第2話 ジャンク屋
あー、あっつい。
なんで、今日はこんなに暑いんだ。あの白い入道雲がアイスクリームだったら良かったのに。
うちわを扇ぎながらどうでもいいことを考える。
セミの鳴き声が煩いほどに耳の中に入ってくると同時に、風鈴の涼しい爽やかな音色が、暑さでイライラした俺の心を宥めさせる。
記憶を失い、見知らぬ土地で目覚めてから早一週間。
俺はいくつかのできる・できないを教えてもらい、また実際に体験することによって、今の生き方を少しずつ覚えている。
しかし、覚えることばかりで一向に記憶が戻ってくる気配は見当たらなく、また、そのことへの焦燥感もなかった。
果たしてこのままでいいのだろうか。
セミはせわしなく鳴き、入道雲は変化することをやめず、ひたすら新しいものへと進化していく。
汗はとまることを知らずに噴出しつづける。
俺がここで目を覚ました一週間前も、こんな感じだった。
どんな夢を見ていたのかは、もう思い出すことすら出来ないが、目をあけると、そこには知らない女の子がいて、見知らぬ場所で目を覚ました。
見知らぬ場所と言っても、前までの記憶がないため、本当に見知らぬ土地なのかどうかは定かではない。だけど、ここの匂いは何故か安心感をもたらせた。
俺を看病していてくれた暁という少女は、俺がここに来た理由を説明した。
今俺がいるここは、ジャンク屋というらしい。ジャンク屋には捨てられたものが沢山集まるそうで、捨てられたものはジャンクと呼ばれ、その中でも、人々が強く忘れたいと願われたものだけがここまで流れ着くそうだ。誰かが捨てにくるとかではなく、気づけば勝手にある。そんな感じらしい。俺もその例外に当てはまって、気づけばここへ流れ着いていたらしい。一体俺は誰に捨てられたのか
また、極稀にだがジャンクを買いに来る人がいるらしい。
暁は言った。
「ジャンク屋は誰もが来れるわけじゃない。強い気持ちがなければ、絶対にここへたどり着けない」
強い意志をもって、忘れられたものを取り戻すとは一体どういうことなのだろうか。俺には想像も付かなかった。
そもそも何をそんなに必死になって取り戻そうとするのか。それは、一体どんなものなのだろうか。それを暁に聞いても、彼女は教えてくれなかった。
ジャンク屋は、もともと暁のおばあちゃんの経営するお店なのだが、肝心の店長がある悲しい出来事により経営できる状態ではないため、暁が店長代理として受け持っているらしい。悲しい出来事に関しては、申し訳ないと重い深く突っ込まなかったが、誰かが病に倒れたとかそんなところだろう。
このジャンク屋に、暁の家族が姿を現したことは少なくともこの一週間に一度もなかった。彼女の話では、彼女の家族はみんなジャンク屋へ簡単に来れるそうだ。まあ、運営してるんだから、そりゃそっかって思う。外とジャンク屋を自由に行き来することができる彼らに対して、俺はこのジャンク屋からは一歩も外へは出れない。やはり、ジャンクとつけられてしまったのが大きいらしく、人から強く忘れたいと思った俺は外へでることすら許されない。実際、外へ出ようと思ったが、でれなかった。壁にぶち当たるのだ。
息苦しさはあるが、ジャンク屋自体がとても広いし、ひまわり畑と呼ばれるジャンク屋の敷地の一部には外があり、そこに行くことはできるので、あまり退屈はしない。とにかく、ジャンク屋はでかいのだ。
暁の話によると、ジャンクとなったでかい風呂、豪華なトイレ、貴族が住むようなお部屋とベッド、そしてひまわり畑・・・・・・などなどあり、それらはジャンク屋にいる間実際に使用することができるらしい。
俺も、勝手にベッドは借りている。割と寝心地がいい。暁の予想では、失われた帝国か何かの大様の布団だったんじゃないか、と。もしかしたら、違うかもしれないけどそうやって考えると凄く面白い。
暁は言った。
「常に考え方が大切なんです。決して、ここへジャンクとなって流れ着いたものが悪いということだけではないんですよ。この椅子やこのお風呂だって、きっと色々な人が端整込めてつくったから、こんなにも美しいと思うんです。けど、使う人間がよくなかったからここへ来てしまったんですよ」
暁はとても優しい子だ。凄く心優しい子だ。だから、少し心配になる時がある。出会って間もないのに、突如不安にかられてしまうことがあった。
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