ジャンク屋

無花果 涼子

第1話 夢

 深い深い水の底。

長い長い夢の中で溺れる。

救いを求めて伸ばす手を掴んでくれる人はいなく、それどころか気づいてくれる人すら現れない。

体の中に水が入る。けど、決して苦しくない。だって、夢だから。

白と黒の二色化された世界で、生きようと必死にもがく。もがけばもがくほど、どうしようもないことになる。

もう、諦めてしまおうか。

ああ、それがいい。どうしてもっと早く気づかなかったんだ。諦めれば、食いしばって守るもんも、追うもんもなくなる。

長い夢の中で、誰かに何かを伝えたかった。

その誰かも何かも不明確で、ただ、誰でもいい人に、何でもいいから自分の話を聞いて欲しかった。

意気地なしだから、誰にも何も伝えることが出来なかった。

この夢はきっと辛かったんだと思う。

沈んでいく体は鉛のように重い。浮力なんてものは、この夢の中にはなく、沈んでいく一方だ。

そっと目を閉じる。

真っ暗だ。

目を開けても、光はどんどん遠くなる。

もう一度目を閉じる。

匂いも感触も温度もない水中に体を委ねる。

・・・・・・

・・・・・・

体が沈むことをやめた。

ああ、そこについてしまったのだろうか。ここから、一体どうなるのだろうか。

・・・・・・

・・・・・・

違う、何かが違う。

目を開いて下を見るが、そこは海底ではなかった。まだまだ、水は下へと続いている。

じゃあなんだ

上を見上げる。

手だ、誰かの手。

何人かの人が手をとって、必死に呼びかけている。

ねえ、そんなに叫ばないでよ。

どうせ、これは夢だ。そう、夢だ。

いつか夢は消えてなくなる。

だから、そんなに必死に呼び止めないでよ。醒めない夢の中で一縷の光を与えないでよ。


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