第30話 タマの置き手紙 ~さよならツインテール2~
正月三が日を三人で過ごし、四日には申し合わせた様に建一に淳二に透、由紀・結衣・順子・綾が寮に戻ってきた。こんなに早く戻ってきたのはこの七名だけだ。という事は、寮に居るのは晴人達だけ。少々ハメを外しても文句を言われる事は無い。
「よし、みんな揃ったところでぱーっといくか!」
お決まりのパターンだ。各自が買ってきた地元のお土産を持ち寄って晴人と建一の部屋に集まった。みんな楽しそうな顔で、特にタマはいつも以上にはしゃいでいる。
「タマ、えらいご機嫌だな。何か良いことでもあったのか?」
健一が声をかけると由紀がとんでもない事を言い出した。
「お正月に晴人君と何かあったりして」
「バカ、そんなワケ無いだろ!」
ジュースを吹き出しそうになりながら否定する晴人。それを聞いて綾は胸を撫でおろした。
彼女は『タマには勝てない』と思いながらも諦めきれず、好意をほのめかせ続けていたのだが、晴人がそれに気付かなかったのか、あるいは気付いてはいたが彼女の気持ちに答えられなかったのか、色よい返事は貰えないでいた。かと言って断られたわけでも無く、依然変わらない状態が続いていた。そして今、いつも以上にご機嫌なタマを見て『自分が帰省している間に晴人とタマの仲が進展したのではないか』という危惧を抱いていたのだ。
由紀の言う『何か』があったとすれば晴人なら否定することは無い。綾は一安心してジュースを口に含んだ。
寮の食堂のおばさんが出てくるのは翌日の五日からだ。タマと晴人の二人の時は智香が食事の世話をしてくれていたのだが、さすがに九人分の食事を作ってくれとは言い難いので夕食は近くのファミレスに行って食べることになった。
メニューを見ているタマの目がカレーライスで止まった。彼女の頭にGLJのレストランで食べた『ミーちゃんも大好き! ごきげんカレーライス』が思い出されたのだった。楽しかった思い出が沸き上がって来て、涙が出そうになるのを堪え、タマはカレーライスを注文した。
時はあっという間に過ぎ、遂に明日はタマに残された最後の日となった。
「いよいよ明日でみんなともお別れにゃ……」
タマは枕を濡らしながら考えた。
――猫又の力が無くなると、身体は元の年老いた猫の姿に戻ってしまうのかにゃ? もし、そうだったらみんなに、晴人君にそんな姿を見られたくないにゃ――
タマは布団から抜け出ると、智香の様子を確認した。
「智香さん……よく寝てるにゃ」
呟いたタマは智香に手紙を書き残して夜の雨の中に消えていった。
朝になって智香が目を覚ますとタマの蒲団が蛻の殻になっていた。トイレにでも行ってるのだろうと軽く考えた彼女の目に入った一枚の紙。それを読んだ途端、智香は慌てて着替えると男子寮に走った。
「晴人君!」
智香は晴人と健一の部屋の扉を叩いた。眠そうな目で晴人が顔を出すと彼女は真っ青な顔でその紙を晴人に突き付けた。そこにはタマの字で書いてあった。
『智香さん、黙って出て行っちゃってごめんにゃさい。もう一緒には居られなくなっちゃったにゃ。探さないで下さいにゃ』
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