不許可05
よくある話がさ、駅のホームで電車を待ってて、着いた電車に乗り込んだら、それが当駅止まりの回送列車で、駅員に追い出されるっていうの、あるじゃない? 俺もそれやりかけたことが会ったんだけれど、これから話すのはそう言うんじゃないんだ。
俺は駅で電車を待っていたんだけれど、次の電車まであと十分はあったわけ。ふーんとおもって待ってたんだけれど、待ってる最中に隣に帽子を被った若い男がやってきてさ、隣に立ってるだけでイヤホンから音漏れしてるのがロックだって分かるくらい大音量で音楽聞いてたの。俺、そういうのは嫌いじゃないんだけれど、やっぱり駅のホームな訳だから、危ないよなーって考えてたわけ。
そうしたら駅のアナウンスが流れてさ。
「今度の二番線到着の列車は、各駅停車地獄行きです。ただいま約五分遅れとなっております。まもなく到着致しますので、黄色い線の内側にお入りください」
ってさ。
オカシイじゃん。何が地獄行きだよ、ふざけんなって。俺、なんだかホームをきょろきょろしちゃったんだけれど、その若い男性より俺の方がずっと不注意でさ。
真っ昼間なのに、ながーい駅のホームに、立ってるの俺とその若い子だけだったんだよ。
俺、急にぞっとしちゃってさ、うわーって。で、一歩退いたんだけれど、やってきたのは全然普通の山手線でさ、乗ってる人たちも、目の前通過する様子見てるだけでも、全車両で十人いるかいないかくらいだったんだよ。
山手線だよ? その人数っておかしくない?
「はい、各駅停車地獄行き到着です、電車遅れましてもうしわけございませんでした。地獄まで各駅に停車致します」
とかいうアナウンスまで流れはじめてさ、俺、一歩どころか二歩三歩引いて、そしてらその若い男の子、イヤホン付けてるからなのか知らないけれど、そのまま開いた扉に入っていっちゃったの。俺、声かけようか本当に悩んだんだけれど、出来なかった。そのままこっち見ないで背中を向けたまま、若い子は乗り込んで、扉が閉まって、発車して。
その頃に人がホームにまばらに現れ始めて、電光掲示板見たら「池袋・新宿方面」にちゃんとなってて。
で、線路の方みたら、もう音もなく列車の姿はないの。
俺、未だに思うんだよね。あの男の子、乗るべくして乗ったのか。
あるいは聞こえないままに間違って乗っちゃったのかって、さ。
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