僕
ー「じゃあ、何故。」
行為が終わってもたれかかった君の身体はまだ少し温かかった。クーラーの効いたその部屋で一糸纏わぬ身体はどんどん熱を奪われて、次第に冷えていく。ほんのり汗ばんでいた肌もすぐに乾いて、さっきまで熱く交わっていた視線も、今はもう別々の方を向いていた。
優しい言葉を期待していたのかもしれない。胸元に寄りかかる僕の頭を撫でるその手つきは、仕方無しに撫でてやっている、と語っていた。君の気持ちはもうここにはなくて、いや、本当は最初からなかったのだから、とっくにこんなところにはなかったのだと思う。
僕の中に誰かを見ている
気付くのは簡単だった。その優しさには慣れがあったし、時折見せる表情は僕のためにつくられたものではないと容易に分かった。それでも重なる身体が心地よくて、僕は君を求めた。傷つく事は分かっていた。
好きな人でもいるのかい
聞いてやろうと思った。だけどやめた。戸惑う君を見るのも嫌だし、困らせるつもりもなかった。だけど、どうしたらいい。僕のこの気持ちはどこにやればいい。僕はどこまで、嘘をつけばいい。
お調子者の僕を、君は好きだと言った。いつも元気に笑っていて、へこんだ姿を見せない僕が好きだと言った。だからこういう場所でこそ、君が求める僕でいないと。
だけどさ、
こんな僕でも分かるんだ
君は僕が好きじゃない
僕が好きなのは君だけだけど
君は僕が、好きじゃないだけ。
たったそれだけのこと。簡単なことだね?
上手に作った笑顔で顔を上げると、案の定君は瞼を閉じていて。どこを見ていたんだろう、どんなことを考えていたんだろう。そんなこと、知らない。知る必要も、ないね。
「服着よ、さむい!」
へらりと歯を見せて笑ってやった。
これで満足かい。
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