第33話 終幕 タマと晴人
「うーん、冷たい……ん?」
湿った様な冷たさと柔らかい感触を感じた晴人が薄目を開けると目と鼻の先に女の子の寝顔があった。寝ぼけてるのか、それとも何かの見間違いなのかと目をこすってもう一度見てみると、そこにあるのは紛う事無き女の子の寝顔。しかもはっきり言って可愛い。だが何か違和感を感じる。何か変な物が頭に付いているのだ。
――コレ、何だっけ……そうだ、ネコ耳だ。って、ネコ耳!?――
ガバっと晴人が起き上がると布団からは女の子の上半身が突き出している。しかも何も着ていない。つまり要するに彼女は裸!?。
「タマ!」
歓喜の声を上げ、女の子を叩き起す晴人。その声に建一が目を覚ました。
「なんだよ朝っぱらからうっせーなー。タマが夢にでも出て来たか?」
呑気に二段ベッドの上から顔を覗かせる建一の顔が一瞬で固まったが、晴人の目にはタマしか映っていない。
「……タマ、お前……死んだんじゃなかったのか?」
そうだ。確かにタマは晴人の目の前で川の中へと消えた。そんな彼女が何故ここにいる?
「うーんとね……わかんないにゃ」
タマ自身もよくわかってない様子で首を傾げている。晴人は尻尾を確認しようとして布団を捲り上げた。何も着ていないタマの尻尾を確認するということは、タマの生尻を見るということだ。
「ふにゃ~、晴人君えっちにゃ~」
タマは初めて登場した時とは打って変わって人間っぽい反応を示した。タマはこの一年間ですっかり人間の生活に馴染んだ様だ。
猫又なら尻尾は二本ある筈だが、確認した結果、タマのお尻には一本しか尻尾が無かった。つまり、タマは猫又では無いということだ。考えあぐねた晴人はタマに川に消えてからどこまで覚えているかを尋ねた。するとタマはこう答えた。
「あのね、水に飲み込まれた時、ちょっとでも人間の学園生活が出来て良かったにゃって。でも、やっぱりもっと晴人君と一緒に居たいにゃって思っちゃったんにゃ。そしたらいつの間にかココに居たにゃ」
「それだ!」
晴人は考えた。猫は怨念が強いと言うが、タマの場合は怨念ではなく、晴人と一緒に居たいという思いが強く、その強い思いが強力な意志力となり、化けたのだ。
「猫又じゃ無く、今度は化け猫ってわけか」
ぼそっと小声で言った晴人の言葉が聞こえたのだろう、タマは悲しそうな顔で言った。
「私、化け猫になっちゃったんにゃ……晴人君……嫌だよね、化け猫にゃんて……」
泣き出しそうなタマを晴人は建一の目も憚らず抱きしめた。
「バッカ。猫又だろうが化け猫だろうが関係ねーよ。タマはタマだろうが」
「晴人君……」
タマの身体は温かった。という事は、死んでから化け猫になったのでは無く、死ぬ直前に化け猫としての力を得たのだろう。
「化け猫ってのは語弊があるな。そうだ、お前は猫娘になったんだ。嬉しいぜ、帰ってきてくれて」
猫娘も猫又も大きな括りで言えば化け猫なのだろうが、そんな事はもはや晴人にはどうでも良かった。タマが帰ってきた。それだけで十分だった。
「私も嬉しいにゃ!」
タマは晴人の身体に手を回すと一番の笑顔を見せた。
今日から新学期が始まる。とりあえず智香のところに行って、登校の用意をさせなくては。帰ってきたタマを見て、智香はどんな顔をするだろうか? 綾たちはどんな反応を示すだるだろうか? 晴人は大急ぎでジャージをタマに着せると、彼女に手を伸ばした。
「タマ、智香さんトコ行くぞ! 早く制服に着替えないと遅刻しちまう!」
「うん、行くにゃ!」
タマが伸ばされた手を取ると、晴人は彼女の手をしっかり握った。タマがもうどこにも行かない様にと。タマもその手をしっかり握り返した。晴人の側にずっと居られる様にと。
了
猫耳は好きですか? ツインテールじゃ無くても良いですか? すて @steppenwolf
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