箱に入った砂糖菓子
二階には何もなくて、一階は職員が使っていたと思われる部屋がひとつあった。そこだけ異様にきれいだ。まるで最近まで使っていたような。
割れたガラスも散らばっていなくて、書類も、何も散らばってはいなくて。六つの机が寄せ合わせられていて、一つの大きなテーブルのようにされていた。机には、引き出しがいくつかついており、六つともすべて調べてみたが、ふたつだけしか手がかりになりそうなものはなかった。
ひとつは、きれいな白いちいさな箱。もうひとつは、じゃらじゃらと一つにまとめられた鍵の束。そのふたつだけだった。しろい箱は紙でできていたので、すんなりと開けることができた。
「あじさい………?きれい………」
透き通るような空の色をした砂糖菓子が入っている。しろい箱によく映える。つつ、と触るとやっぱり砂糖菓子特有のざらつきが手に伝わった。触っても壊れないし、状態が新しいようだ。これはリリィのものか、それとも。
しろい箱と鍵束をもって、その部屋を後にした。
正面玄関付近にはたくさんのガラスの破片が散らばっている。踏んだら自分の体重でガラスが足に埋め込まれてしまうだろう。ただでさえ一度ガラスで切る痛みを知ってしまっているのだ。近づくにも少し勇気がいった。
ギリギリまで玄関付近まで近づくと、外の景色が見えた。草で覆われていて、人が通った形跡がひとつもない。だって、わたしよりも大きく育っているのだ。見える範囲すべてに生えている。
どうやってわたしはここに来たんだろう。
×××
「リリィ!リリィ、いたら返事をして!」
叫びながら、廊下を走り抜ける。わたしの声だけが静かに反響していて、わたし以外の声が返ってくることはなかった。
一階、二階、三階、ともう一度名前を呼びながら走り回ったが、声は返ってこない。
普段あまり運動をしないせいか、息が切れる。肩で息をしながら、上に上がる。階段を一段上がるたびに足が痛むし、汗が流れて鬱陶しい。汚れている反対の手の袖で汗を拭う。それでもぼたぼたと汗が流れ落ちるものだから、本当に煩わしい。
「リリィ………」
まだ見つけられない彼女の名前を呼ぶ。
少し期待したが、やっぱり声が返ってくることはない。仕方なく、さきほどよりも足取り重く歩く。
四階の廊下を走るほどのスタミナはもう残っていなくて、なるべく大きな声でリリィを呼びながら、歩いた。足下は血で滲んで汚い。病院のように白いこの施設ではかなり目立った。埃と血で赤黒く染まる廊下。ああ、ほんとにわたしは汚い。
四階にもリリィはいなかった。部屋にいるかもしれない、と思ってひとつずつ見て回ったが、誰もいない。
高い位置にある窓から差し込む光は、もうオレンジ色になってきていた。だいぶ時間が経ったのだろう。こんなに長くリリィと両親と離れたことがあっただろうか。
過去に一度だけしかない。あのときはとても怒られた。リリィからも、両親からも。
きっと、また心配している。はやくかえらなきゃ。
「………どうやって?」
ぽろりとあふれた不安はわたしを蝕んでいく。
早く帰らなきゃ、と思っているのに体は動かないし、視界はゆがんできているし、くらくらとしてきている。意識を保つのも難しくて、だんだんと視界が狭まっていく。
「サラ、」
リリィの優しい声が聞こえた気がした。
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