白
目が覚めると、そこは薄暗い地下室じゃなかった。明るい光が差し込んできているが、辺りは埃っぽい。
白い大きな四角いテーブルにわたしは寝かされていた。ここはどこだろう。辺りを見回す。
部屋には、わたしが寝かされていたテーブルがひとつ、窓のガラスにはヒビが入っており、下には割れたガラスと紙が散乱していた。カーテンの劣化具合からここは放置されてずいぶんと経つことがわかる。
どれだけ周りを見回しても、リリィはいない。いない。
最後にわたしが見たのはリリィだ。その彼女がいないのはおかしな話だと思う。口づけをしてからの、そこからの記憶が抜け落ちている。だからなぜ地下室からここに来ているのかわからないのだ。
とにかく、リリィを探そう。
テーブルから降りて、足を地につける。鈍い痛みが足に伝わった。靴を履いてなかったらしいわたしは、下に散らばっていたガラスで足を切ったみたいだ。痛いけど歩けないわけじゃない。なるべくガラスを踏まないようにして、部屋を出た。
「えぇ………」
思わず声を出してしまった。
廊下は広く、かなりの部屋数があり、歩くだけでも大変そうな長い廊下が見えていたからだ。闇雲に歩いても仕方ないのだが、これだけ広ければどこかに案内図くらいはあるだろう。そうじゃなくても、何かここの場所の特定できそうなものだとか。それぐらいはあってほしい。
廊下を歩いて行くと、煤けた案内図のようなパネルを発見した。文字がところどころ掠れて読みにくいが、病室がいくつかあることから、どうやらここは病院だったらしかった。現在地は三階の端で、もう少し歩いた先にはエレベーターと階段があるようだ。ここを降りていけば外に行けるだろう。
しかし、ここがどこなのかわからないまま、リリィがいないまま、外に出たって、場所がわからなければ意味がない。煤けてしまったパネルを服の袖で拭う。拭っても文字は掠れてしまっていて、何が書いてあるかは全くといっていいほどわからなかった。
「………」
部屋を手当たり次第調べていくしかなさそうだ。もしリリィがここにいるなら、どこかにはいるはずだし、もしかしたらわたしを探しているかも知れない。
とりあえずこのフロアを端から見ていこう。ここでじっとしているよりはそちらの方がいいはず。
ひんやりと冷たい床を歩く。
結果から言おう。何もなかった。
ガラスが割れて進めない部屋や注射器が転がっている部屋は、ちらっと見ただけに留めてしまったが仕方ないと思う。それ以外はずいぶんときれいなもので、ベッドがひとつしかなく、余計なものはなにひとつない部屋が続いていた。
「………個室ばっかりだったな」
病院だと思っていたが何かの施設だったのかもしれない。情報が少なすぎる段階でぐだぐだ考えても仕方ないのだ、今度は二階を探索してみよう。リリィがそこにいるかもしれない。はやく彼女にあわないといけない気がする。
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