命の飛翔
永崎カナエ
第1話
森は静かに僕を囲んでいる。風が吹き、木や花から優しくて甘い匂いを運んでくる。
キラキラと光る太陽が、ぼくを優しく照らしていた。
地面に転がるぼくは、この世で見る最後の光景を、頭上で叫ぶ兄弟達の声と一緒に記憶する。
おかあさんは戻ってこない。さっき出て行ったばかりだ。戻って来る頃には、ぼくは死んでいる。
落ちた時、十分痛い思いはした。だからせめて、死ぬまでは何にも阻まれることなく、安らかに、眠るように。
おかあさんが語った、どこまでも続く青い空を、この翼で飛ぶ日を楽しみにしていた。
まだ見ぬ世界を心に思い浮かべることは、すごく楽しかった。
兄弟達、おとうさん、おかあさん。みんなで飛ぶ夢を見た。その夢は、光と希望に満ちていた。
目を閉じると、身体が急に軽くなった気がして、思わず目を開けた。
ぼくは空を飛んでいた。
どこまでも広がる、青い空。
暖かい日の光を取り込む、緑の大地。
風を受け、ぼくは軽やかに空を舞う。
そこにはぼくを襲う敵はいない。
そこにはぼくを苦しめる痛みはない。
願った通りの安らぎが、そこにはあった。
でも。
兄弟がいない。おとうさんがいない。おかあさんが、いない。
ならこれは、ぼくにとっての幸せじゃない。
みんながいない空なんて、ちっとも楽しくない。
その時、ぼくを呼ぶ声が聞こえた。遠くからぼくを呼ぶ小さな声。何百、何千回と聞いた大好きな声。
おかあさん!
大好きなおかあさんの声が聞こえた方へ。光の方へ、力一杯羽ばたいていく。
光に包まれながら、ぼくは強く願った。
今度はみんなで、この空を飛べますように。
命の飛翔 永崎カナエ @snow-0
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