あなたー私目線

「やっぱり、ダメみたい」



椅子に腰掛けて間も無く、ホットココアふたつ、のあと、気持ちをつくる時間もくれずに貴方は言った。


やっぱりって、何。


やっぱりってことは元々ダメだと思っていたの?それなら、


「どうして二年半も。」


思っていたことが、するりと唇の間を零れ落ちていた。



「だから僕、最初に言ったよ。きっとダメだと思うけどって。」



ああ、覚えてる。

私が貴方に告白をした日。

貴方は困ったように笑いながら頷いた。頷いたけれど、頼りなげに髪をかきながら遠慮がちに言ってたね。


ーきっとダメだと思うけど、それでも、いいなら。



覚えてる。覚えてるなぁ。あの時の貴方の声も、そして、私の気持ちも。



ーダメになったらなっただよ!



頷いてくれたことが、嬉しくて嬉しくて。一緒にいてくれるならそれで良かった。ダメになんてさせない、そう思ってた。


だけど、そっか。ダメだったのか。



「それならもっと早くに切り出してくれたら良かったのに。二年半だよ。二ヶ月半とは違うんだよ。」


悲しいやら腹立たしいやら、二年半も一緒にいて結局掴めなかった貴方の心が惜しい。だけどなんだかとっくに諦めはついていて、ここで何を言ってもどんな顔をしてどんな態度を見せても、貴方はもう、私の方ではない何処か遠くに行ってしまうことを、しっかりと分かっていた。



「うん、ごめんね。」



貴方は、笑顔すら見せなかった。だけどしっかりと目を見て言った。


そういうところが、ずっと、遠かった。


きっとそれは貴方なりの正義で、嘘をつくくらいなら傷付けても構わないという信念の元たどり着いた答えなのだ。

淡々と紡がれる言葉には全然余計なものがなく、それなのにその言葉に隠された沢山の気持ちが手に取るように分かってしまう。それは別に貴方と私の距離が近付いていたからではない。貴方が、とってもとっても、素直な人だから。



「もういいよ。貴方に私は、いらないんだね。」



涙は出なかった。とてつもなく悲しかったけれど。



「いらないって表現は、正しくないかな。」



窓の外にぽつらぽつらと人が見える。みんな何処かに向かって歩いている。一人で歩く人もいれば、二人で歩く人もいる。



「いらないんじゃなくて、いちゃ、いけないんだ。」



そう言うと、貴方は、少し笑った。柔らかい笑顔だった。



「うん、分かった。」



さようなら。

私の恋。


貴方の言いたいことはきちんと届いている。いつだってそうだった。不器用な私に反して、貴方はいつでも真っ直ぐに必要なことだけを届けてくれた。



「元気で。」

「うん。」



コトン、とホットココアが運ばれてくる。

少しだけ賑やかな喫茶店で、貴方はウェイターにお礼を言って頭を下げる。


このココアを飲み干したら、きっともう二度と会うことはない。



その笑顔も、声も、仕草も、まだ好きなままだけど。



貴方の隣に居られる人ってどんな人なんだろう。

最後まで、嫌いになったわけじゃないとかお前は悪くないとか、余計なことは一つも言わなかった。ただ、ダメみたい、と。



「さようなら」



誰も悪くない。貴方も、きっと私も。

ただ、ダメになっただけ。

だからこそ、心が割れそうに切なかった。


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