不許可08

 遠くまで響く声の中、ぼんやりとした視界に、浮かび上がるものがある。それは一本の塔だった。それほど大きいものではない。時計台と言った方が正しいのだろうが、森にとって、長らくそれは時計の、塔であった。小さな頃、それこそ小学校に入る前のころから、夢の中で見てきた光景だった。

 しかし、それもここ最近はその限りではなくなってきていた。

 最初はただの遙かな距離先の塔のようなものであった。しかしこの数週間の間に、それが明確に塔であり、距離は確かに遠く、そしてわずかにそれが時計を有しているというところまで把握できるようになった。

 それは木から吊されたオーナメントのような、飾りをつけていた。風なのか地鳴りなのかにゆられるそのオーナメントは一つや二つではなかった。おびただしい数の飾りが、時計塔から吊されていた。

 歩みは止められなかった.私は確かにその時計塔に向かって歩き続けていた。疲れはなかった。夢の中だから当然だが、砂煙なのかモヤなのか、その輪郭は定かではなかったが、とにかく私はそこに行かなければならないのだと、固く決心しているようだった。

 私は、本当は分かっていた。そのオーナメントは、飾りではない。

 それは、首をつった人々だった。

 そんなことはとうに分かっていた。しかし、それは問題ではない。私はあそこにいかなければならないのだと、そう強く感じ取っていた。

 第一、モヤがかかっているのだ。アレが人だと誰が決めた。

 仮に私がその一群に加わることとなろうと、とにかく行くのだ。

 私は、時計台へと、行くのだ。




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不許可作品集01 賤駄木さんbot @Sendagi_san

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