現実はもういいよな?

街宮聖羅

さあ、ここからだよ?

蒼夜が高校生になって四カ月弱。

慣れない日常に必死になれようとしていた四月が昔のよう。

部活動で青春を楽しんでみようと入部し、わずか二カ月で退部。

勉強だって必死こいてやってるのに学年トップは夢の向こう。

やる気は完全に消えてしまった。


そして現在。

目の前にあるテレビには炎天下の中で必死に白球を追う高校球児の眩しい姿。

何をやっているんだというプレーも青き春の思い出と化すのだろう。

画面前でその姿を見ている蒼汰にはあの白球を追うような気力はない。


「マジであいつらスゲーわ。こんな暑いところで試合なんて」


弱者の羨望。


「そして、俺はクーラーガンガンの部屋の真ん中でコーラ片手に観戦」


無気力の塊。


「俺の青春はもっと華やかな……彼女作って、夏祭りで一緒に花火を見て、最後にキッスで決め。みたいな」


寝言は寝て呟くもの。


「あーあー。雄介も健次郎も部活中だし、あーあー。暇だわーー」


蒼夜の贅沢な一言は夏が勝負の受験生たちが嫌いな一言。


「あーーーーー。暇だわーーーーーーーーーーーー」


高校球児に一発殴られてこい、と言われてもおかしくない。


「あ、そういや。なんか、クラスの陰キャラたちがなんか騒いでたよなー。今年の夏アニメ?だっけ。そういうのが豊作?ははっ。農業じゃねーんだよ」


蒼夜は暗い奴らが大嫌いだ。実際のところ、アニオタグループがクラス内にあること自体にうんざりしている。


「はあ、なんであいつらのことなんかが頭に浮かんでくるんだよ、気持ちわりい」


今の悪口が世界に存在するアニオタの誰一人として届くことはない。


「でも、なんであいつらそんなアニメなんか見てんだろうな。液晶画面に絵に描いた奴らが動いて、人間が声を当てただけだろう?それの何がいいんだか」


蒼夜は今までアニメという概念の表面にしか触れたことがない。

その表面と言うのは夢の国が作り上げたあの作品のことだ。


「それにあいつらって現実を謳歌してないんじゃね?海で遊んぶとかさ。あとは誰かの家に泊まりに行って夜更かしするとか。もっと現実楽しめよ」


そこまで言ったらの回答だろう。

だが、果たして蒼夜にそれについてがあるのだろうか。


「そうだよ、現実楽しまないとな。俺も…………」


ここにきて初めて知る自分の状況下。

たった一人で家に籠り、涼しい風を出す機会の下で居座っているだけ。


「だったら、俺はさっき言ったを楽しめているのか?」


そう、やっと気づいたようだ。


「でも、現実逃避してない……」


けど、いろいろ逃げたんだ。そして今は。


「現実からの逃げ場所に困っているんだ」


そう、気付いてしまったら後戻りはできない。

そして、これこそが人間界が生み出した現実脱出装置に溺れた者の気持ちの一つ。


「まあ。なら見てみるか」


薬をやるような感覚で彼はネット画面の餌食となる。












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