汗をかいたあなたは、徐ろに麦わら帽をはずしてその髪をかき上げた。湿った髪が纏まって揺れたかと思えば、ふっと駆け抜けた温風に梳かされてはらはらとなびく。同時にシャンプーの甘い香りが鼻先をくすぐると、僕はもう、その熱に侵されていた。


あなたはいつも遠くを見ていた。その目が僕の目を見つめる時、それはきっと視線を絡めているようで本当は違っていた。僕の向こうの遠くを見ている。その視線に貫かれた僕は、いつも決まってやっぱり熱くなる。


この熱の逃し方を、僕の身体は知らない。


うっすらと開いた唇が微かに動くのを、僕は見た。何かを喋ったのだろうか。それとも。何か、口ずさんだのだろうか。


この夏が終わる頃、この気持ちも終わるのかもしれない。何故ならあなたは、きっともう、手の届かないところへ行ってしまうから。


手放そうと思えば放せるものを、僕はいつまでも大切にしまっている。それは思い出とは違って形があって、だけど、触れない。ふわふわしていて、だけど強くて、熱い。冷まし方も知っているような気がするけれど、知らないふりをしている。子供でいたいのだ。いつまでも、あなたを心の中に溶かしていたいのだ。


すべてをこの夏のせいにしよう。

あなたを、熱に浮かされた僕を、ぜんぶこの夏にとじこめよう。


口をしめたら、もう、逃げられないかのように。

本当は簡単にこぼれ落ちてしまうそれに、今日も気付かないふりをして、夏に溶けていく。

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