ぜんぶ、独り言だった
たま。
女
最後に貴方の顔を見たのはいつだっただろうと考えてみたら、最後に貴方の身体に触れた日と同じだった。それはいつも明け方で、笑顔で手を振ってマンションの少し厚いドアを開けると、やけに空が気持ちの悪い色をしているのだ。
ー早起きは心地良いよ
小さい頃、祖母が毎日のように言っていた。私にはそれが分からない。朝五時前の空は薄い雲の向こう側に太陽がコッソリ隠れているようで、いつも急かされる思いだった。
太陽に見つかる前に、逃げなきゃ
だから走った。何も考えずに、逃げなきゃ、逃げなきゃって。見つかってはいけない気がしていた。いけないことをしている気がして。
ーおてんとうさまは、いつだってお前を見ているよ
小さい頃、祖母が言った。
今も、頭の中で、祖母が微笑んでいる。
あの頃はそれがお守りのような言葉に感じていたけれど、今となっては酷く咎められている気持ちにさせられる。
ーお前を、見ているよ
だからせめて、見つからないうちに。
不意に鳴った携帯には珍しい名前。どうやら今日は、日が落ちる前に会えるみたいだ。
だけど、それじゃあ。
おてんとうさまに、貴方と私が、見つかってしまう。
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