いえ、こうしないとダメなんです。蔵に行くまでが暗いですから」

 暁は当然かのように応える。

「いや、だから、暗くなってからつければいいじゃん?ってこと」

 暁はクスリと笑い、俺に言う。

「そうでした、流歩はまだ蔵へ入ったことがないんでしたね。蔵は、ここから入るんです」

 そう言って彼女が指したのは、カウンターの下の大きなものを収納するための引き出しだった。

「えっ?」

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