7章

──PTSD(心的外傷後ストレス障害)──

小難しいことがつらつらと書かれていたが、要するにあるショックな経験をするとそれがなんとか障害につながり、どーのこーの…

「…分からん。」

諦めてパソコンを閉じた。

──今朝、滝沢は俺はPTSDだと、言い切った。

「…PTSDって?」

「…太陽が死んだことに双葉がショックを受けてるってことだよ。」

「そら、友達が死んだらそれなりには…」

「そうじゃないよ。双葉、もう気づいてるんでしょ?…あの日、何があったの?」

「…あの日って?」

「あの日だよ!太陽が死んだ、私達が図書室で勉強してた…」

「……。」

「…じゃあ、教えてあげる。

私、帰る時に屋上に人影が見えた。1つは太陽だったけどもう1人は見えなかった。でも多分双葉だったんだよ。あの日、双葉は太陽と屋上にいたの。そこで何があったの?もしかして双葉が太陽を…。いや、そんなことあるわけないって、分かってるけど…。」

滝沢は後半涙声になっていた。

「私もさぁ、太陽が自殺したって聞いた時混乱したよ。するわけないって思った。ショックだった。でも、受け入れたの。だってもう3年も経つんだよ。双葉もそろそろ前を向いてもいいんじゃないの。」

「3年…」

「そうだよ。双葉は太陽がいなきゃつまんないって顔してるけど双葉が太陽しか見てないだけで双葉の周りにはもっとたくさんの人がいるんだよ。」

ふと顔を上げると泣きじゃくる滝沢は黒髪でよく見えなかった。

「お前、髪伸びたな…。」

「え…。」

「3年も経てばそら伸びるやんな。」

俺は笑って滝沢の家を後にした。


俺だけだった。

俺だけがずっと3年前の夏に取り残されている。

なぁ、太陽。

「あの時お前が言っとったこと、ほんまになってるわ。」

そう言ったら自慢げに

「せやろ。」

と、笑うんだろうか。


「生きるって何なんやろうな」

中3になって初めての中間テストが返された時、あいつはたしかにそう言った。

「なんなんやろなぁ。」

冗談だと思って笑いながら返すと太陽はまた机に突っ伏して眠った。

その時は寝ぼけてたのかと思って気にもとめていなかったが、今思えばあれもきっかけだったのかもしれない。

夏休みの宿題が終わらなかったこと。

滝沢が先に帰ったこと。

俺が「何やったん?」と聞いたこと。

屋上の夕焼けが綺麗だったこと。


その全てがきっかけで、もっといえば今までのことすべてがきっかけなのかもしれない。


そのどれかひとつでも違っていたとしたら。夏休みの宿題を終わらせていたら。

滝沢が塾に行っていなかったら。

あのまま聞かずに一緒に帰っていれば。

あの日土砂降りだったら。


そもそも俺と太陽が出逢わなかったら。


太陽は、死ななかったかもしれない。


起こってもいない出来事を、もしかしたら、もしかしたら、繋ぎ合わせているうちにいつの間にか3年が経っていた。

俺はまだ1歩も前に進めないでいる。


忘れられなかった。何年経っても。

「あの日、何があったの?」

滝沢の声が頭の中で反芻する。

あの日──。

太陽は、

佐藤太陽が欲しい、と言った。

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