第7話 智香を襲った悲しい事
「学園長、なんか凄い人だったな」
「ああ。いろんな意味でな」
晴人がしみじみ言うと健一は呆れ返った様に応えた。しかし学園長をフォローする様な事を智香は言う。
「でも、良い人だったでしょ」
確かに良い人なのだろう。滅茶苦茶な人だけど。ただ、一つだけはっきり言える事がある。
「あんな大人ばっかりだったら日本は御終いですけどね」
「まったくだ」
晴人の言葉に健一が大きく頷くと、後ろから学園長の声が聞こえた。
「おーい、智香君……」
「うっ、ヤバい。聞かれてた!?」
恐る恐る四人が振り返ると、学園長が何やら封筒を差し出した。
「とりあえずコレで必要なもの買いなさい」
智香が中身を見ると結構な数の一万円札が入っていた。
「学園長……」
「タマの生活費なんかは心配しなくて良いから」
感激する智香に学園長は優しく言うと、照れ隠しなのだろうか冗談めかして付け加えた。
「収支報告はしっかりしてもらうがな」
「学園長、なんて男前なんだ!」
「俺が女だったら惚れちまうぜ」
太っ腹な学園長を晴人と建一が称賛の声を上げるが、はたしてこのお金は学園長のポケットマネーなのだろうか? それとも学園の運営費なのだろうか?
「はっはっはっ。じゃ、そーゆーことで」
渡すモノを渡すと学園長は男らしくあっさりと引き上げた。
「じゃあ、とりあえずタマちゃんの服買いに行きましょうか」
智香が言った時、健一が悲愴な顔で叫んだ。
「あっ俺、レポートやらねえと!!」
「なんだお前、徹夜で仕上げたんじゃなかったのか?」
呆れる晴人に建一は両手を合わせて頭を下げる。
「すまん……睡魔に負けちまって……」
晴人の足利将軍に関する面倒臭い持論を聞いているうちに寝てしまった健一だ。レポートを書いている間に眠くなってしまったのも無理は無い。本来ならすぐにでも自分で書かせるところだが、仕方が無い。晴人は口元に微かな笑みを浮かべた。
「しょうがねぇな。ま、タマの件に巻き込んじまったし、俺がなんとかしてやんよ」
「すまねぇ、晴人!」
「智香さん、そんなわけだから悪いけど買い物は二人で行ってもらえるかな?」
智香に頭を下げる晴人。事情が事情なだけに仕方が無い。智香は寮母として建一を留年させるわけにはいかないのだから。
「しょうがないわね。じゃ、タマちゃん行きましょうか。とは言ってもジャージじゃなんだからとりあえず私の服に着替えて行きましょ」
「うん、行く行く~」
喜んで答えるタマ。しかし、彼女は状況を本当に理解しているのだろうか?
寮母室に戻った智香はタマに着せる服を選んでいた。
「これなんかどうかな?」
デニムのパンツと薄手のセーターを選んだ智香は「タマちゃん自分では服脱げないかな?」とタマのジャージのファスナーに手をかけるが、少し下ろしたところで手が止まった。
「タマちゃん……ブラしてない……」
考えてみれば当然の事である。このジャージは裸ワイシャツのタマに晴人が着せたモノ。男の晴人がブラジャーを持っていたらそれはそれで問題だ。
「と、いうことは……」
タマのジャージの下を少し捲ってみると案の定パンツも履いていなかった。
「ショーツは私のでも大丈夫かな? でも、ブラは……」
智香は自分の胸とタマの胸を見比べ、溜め息をついた。
「着けないよりはマシよね」
自分のブラジャーを無理矢理タマに着けさせる智香。
「うー 智香さーん、これ、苦しいにゃ」
タマの大きな胸が智香のブラジャーのカップに納まりきらず溢れてしまっている。
「あれ、智香さん? にゃんか目が怖いんにゃけど、どうかしたのかにゃ?」
もちろんタマに悪気は無いのだが、智香の目から光が失われていた。
「智香さん?」
心配になったタマがもう一度呼びかける。
「あ、ごめんなさい。ちょっと悲しいことがあったものだから」
智香は気を取り直してタマに服を着せ、かかとの低いパンプスをタマに履かせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます